判例評釈のツボ(我流です)
博打は昔のように賭場だけでしていただいて,これからは将来につながる(箱物造りではない)地道な「公共」事業(投資)をしていただけませんかね(国内にお金がないわけではないのですから)。そのような大転換のためには,遠回りのようでも,いったん(しかし緊急に!)仕切り直しが必要ではないでしょうか。
今月は,上旬に久し振りに評釈を書きました。結構よいものが書けましたので,乞ご期待!
ところで,評釈の書き方については,院生の頃,非常に苦労していました。そのおかげで,我流ではありますが何となく要領のようなものを会得しましたので,それを書いて後進の方々の参考に供します。役立つようなら,使ってみてください(論文のそれとは違いますし,試験答案なんかとは当然大きく違います)。
まず,論点ごとに学説を整理してそれを事案に当てはめて判決を批評する,というようなのはダメです。そんなものは読んでも面白くないですし,第一,裁判所に何のインパクトもないと思われるからです。
これに対して,評釈の対象とする判決を,従来の裁判例と事案を比較しながら流れの中に位置づける作業は,必須です。
上記のことを踏まえたうえで,私が心がけている主要な点は,以下のようなことです(意図的に原則を外れるときが若干はありましたが)。
1.名宛人は,第一に判決を書いた裁判官,第二に上訴された先の担当裁判官
今後の同種の事案の処理に何らかの働きかけを意図する以上は,この方々に響くところがなければおそらく意味をもたないであろうからです(仕事に打ち込んでいる真面目な裁判官が多いので,意外に,結構読まれているように感じます。国際私法が特殊なのでしょうか?)。
2.内在的な批判であること
裁判所が採ったのと異なる立場からの(外在的な)批判であると,裁判官としては,そもそも立場が違いますからね,といって軽くあしらってしまわれるでしょう(偉い先生の評釈なら別でしょうが)。したがって,あくまで判決文に密着した検討であるべきです。そのうえで・・・
(1)事実誤認の指摘
結論を導くために判決が採った理論的立場の理由付けのなかに事実に反する点がある場合には,それを指摘することは効果が大きいのではないかと思います(なかなかそんな場合に出くわさないかもしれませんが)。
例えば,(以下,拙稿の例で恐縮ですが)船舶先取特権の準拠法につき成立・効力とも法廷地法とした東京地決平成4年12月15日判タ 811号 229頁というのがあります(これをお書きになった判事さんには何の恨みもありませんし,不法滞在外国人の慰謝料の算定基準の判示など,支持できる判示が別件でいくつかあります,念のため)。
この決定の中から1例をあげますと,「船舶先取特権の成立の準拠法については,……世界の海運をリードする英米両国では,法廷地法によるものとされている。」と判示されています。これが事実なら私は降参だった(?)のですが,調べてみると,米国についてはそうではありませんでしたので,拙稿・ジュリ1051号(1994年)126頁,127頁(および海事法研究会誌の論文)でそれを指摘しました(当時は,かなり勇気が要りましたが)。
以来,船舶担保の準拠法に関する事例は,公表されていません。しかし,少なくとも東京地裁は依然として法廷地法によっているらしいですので,現場の必要性からでもよいので理由を付したものを公表していただくことを願っております(拙稿「国際私法の現代化における法例10条・12条関連の改正作業の問題点」千葉20巻2号(2005年)93頁,136-137頁注46)。それがあれば,実務を踏まえての学問的発展が期待できますので。
(2)論理的に一貫していないことの指摘
判決が一定の理論的立場を採る際に,その前提を述べていて,それとの間で一貫性を欠いている場合には,きちんとそれを指摘しましょう。
例えば,国私百選1事件の原判決である東京高判平成2年6月28日金法1274号32頁は,「相続関係者の立場にとどまらず,取引の安全すなわち第三者の利益の保護が考慮されなければならない」という基本前提を示しながら,「相続関係者の内部的法律関係を規律することを主眼とした法例25条(平成元年改正前-引用者注)を適用することは,右の要請に適切に応えうるものではない」としたうえ,法例10条が第三者の利益保護に資することを確認し後者のみで処理しました。
しかしながら,これでは「相続関係者の立場」が無視されてしまっているわけで,論理的に一貫していません。それを指摘したのが,拙稿・ジュリ985号(1991年)136頁,137-138頁です。ほかにも,三井評釈や早川(眞)論文も同様の認識でしたので,上記の基本前提を貫いた場合の結論と一致する,後の最高裁判決につながったのであろうと思われます。
先日書いたものは,これとは逆で,基本前提が貫けないのは基本前提がおかしいからである,という方向での評釈です(活字になるのは,来年になってからですかねえ?)。
(3)判決が採った理屈を同種の別の事案に当てはめた場合に生じる不合理の指摘
おそらく当該事案の妥当な解決のみを念頭に置いて理屈を立てたのでしょうが,その理屈をその射程に入るはずの別の事案に当てはめてみると上手くいかないことがあります。そのような場合には,それを指摘してあげるとよいです。
例えば,国私百選24事件の原判決である東京高判平成12年2月3日判時1709号43頁は,ドイツで登録されてイタリアで盗難に遭って日本に輸入され購入された中古自動車の即時取得の準拠法につき,その復帰地(登録地)法であるドイツ法としました。その実質的な理由として,判決は,「即時取得や外国における自動車の二重登録等の法制度の悪用による盗難車のローンダリング(洗浄)を防止する必要」という-実質法的な-価値判断を挙げています。
確かに,この事案では,復帰地が盗品につき即時取得を認めないドイツだったので,判決の立場によればドイツ法によって-実質法上の-静的安全が図れます。ところが,この理屈を,裏返しの事案(日本で登録されドイツに輸入されたとする)に当てはめると,盗品についても一定の場合には即時取得が認められる日本法によることになり,かえって(この判決が重視する)-実質法上の-静的安全を図りにくくなります。拙稿・ジュリ1193号(2001年)125頁,126-127頁では,この点を指摘したうえで,むしろ-牴触法上の-動的安全を無視できないので他の理由と合わせて日本法の適用を主張しています。他の評釈についても,この判決がドイツ法によったことを批判するものばかりでしたので,最高裁も日本法を適用するに至ったのであろうと思われます。
以上です。
もっといいのがあるという方は,ぜひご教示ください。もっとも,企業秘密に属するのかもしれませんが。。。
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