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2008年11月

2008年11月26日 (水)

「国籍法3条1項等改正法」衆院法務委質疑(その2)

 今回は,先週18日(火)の衆議院法務委員会の質疑から,図抜けて鋭い指摘をされた古本伸一郎委員(民主党)の質疑を抜粋して転載します。質問の順序を若干変えますが,ご容赦ください。会議録の原文は,こちらから検索してください。(http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm


・何が違憲とされたのか

(以下,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○古本委員 では、何が違憲であったかについてもう二、三お尋ねしたいんですが、最高裁は、判決文の抜粋ですが、「四 国籍法三条一項による国籍取得の区別の憲法適合性について」というくだり((1)の末尾-引用者注)で、「日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。」こう述べておられるんですね。
 それぞれについて確認をしたいんですが、まず、憲法十四条にそもそも違反をしているということでありますので、法のもとの平等という概念でいけば、外国人にも基本的な人権は対応されている、こういう立場に立つのが憲法解釈の通説だというふうに理解をいたしております。昭和三十九年に、世界人権宣言によれば憲法十四条の趣旨は外国人に対しても類推される、こういう判決も出ておりますので、そう理解をしたいと思います。その立場に立ちますと、恐らくこの基本的人権については既に保護されているんだろう。これは類推をいたします。
 もう一つでありますが、公的給付金なんですね。これは報道等で大変御懸念の声も出ておるようでありますが、きょうは厚生労働省も来ていただいています。例えば卑近なところで生活保護、あるいは労災保険、あるいは失業保険、さらには年金、さまざまな公的給付があるわけですが、日本人と外国人だからといって何らの差異があるんでしょうか。差別があるんでしょうか。

○坂本政府参考人 御指摘のありました各種の社会保障サービスにつきましては、制度によりまして違いはあるものの、総じて、適法に在留しており活動に制限を受けない外国人については、日本人と実質的に異なる取り扱いはいたしておりません。

○古本委員 例えば生活保護なんかですと、偽装の認知によって日本国籍を取得し、生活保護をある意味かすめ取るといったような御懸念もあるんですが、そんなことというのはできるんですか。

○坂本政府参考人 生活保護につきましては、日本国民を対象にいたしておりますが、適法に国内に居住している実態がある者につきましては、それに準じた取り扱いとして対応しておるところでございます。

○古本委員 つまり、このたびの法改正によって新たに国籍を取得した子が、例えば本件の事案でいけばフィリピン人から日本人になったということによって、従前と従後によって生活保護に差異はない、これでいいでしょうか。

○坂本政府参考人 日本国籍を取得いたしますと、生活保護法の適用を受けるという形では……(古本委員「金額に差はないんですか」と呼ぶ)それは原則として差はないと考えております。

○古本委員 大臣、つまり、公的給付についてはまず差はないようなんですね。
 もう一つ、子たちの将来の就職や、あるいは参政権といった社会への参加という概念も大事なんですが、まずは食べることですよ。まずはこの日本で暮らしていく。今マニラにいらっしゃるのかどうかわかりませんが、生きていくことの方が大事ですよ。
 それから、教育ですね。きょうは文科省も来てもらっています。外国人だと教育が今受けられないんでしょうか。それとも、国籍を取得することによって何か特別な義務教育が受けられるようになるんでしょうか。

○前川政府参考人 外国人につきましては、外国人がその子供を公立義務教育諸学校へ就学させることを希望する場合には、国際人権規約等を踏まえまして、日本人の子供と同様に無償での受け入れを行っているところでございます。

○古本委員 つまり、教育も受けられるんですよ。ただ、就学通知ということで、一年生に上がるときに学校へ行きなさいよという案内が親御さんに行くか行かないかなんですけれども、これもよくよく聞けば、希望者への教育の機会提供ということで、案内はきちっとしているそうです。
 ということで、公的給付、援助という意味では、法改正に伴って特別に何か便益が提供されるという御懸念については当たらないという整理をまずしておきたいと思うんです。

 実は、最高裁の言った中で最後のこれが問題なんです。公的資格の付与なんです。まさにフィリピンのこのたびの原告の少女は、いたいけにも将来警察官になりたいと言っているんですね。つまりは、実は、日本人の父の真正なる血統を受け継いだ子が日本人になってくれて、日本の警察官になって警察行政に関与したいと。もしそうであれば、これはあっぱれですよ。ところが、実は日本人じゃない人が成り済まして日本人になって、警察官になって、その人に逮捕された日には目も当てられませんね。
 (後略)
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(以上,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)

 ここは,重要な指摘です。最高裁の多数意見の判断の前提として,「日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位」という基本認識があります。
 この点,坂本森男厚生労働省大臣官房審議官によれば,「各種の社会保障サービス」について「総じて」(不法滞在外国人についてはともかく)「適法に在留しており活動に制限を受けない外国人については、日本人と実質的に異なる取り扱いはいたしておりません。」とのこと。
 また,前川喜平文部科学省大臣官房審議官によれば,教育についても「日本人の子供と同様に無償での受け入れを行っている」とのこと。

 以上の答弁が信用できるとすると,問題は「公的資格の付与」が中心ということになり,古本委員の言われるように,「実は日本人じゃない人が成り済まして日本人になって、警察官になって、その人に逮捕された日には目も当てられません」。それでも,逮捕くらいですむなら,まだマシですが・・・
 また,次に掲げる附則1条も気になります。

 附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
 一 附則第三条第二項の規定 公布の日
 二 附則第十二条の規定 この法律の公布の日又は行政手続法の一部を改正する法律(平成二十年法律第   号)の公布の日のいずれか遅い日

 こんなに施行を急いでいるのは,早急に参政権が付与されることをどなたかが狙っているのではないかと,邪推してしまいます。

 いずれにしても,上記の質疑の内容からは,最高裁の多数意見の前提に疑問あり,ということが示唆されていることになります。

DNA鑑定について

(以下,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○古本委員
 (前略)
やはり何をもって差別というのかという議論に立ち返りながら少し整理しなければいけないのは、DNAの鑑定等々先ほど来先輩方から出ておりましたが、日本人同士の認知においてはDNA鑑定を求めていないのに、相手が外国人になった途端になぜ求められるんだ、それこそ差別だ、これもごもっともなんですが、よくよく考えますと、民法上の父子関係を設定する認知、つまりは、いわゆる嫡出でない子の認知の仕組みは国籍発生が伴う話ではないんですよ。他方、本件は認知に伴って国籍が得られるんです。この事柄において似て非なる認知だと思うんですが、いかがでしょうか。

○倉吉政府参考人 実は認知というのは、親子関係を、おまえがおれの子供だということをする意思表示、それを届け出ですることであります。日本の法制では、それによって父子関係が発生するとしているだけでありまして、それと今回の国籍取得届について、別の認知をするわけではありません。同じ認知。認知がまずあって、それについて、両親が結婚をしていなくても、認知をしていれば、日本人の血統の子なんだから、届け出によって国籍取得を認めることにしようというのが最高裁の判断でございまして、似て非なる認知という言い方はちょっとずれている、失礼ですが、ちょっとそんな感じがいたしますが。

○古本委員 では局長、言いかえますと、先ほど来DNAの鑑定の話も出ておったように記憶しますが、これをやる気はありますか。

○倉吉政府参考人 DNAの鑑定については、先ほど来御答弁申し上げているとおりでありまして、さまざまな問題があるので、これを採用するのは適当ではないと考えております。
 もう一度繰り返しましょうか、その中身を。(古本委員「理由は」と呼ぶ)
 理由は、まず、このDNA鑑定を持ち込むということは、基本的に認知という届け出行為だけで父子関係を設定させようとしている民法の親子関係の全体の法体系に影響を及ぼす。DNAであれば今まで親子だと言われていた人を簡単にひっくり返せるんだ、こういう風潮になっては困るというのが一つございます。
 それから、あとは具体的な問題でございますけれども、DNAでやるということになりましても、これは認知届を受け付ける市区町村とか、それから国籍取得届を受け付ける法務局がやることでございます。そうすると、DNAと簡単に申しますけれども、それは、検体が間違いなく父と子とされている人からとられているのか、そういうことが判断はできない、その他さまざまな事柄でございます。

○古本委員 今重要なことを言っていただきましたね。現在認知されている父子関係をひっくり返すことになるかもしれないということだったんですが、今、我が国における認知は、認知の際にDNAなんて求めていませんよ。届け出ればいいわけですね。つまり、それは何かというと、例えば前夫の子というのですか、連れ子という言い方が正しいかどうかは、済みません、不適切なら訂正しますが、その子を好意的に認知してきたという歴史的背景もあるわけでしょう。
 そういったことについては、実は実子でないにもかかわらず、その子は新しいお父さんにある意味認知してもらうことによって経済的な背景も強化される等々の中で、実は日本の父子関係においてのこの認知は、極めてその部分については好意的な認知があるということで、好意的な認知に関しては、いわば偽装認知があってもそれは寛容してきたという背景があるんじゃないのですか。そのことを指摘しているんですよ。局長もわかっているでしょう。
 そういった認知と、今回の認知は国籍という大いなるおまけがついてくるんです。これはおまけじゃない、本質ですね。領土であり、国民というのは、我が国にとっての骨格です。その国籍というものが、このたびの認知により付随してくるんですね。だからこの認知は違うんじゃないですかと言っているんですよ。それをずれているとは、あなた、失敬だ。

○倉吉政府参考人 ただいま聞いておりまして、御趣旨がよくわかりました。先ほどの発言は撤回させていただきたいと思いますが、要するに、まず虚偽の認知であるという前提に立って、これまでともすればやられがちであった、養子縁組に近いような、ただ自分の子供にしたいということで、本当は自分の子供じゃないんだけれども、わかっていて認知をする、それを周りの家族も容認して一緒に育てる、そういうことと、違法に国籍を取ってやろう、親子関係がないんだけれども国籍を取ってやろうという意図で虚偽の認知を仮装する、これはもちろん動機が全然違いますので、違うということは御指摘のとおりでございます。
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(以上,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)

 以上のやりとりについては,最初の倉吉局長の答弁の方が「ずれている」と瞬間的に思いましたし,直前の部分で「ずれている」との発言は撤回されてもいます。
 前回の投稿で示唆しておいたように,法務省は,国籍を非常に軽視していることが分かります。でなければ,このような惚けた答弁にはならないのではないでしょうか!?
 古本委員が指摘されるように,私法(民法)上の文脈での私的な認知と,公法(国籍法)上の文脈での国籍取得のための認知とでは,意味が全く異なると思います。その意味で,両者の間で区別(合理的な差別)をしてもかまわないはずです(法務省は,DNA鑑定の実施方法を工夫するような方向の努力はしたくないのでしょう。この点については,次回以後に改めて)。


・日本での出生および居住要件の付加

(以下,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○古本委員 科学的な調査による補完ですとか、いろいろな御議論がありますが、例えば出生場所という観点もあると思うんですね。実は最高裁も、事案の概要説明の冒頭でこう述べておられます。「日本国民である父とフィリピン共和国籍を有する母との間に本邦において出生した上告人らが」と切り出しているんですね。
 つまり、日本で生まれたという事実は少なからず最高裁は意識したと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

 (中略)

○倉吉政府参考人 まず、先ほどの答弁で、申しわけありませんが、最高裁の判決が意識したということを申し上げました。しかし、最高裁の判決について法務当局がこういうコメントをするというのはまことに出過ぎたことでありましたので、お許しをいただいて、撤回させていただきたいと思います。
 その上で、今の点でございますが、法務省として政策としてどうかという問いでございまして、その点についてはさまざまな考え方があり得るところだろうと思いますが、今回は、最高裁で違憲と言われたということ、それから、そのほかの住所要件であるとか日本で生まれたという要件をつけることがどうかということは、補足意見を通じて賛成と反対の意見が争われている。こういう中で、最高裁の判決は、とにかくこのような嫡出子と非嫡出子の間で差異を設けることは差別に当たるんだという判断をしているということから照らして、少なくとも住所要件というものを今回の法案においてつけるということは相当ではないと考えた次第であります。
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(以上,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)

 大法廷判決を口実にして,条文上は,(実効性に疑問の残る)罰則規定を新設するほかには準正婚姻要件を削除するだけという改正案ですが,大法廷判決の射程を考慮していないとは,何たることか・・・。
 ここからは,(日本との結びつきの希薄な!)外国で出生し,あるいは外国に居住している非嫡出子も対象としたい,という意欲を感じます。


・認知する父との同居要件の付加

(以下,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○古本委員 つまり、国籍行政といいながら、実は生地主義か血統主義かというのは、これは根幹の話なんですね。最高裁に言われたから慌ててやったという感が否めないんですよ。
 ですから、きょう論点惹起がまだし切れないのが山とありますけれども、その意味では、本当にこの後、終局、採決ということはまことにもって何ともしがたいものを感じますけれども、もう一点、ぜひ聞いておきたいんですよ。
 そういった上で、どこで生まれたかというのに加えまして、一緒に住んでいるかどうかというのは物すごく大事だと思うんですね。実は今回、違憲だというふうに、〇五年の四月、断罪された東京地裁をもってして、家族としての共同生活が認められない場合、違法と断ずる根拠はないと言っているんですね。つまり、やはり一緒に住んでいるかどうかというのは今後とも大事な観点になると思うんですが、これは重視されますか、されませんか、それだけ。

○倉吉政府参考人 実は、一緒に住んでいるとか、日本に住んでいるとか、そういう要件を新たにつけ加えるということは逆に新たな差別を生むことにならないか。それであれば、嫡出子の、準正によってこれまでそういう要件もなしに届け出でできた方にも同じ要件を課さなければならなくなる。そうすると、今までそんな要件がなくても届け出でできたのに、何でこんな新しい要件がつけ加わるんだという不合理さが加わるということで、そのような新しい要件をつけ加えるということには消極の見解を持っております。
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(以上,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)

 6月13日(金)「日本国籍の希薄化?-国籍法3条1項違憲大法廷判決(その1)」で短く引用した,大法廷判決の1審判決(東京地判平成17年4月13日判時1890号27頁)は,確かに,「日本国民を親の1人とする家族の一員となっている非嫡出子として,我が国との結びつきの点においては異ならない状況にあるにもかかわらず,その父母の間に法律上の婚姻関係が成立している場合には国籍取得が認められるのに,法律上の婚姻関係が成立していない場合にはそれが認められないというのは,我が国との結びつきに着眼するという国籍法3条1項本来の趣旨から逸脱し」と判示しています。この理屈なら,まだ分からないでもないのですけどね。
 倉吉局長の答弁からは,法律上の婚姻も非常に軽視されていることが読み取れますが・・・

 そもそも,国籍法の根幹についての議論もなされずに唐突に改正案が出てきたのが,全く論外の展開であるわけですが,それはおきます。


・国籍行政の範囲の拡大について

(以下,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○古本委員
 (前略)
 実は、本件の議論は、大臣が冒頭趣旨説明をしていただいた文章の最初の一行目に、国籍行政という言葉でおっしゃっておられるんですね。つまり、国籍行政とは何かという話なんです。これは、この範囲を新たに広げることになるのか。今潜在的に権利を留保していた人の権利が行使できるだけであって、範囲が広がる話なのかどうなのか、このことについて少し議論してみたいと思うんです。
 まず、今回の法改正によって範囲は広がるんでしょうか、民事局長。

○倉吉政府参考人 現実に国籍行政の対象、射程範囲になっている人がふえるのかという意味だとすれば、多くの方は、このような、父親に認知をされたというだけ、両親が結婚していないという人は、若干時間がかかります、それなりの審査をいたしますので時間がかかりますが、これまで簡易帰化によって日本国籍を取得する道を選んでいたのではないかな、これはただ推測でございますが、と思われます。
 そのように、多くの人がそうだったとすれば、そういう人たちが、今度は簡易帰化の申請をするまでもなく、届け出で国籍を取得することができることになるだけなので、それほど変わらないのかなという気はいたします。
 ただ、今回の改正によりまして、外国で生活している方が在外公館に対して届け出だけでできるということになります。日本の簡易帰化の要件というのは、少なくとも日本に何年か住んでいるか、住所要件だったかが必要ですので、そこは変わる、その意味ではふえるということになると思います。

○古本委員 恐らくふえるんですね。だから、範囲は広がったというふうに私は受けとめます。
 他方、きょう与党の先生もにわかに動きが、いろいろとやっておられるようでありますが、実はこれは法制審にも諮っていないんですね。(後略)
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(以上,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)

 官僚文化はよく分かりませんが,近年感じるのは,行政は仕事を作り,末端(大学教員も含む)は(!),人は増えずに仕事ばかり増える構造にあることです。現場,特に在外公館において本当に適正な処理がなされるのか,甚だ疑問です。


・法改正により救われる子の数

(以下,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○古本委員
 (前略)
 さらに、救われる子の数ということも多分あると思うんですけれども、これはずばり、何人ぐらい救われると思いますか。それによって法務局の体制やら、入管体制やら、警察当局の動きやら、いろいろなことが変わってきますよ。これはずばり、何人救われるともくろんでおられますか。

○倉吉政府参考人 実は、ちょっと限られた範囲でサンプル調査をいたしました。本件の、両親は結婚していないんだけれども認知された、日本人の父親に認知されて、外国人の母親だ、そういう人がどれぐらいいるのかというのをちょっと類推いたしまして、サンプル調査なので正確とはとても言えませんけれども、その結果では、六百人ぐらいという結論がたしか出ていたかのように記憶しております。

○古本委員 他方、報道によれば、フィリピン人と日本人の間の子をジャピーノというそうですね。この子たちが今五万人控えておるというふうに聞きますね。五万人といったら、ちょっとした町ですよ。全員が仮に日本国籍を取るということになれば、大変な潜在母数が私はあると思いますね。
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(以上,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)

 これほど影響が大きいにもかかわらず,形式的な手続だけ踏めば足りるという与党執行部は,いったいどういう感覚をしているのでしょうか???

 端折って申し訳ありませんが,古本委員がさらに問題提起されている点がありますので,それを引用して終わります。

(以下,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○古本委員 あと、加えて、いつから違憲状態になったのかという論点も実は残っているんですね。違憲状態がいつになったか。最高裁は、昭和五十九年の法改正のときには準正要件は合理的だったとおっしゃっているんですね。その後、平成十五年ごろには、準正と非準正の区別が違憲になったとおっしゃっておられます。途中、平成七年に、民法九百条の四号ただし書きの問題、つまり嫡出か非嫡出かの差別について、これはその後も累次にわたって議論があるようでありますが、これは合憲だとおっしゃっているんですね。直近ですと、事前に事務方から聞きましたが、平成十四年にも合憲だと類推される判断が出ている。そうしますと、ピンポイントで、平成十五年の一体いつから違憲になったんだという話になるんですね。
 きょう厚労省に来てもらっていますけれども、人口統計から言えることで、そんなに劇的な変化があったのかという話も実はあるんですね。昭和六十年当時の非嫡出割合というのは一%でした。そして、違憲だと言われた十五年が一・九%なんです。つまり、このコンマ九%が、この立法府をしてつくった法律が憲法に反していると断罪されるに足る違憲状態になったのかどうなのかという、これは統計的な分析も要るんですよ。

 (中略)

 さらに、日本とのつながりという意味でいうならば、さりとて、国際機関も言っていますよ。お父さん、お母さんと子は住んだ方が幸せだと書いてあるんですよ(児童の権利に関する条約7条1項後段-引用者注)。その居住要件というのは、やはりしっかり確認すべきですよ。重視しないというお話がありましたけれども、これはまことに残念です。
 それから、重要な法的な地位という意味では、この子が将来警察官になりたいというのは、ある意味あっぱれですよ。だけれども、そうじゃない人が、真正なる血統を有さない人が、将来我が国の警察官になろうとしている人が仮にいたならば、これはもう本末転倒、何とかしなければなりません。
 それから、違憲状態も、はっきり言って、平成十五年の一体いつからなったんだというのははっきりしません。これは積み残されたままです。
 それから、偽装認知、偽装結婚の話なんですけれども、真正な血統を持っている今回の原告団のような方の名誉を守るためにも、その真贋の確認は、逆にその方々の名誉のためにもしっかりやった方がいいと思います。
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(以上,08年11月18日衆議院法務委員会議事録から転載)

 人の上に立つ方々ほど,堂々と範を示していただけないでしょうか! 今回の国籍法改正案提出までの経緯は,国の根幹に関わる基本法の改正作業としては,ほとんど例を見ないのではないでしょうか?(通則法の改正作業も酷いもんだと思いましたが,今回はそれとの比較も絶しているという理解です。)

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2008年11月25日 (火)

「国籍法3条1項等改正法」衆院法務委質疑(その1)

 本25日(火)昼前に,ようやく先々週14日(金)と先週18日(火)に開催された衆議院法務委員会の議事録が衆議院HPの「会議録」欄にアップされました。本日13時からの参議院法務委員会の質疑がやや低調なものでしたので,衆議院の方の議事録を転載しておくことも多少の意義はあろうかと思われます。
 そこで,その中でも,「国籍法」が国の根幹に関わる最重要の法律の1つであることを強く認識したうえで充実した質問をされた,14日の赤池誠章委員(自民党)の質疑と,18日の古本伸一郎委員(民主党)の質疑から,転載していきます。今回は,赤池委員の質疑を。

 なお,27日(木)午前10時に予定された参考人質疑における参考人が本日の委員会の最後に法務委員長から明言され,2年前の「法の適用に関する通則法」のときにはそれがなかったことを思い出して,少し感心しました(戦後補償の原告側に立たれていた奥田安弘中央大学法科大学院教授と,遠山信一郎日本弁護士連合会家事法制委員会副委員長(中央大学法科大学院特任教授)とのことです。いずれも中央大学法科大学院というのが気にならないでもありませんし,前者は(後者も?)国籍法改正推進派のはずですので,バランスのとれた人選なのかどうか・・・?)。

(以下,08年11月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○赤池委員
 (前略)
 次に、第二番目の私自身の共同体としての国家の危機の懸念は、この後審議をされる予定であります国籍法の改正についてであります。
 国籍というのは御承知のとおり、まさに国家共同体の構成員を決める大切なルールであります。それが、一般の国民の中に崩れつつあるのではないかという懸念であります。
 本年六月四日に最高裁判決が指摘した違憲状態を解消するために、今回法案を提出されるということであります。しかし、それに先立ってこの数日間、きょうの朝も物すごいファクスと電話、電子メールのすべてが批判であります。反対の意見であります。
 内容を見てみますと、組織的に、同じような内容もある反面、みずからの言葉で今回の国籍法改正に対して大変な心配、危惧を抱かれている国民の方が全国各地、老若男女、そんな反対の声を寄せていただいているということであります。そういう面では、その疑念にしっかり国会としてこたえていかなければいけないということも感じております。
 その中での代表的な疑念、質問を三つ、それぞれ法務当局からの見解をお伺いしたいと思います。
 一つは、国籍取得届の虚偽届けについての刑罰が、今回新設をしようとしているわけでありますが、余りにも軽過ぎるのではないかという懸念であります。二つ目が、偽装認知を防止するためにDNA鑑定の導入を、必ず入れるべきではないかという意見であります。三つ目は、偽装結婚も横行していると言われている中で、偽装認知を防止するためにどのような形で実効ある対策を打とうと考えているのか。
 この三点、法務当局の見解をお尋ねいたします。

○倉吉政府参考人 赤池委員から大変重い御指摘をいただきました。
 今回の改正、最高裁の判決が出た、それに伴う違憲状態を解消するための改正ではございますが、ただいま御指摘のようなさまざまな御批判等々の文書が先生方のところにも来ているということも私ども承知しております。できるだけそのような御懸念、特に委員のおっしゃっていた国家のあり方にかかわるということを十分に踏まえつつ、そのような御懸念のないように私ども精いっぱい努めてまいりたいと思っております。
 簡単に、ただいま御指摘のありました三点について申し上げます。

 まず、罰則の点でございます。これは今度、虚偽の国籍取得届けがされたという前提でお話しだと思いますので、それでされたと。そうすると、害されるのは法務局等の事務の適正や信頼ということになります。しかし、何だ、役所の事務が害されるだけかということになろうかとは思いますけれども、そうは申しましても、国籍取得に関する事案というのは、日本国の構成員である日本国民の資格、これを適切に認定するための重要な責務であります。
 そこで、類似の規定を見てみました。例えば、戸籍の記載または記録を要しない事項について虚偽の届け出をするという戸籍法百三十二条という規定がございます。あるいは、外国人登録法の関係で、その申請の関係でさまざまな虚偽の申請をするということが起こり得る。これについて定めている外国人登録法十八条というのがございますが、これらの規定の法定刑がいずれも一年以下の懲役または二十万円以下の罰金でございます。そこで、これに合わせまして今回も一年以下の懲役または二十万円以下の罰金としたところでありまして、これ自体は適切であると考えております。
 一つつけ加えさせていただきますが、よく誤解されやすいのが、いわゆる偽装認知、虚偽の認知をして届け出をしたときはこの一年以下だけなのかというふうに誤解されている向きがあるということでございます。
 この一連の届け出をいたしますには、まず認知届けというのを市町村に父親がいたします。そうすると、それについて、父親の戸籍の身分事項欄に、子の○○、どれそれという子を認知したというのが載るわけでございます。それから、その戸籍の証明書を持って法務局に参ります。それで、今回新設するこの罰則に当たるところですが、国籍取得届けというのをいたします。法務局では、そこで国籍があるという証明書を出しますと、それを持って今度、三回目、また市町村に参ります。そこの市町村で新たに届け出をいたしますと、今度はその子が日本人になるということになりますので、その子供の戸籍を新たにつくる。つまり、三段階あるわけでございます。
 この第一の段階と第三の段階で、認知が実はうそなのに、親子関係がないのに虚偽の認知をしたということで届け出をしたということになりますと、これは公正証書原本不実記載等、戸籍に載りますので広く世の中をだますことになる、こういうことでございます。この罪名で、五年以下の懲役または五十万円以下の罰金となります。
 だから、それぞれ個々の事案で、恐らくこの三つまで行ってしまうというのが多いだろうとは思いますが、途中で発覚して途中にとどまったとしても、それぞれの罰が科されるということになるので、適正な科刑ができる、こう考えているわけでございます。

 それから、DNA鑑定の話がございました。偽装認知のためにDNA鑑定すべきじゃないかと。これもよくわかる議論なんですが、実は、委員の皆様方御承知と思いますが、日本の民法の親子関係を決める手続というのは認知で決まる、そのときにDNA鑑定を出せなんということは言わないわけでございます。ここに家族の情愛で自分の子供だと認知したというんだったら、それでとりあえずの手続を進めて、後でおかしなことがあったら、親子関係不存在とかそういうのでひっくり返していく、あるいは嫡出否認なんかでひっくり返していく、こういう法制度、これが日本の独特の制度でございます。
 それを踏まえますと、DNA鑑定を最初の認知の段階で持ち込むことになりますと、やはり親子関係法制全体に大きな影響を及ぼすな、これを私どもとしては考えざるを得ません。
 さらに幾つか問題がございまして、一つは、DNA鑑定で一番難しいのは、検体のすりかえがないかということであります。すりかえられた検体で来られるとみんなだまされてしまいますから。それから、現在の科学技術水準に合ったきちっとした鑑定ができているか、そこを判断しなければなりません。しかし、それの判断が迫られるのは、最初の認知届が出される市区町村の窓口あるいはこの国籍取得届が出される法務局であります。そういうところでそんな判断はできないという、ここに大きな問題が一つございます。
 それから、鑑定には相当の費用がかかります。そうすると、この費用の負担能力がない人にはどうしても手だてがない。それから、外国国籍の子を認知する機会にはDNA鑑定を義務づけるとすれば、それは外国人に対する不当な差別ではないか、こう言われる可能性もあるということで、DNA鑑定の採用については消極に考えております。

 それでは対策できるのかというのが先生の一番おっしゃりたいことだと思うんですが、申しわけありません、長くなって。
 法務局では、最初に国籍取得の届け出が参ります。これには届け出人が出頭することが必要でありまして、また必要な戸籍などの書類を出していただきます。そのときに、当然に必要なことを聞きます。お父さんとどこで知り合ったのかとか、どこでどういう過程で子供ができたのかというようなことは聞きますし、その関係で必要な書類も確認をいたします。場合によってはというか、これはほとんど必然的だと思うんですが、その父親についての協力も求めたい、こう思っております。その子供が懐胎した時期に同じ国に滞在していなかったんじゃないかとか、そういう疑義が生じたということになれば、偽装認知の疑いもあろうかということになりますので、関係機関とも連絡を密にして、さらなる確認を続けるということで、不正の除去に努めてまいりたい、こう思っております。
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(以上,08年11月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

(1)罰則について
 倉吉敬民事局長によれば,「虚偽の国籍取得届け」の罰則を新設するために比較の対象としたのは戸籍法132条と外国人登録法18条ということですが,前者については日本国籍の取得という重大な効果が伴っているのであって,決して後二者と同列に論じられるものではないと思います。倉吉局長が「そうは申しましても、国籍取得に関する事案というのは、日本国の構成員である日本国民の資格、これを適切に認定するための重要な責務であります。」と仰ったのは,文脈上は何の意味もなく,単なるリップサービスなのですね(直後に出てくる公正証書原本等不実記載罪よりも,はるかに軽いのですから)。
 ちなみに,公正証書原本等不実記載罪(刑法157条1項)の法定刑は確かに「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですが,公表事例を調べますと,懲役2年とか,執行猶予の付いたものとかが普通にあるようですので,併合罪で7年6月以下の懲役又は120万円以下の罰金になる(刑法47条本文・48条2項)としても,実際にどれくらいの刑罰が科されることになるのか,疑問が残ります(余計なことですが,第一と第二の段階だけ,あるいは,第二と第三の段階だけが罪に問われる場合には,6年以下の懲役又は70万円以下の罰金(刑法47条但書・48条2項)になりますか?)。
 特に被疑者に同情しうる事情でもあれば(最近これに弱いでしょ!),抑止効果はほとんど期待できないのではないでしょうか?

(2)DNA鑑定について
 これについては,多くの方が指摘されているとおりで,法務省がこれをやりたくない理由を並べているという印象です。18日の古本委員ほかの質疑でも採り上げられていますので,そちらで触れます。

(3)偽装認知を防止する実効ある対策について
 国籍取得の届け出人に関係書類の提出を求め質問をするとか,父親の協力を求めるとかによって「不正の除去に努め」るとのことですが,実際には相当に裁量が広くなりそうですね。万一「不正の除去」が功を奏しなかった場合その危険は国民が負うことになるのですが,その責任はいったい誰がとってくれるのでしょう?

 ちょっと時間がないので,今回は,赤池委員の格調高い(私の趣味です)意見を引用しておきます。

(以下,08年11月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○赤池委員 今後の具体的な審議に、それぞれさらに突っ込んだ議論をお願いしたいと思います。
 今回国籍法が導入されたきっかけというのは、先ほど言いましたように、最高裁の大法廷の判決であります。当初は、最高裁の判決だからすぐにこれは法改正せざるを得ないと私自身も思っておりました。しかし、これだけ国民多数の反対意見に接して、改めて最高裁の判決文を読みました。そこで驚いたことがあります。
 十五名の最高裁判決で、多数意見は、その違憲の理由の根拠として、社会経済の環境の変化とか、夫婦の家族生活、親子関係の意識の多様化、非嫡出子の割合の増加、社会通念、社会状況が変化している、国際化だ、諸外国の動向だ、国際条約、規約を理由に挙げているわけです。一見もっともらしいわけでありますが、しかし、最高裁の三名の少数反対意見は、その一つ一つに関して統計データを使って、日本人の家族生活、親子関係の意識の変化はある程度あるにしても、国民一般の意識として大きな変化はない、例えば非嫡出子は二十年間で一%から一・九%にしか増加していない、日本人を父、外国人を母とする数も五千人から一万三千人にしかふえていない、西欧の三〇%や少ない国でも一〇%が非嫡出子である国とは違うんだということを明確に述べているということであります。
 私は、国民常識は最高裁の多数意見よりも少数意見にあると思わざるを得ませんでした。最高裁判決でも間違っているものは間違っていると言わざるを得ないというのが率直な感想であります。
 先ほど裁判員の中で、国民に身近で頼りがいのある司法を実現したいということを目指していると思いますが、そういう面では、最高裁こそ国民の常識から外れて、裁判員制度が最高裁に必要ではないかと思わざるを得ないわけであります。国籍法改正は、今回、慎重にも慎重を期すべきであるということを申したいと思います。
 (後略)
--------------------------
(以上,08年11月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 大法廷判決の多数意見と反対意見を対比している部分は,6月13日(金)「日本国籍の希薄化?-国籍法3条1項違憲大法廷判決(その1)」の最後部と,6月14日(土)「同(その2)」の冒頭において,判決の原文を引用してあります。
 「最高裁判決でも間違っているものは間違っていると言わざるを得ないというのが率直な感想であります。」と仰るのは私も同感で,(国籍の本質的意義を熟考せずに)遺伝的な繋がりがあれば問題ないと言ってしまうと,別の問題ではありますが,借り腹による代理出産における母子関係の決定に影響してくるのではないかという懸念をもっています。この点については,改めて書きます。

 とりあえず,ここまで。

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2008年11月21日 (金)

日本人間の同乗事故の事例

 国籍法改正案をめぐる一連の流れから再確認したことは,誰が国民のことを一番に考えて一心に行動しておられるかをよく見ておいて,選挙ではそのような方を選ぶ(そうでない方には退いていただく)という基本的なことが近年では特に重要だということです(このままでは,政権交代も危険すぎると思えてきました)。

 さて,国籍法改正案については心ある方々が多くの問題を指摘されていますので,私の方は自分の仕事に戻ります(法務省の民事局長だけでなく,始関正光官房審議官も民法と国籍法とを同列に論じておられるようですが,法務省は民法と国際私法の違いさえ正確には認識していませんので,むべなるかな,です)。

 今回は,アルゼンチンでの日本人間の自動車同乗事故の準拠法をアルゼンチン法としつつ,それは看板だけで実際には日本法で処理したと理解できる,福岡地飯塚支判平成20年3月14日判時2014号 120頁を採り上げます。

 事案は,被告Yと訴外AがYの取材目的の旅行として,平成17年9月20日頃,日本を出発してアルゼンチンに赴き,同月29日朝(現地時間28日夕方)に発生したY運転の自動車の事故により同乗していたAが死亡し,Aの両親であるXらがYに対して損害賠償請求したというものです。
 で,Xらの主張も,Yの主張も,判決も,いずれも筋が悪いのですが,それぞれ確認していきます。

 まず,Xらの主張から。

 ア 不法行為責任について
  (ア) 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)……を本件に即してみると,当事者(Y,A及びXら)の常居所地が日本であること等に照らして,アルゼンチンよりも明らかに密接な関係を有する他の地(日本)の法によるものとする同法20条に該当する。

 (中略)

従前の法例の上記関係条項(11条1項-引用者注)は,……国際社会の実情に合わず不合理性が顕著になっていたことにかんがみれば,不備を抱えた従前の法例をそのまま本件に適用することは,著しく不適切であり社会正義に反する。
 よって,本件については,法例33条の公序による外国法適用の排除に規定及び法適用に関する条理により,アルゼンチン法でなく日本法を適用すべきである。

 これは,どういうふうに理解すればよろしいのでしょうか??? 「不備を抱えた」法例11条1項「をそのまま本件に適用することは」できないとすると,いったいどの規定から何法が導かれるのでしょうか? という疑問を抱えつつ次の段落に移ると,「不備を抱えた従前の法例」の一部である「法例33条」が出てくるので,ますます訳が分からなくなります。
 善解すると,おそらく,法例11条1項からアルゼンチン法が出てくるのだが,そういうことは「著しく不適切であり社会正義に反する」ので,法例33条によりその適用が排除されるという意味なのでしょう。
 しかしながら,公序則の発動要件に即した主張でもなく,とても解釈論とは言えないと思います。判決に一蹴されているのは,無理もありません(但し,Xらの主張が正確に判決文で整理されているとは限りませんので,ご注意ください)。

 次に,この点についてのYの主張。

 ア 不法行為責任について
  (ア) 本件事故は,アルゼンチンにおいて発生した事故であるから,準拠法は,不法行為地法であるアルゼンチン法である。

 (中略)

  (ウ) 通則法施行以前に適用されていた法例においても,33条に,外国法の適用が公序良俗に反する場合には外国法を適用しないとの規定があったが,本件と同様の事例でそのような認定をされたものはない。

 これまた,少し驚きました。(ウ)における「同様」というのがどの程度のことを指すのかにもよりますが,国外での日本人間の自動車同乗事故という程度であれば,岡山地判平成12年1月25日交通民集33巻1号 157頁があります。この事件では,準拠法は事故地であるサウスダコタ州法だとしつつ,被害者の両親固有の慰謝料・弁護士費用・遅延損害金についてはサウスダコタ州法の適用を公序違反としています(但し,このように公序則を乱発するのは準拠外国法の内容をできるだけ尊重する国際私法の基本に照らしておかしいのであって,最初から準拠法を日本法とすべきであったことは,拙稿〔判批〕ジュリスト1226号(2002年) 115頁で述べたとおりです)。
 そもそも,(ア)が疑問です。本件は,たかだか1週間程度アルゼンチンに滞在していたところで発生した事故であって,当事者の事情を含めた事案全体を考えれば,最密接関係地は明らかに日本です。そうだとすると,カナダへの1週間程度のスキーツアーの3日目に発生した接触事故につき「原因事実発生地法」(法例11条1項)を日本法だとした千葉地判平成9年7月24日判時1639号86頁が想起されるべきです(日本法を導く理由づけの一部に妙な理屈が紛れていますが,重要部分には賛成できます。拙稿〔判批〕ジュリスト1155号(1999年) 281頁。さらに,石黒一憲『国際私法 第2版』(新世社・2007年)352頁参照)。

 このYの主張を受けて,代理人と同期の裁判官は,まず次のように判示しています。

法例11条1項によれば,本件においては,不法行為地法であるアルゼンチン法が準拠法となる。

 これが疑問であることは,直前に書いたのと同様です。しかしながら,判決にはさらに大きな問題があります。「三 争点(4)(損害)について」の次の部分です。

 (3) そこで,以下,上記アルゼンチン民法の規定に基づいてXらの損害を算定することとなるところ,Yは,その算定に当たり,アルゼンチンにおける損害賠償に関する法令,考え方,裁判例等に基づいて行うことになる旨主張する。
 しかしながら,損害賠償の算定が,上記アルゼンチン民法の規定に基づいて行われなければならないことは当然であるが,同法の規定を前提としつつ,具体的にどのように損害を算定するかは,法解釈の問題であって,準拠法の問題とは異なるものであるから,当裁判所の行う損害の算定が,アルゼンチンにおいて一般的とされる考え方や同国における裁判例等に拘束されるものではない。

(下線は,判例時報では縦書きのため傍線)
 「具体的にどのように損害を算定するかは,法解釈の問題であって,準拠法の問題とは異なる」とされるのですが,意味不明です。「法解釈」というと,法例により導かれた「準拠法」の解釈も必要なのであって,Yの主張する立場が通説です。
 善解すると,「具体的にどのように損害を算定するか」の問題を(実体問題ではなく)「手続問題」と性質決定して法廷地法による裁判官の裁量を根拠づける有力説(例えば,石黒一憲『国際私法〔新版〕』(有斐閣プリマ・1990年)96頁)に沿ったもののようでもあります。しかし,仮にそうであるなら,つまみ食いではなく,最密接関係原則という基本に忠実であるところまで見習って,始めから不法行為の準拠法を日本法とすべきだったのではないでしょうか!(アルゼンチン法を一旦は準拠法とすることが,いったい誰の利益になったのでしょう???)

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2008年11月17日 (月)

国籍法違憲判決が覆る可能性

 国籍法3条1項につき違憲の判断を下した最大判平成20年6月4日民集登載予定(裁時1461号3頁)の存在から,国籍法「改正」に反対しても有害なだけであるとの議論があるようです。しかしながら,最高裁の大法廷判決といえども,後に判例変更の可能性はあります

 2年半近く前に出された大法廷判決を覆した大法廷判決の実例としては,古いものですが,利息制限法に関する最大判昭和39年11月18日民集18巻9号1868頁が挙げられます。

 債務者が、利息制限法(以下本法と略称する)所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は民法四九一条により残存元本に充当されるものと解するを相当とする。その理由は後述のとおりである。従つて、右と見解を異にする当裁判所の判例(昭和三五年(オ)第一〇二三号、同三七年六月一三日言渡大法廷判決、民集一六巻七号一三四〇頁参照)は、これを変更すべきものと認める。

 今般のマスコミも(産経新聞以外?)沈黙して,国会議員も直前まで知らないような形で,ジュリストの11月1日号でも関係する諸点の検討の必要が説かれているにもかかわらず,(だからこそ?)気付かれない内に潜行して法改正してしまおうというような某衆議院議員を中心とする動きは,民主主義を根底から破壊しかねないと危惧するものです。今後の世論の動向を注視します。

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2008年11月15日 (土)

国籍法改正案-赤池誠章法務委員の質疑

 昨14日(金),衆議院法務委員会において,赤池誠章委員(自民党)により,国籍法改正案に対する質疑がなされました。

・赤池誠章衆議院議員のブログ(http://akaikemasaaki.spaces.live.com/blog/cns!27D9834FB685DFCD!1232.entry
・上記質疑の映像(
から検索してください)。http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.cfm?ex=VL

 今国会にはまた共謀罪もかかっていますし,13日(木)の参議院法務委員会における前川清成委員(民主党)の質疑を拝見しても,法務省の劣化は目に余るのではないでしょうか!!

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2008年11月14日 (金)

国籍法改正?-政治家ブログ

 12日(火)に,国際私法関係者のメーリングリストを通じて,国籍法にも造詣の深いK教授からメールが配信されました。その中で,興味深いブログ記事として,河野太郎衆議院議員(自民党国籍法プロジェクトチーム座長;「法例」廃止当時の法務副大臣!)の以下の2本が紹介されていました。
・重国籍に関する座長私案(http://www.taro.org/blog/index.php/archives/945
・国籍法3条(http://www.taro.org/blog/index.php/archives/933

 そこで昨日,私の方は,城内実前衆議院議員(郵政民営化法に対して安倍晋三衆議院議員の説得を振り切って果敢に反対票を投じられた)の以下のブログ記事を紹介しました。
・「国籍法」の改悪に反対する!(http://www.m-kiuchi.com/2008/11/11/bakawashinanakyanaoranai/

 読み比べてみてください。それにしても,世も末ですねえ。

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2008年11月11日 (火)

椎名麻紗枝=今西憲之『無法回収』

 一時金給付につき高額所得者には辞退を求める,ということになるようですが,「嘘つきが得をする」ということで,昨今の規制の緩い市場競争において「嘘つき」の跋扈を許してきた構造を温存する(Not CHANGE)という発想なのですね!? 呆れました(居酒屋の件も,ですが)。

 ところで,最近,椎名麻紗枝=今西憲之『無法回収 「不良債権ビジネス」の底知れぬ深き闇』(講談社・2008年)という近刊を読みました。これは,(ある角度から書かれた)久々の超重要書籍だと判断しますので,金融法制度の検討の素材の1つとされることをお薦めします。

 まず,章立てから。

序章 「債権回収」の無間地獄
第1章 骨までしゃぶる「回収の闇紳士」
第2章 RCCの罪と罰
第3章 回収の手先と化した裁判所
第4章 京都の名刹をめぐる「謀略」
第5章 RCC歴代社長のスキャンダル
第6章 棄民国家・ニッポン
終章 「ハゲタカ」から国民を守る方法

 貸金業法の改正による「サラ金崩壊」以後,債権回収業務に活路が見出されているようで,「第二のサラ金地獄」の様相を呈してきているようです。国を挙げての(国策としての?)恐ろしい現実が書かれてあります(今や,最後の頼みの綱である裁判所さえも,信用できなくなりつつあるような・・・)。引用したいところがたくさんありますが,控えます。ぜひお読みください(金欠の学生さんは,図書館に購入申請するといった方法もありますね。マスコミがこぞって持ち上げる人物には,後々のために,少し警戒する癖をつけた方がいいですよ(教訓))。

 2カ所,引用させていただきます。

バブル崩壊後,不良債権に苦しんでいた金融機関は,サービサー(債権回収業者-引用者注)を歓迎した。
 (中略)
あまりに不良債権が膨大だったため,国は金融サービサー法(債権管理回収業に関する特別措置法-引用者注)を整備し,公的資金を金融機関に注入せざるをえなかった。それは要するに,「税金」という形で国民にツケをまわしただけの話だ。
 その結果,得をしたのはだれか。金融機関の弱みにつけ込み,ごくごく安価で債権を仕入れ,たいへんな高値で転売して暴利を貪った者たちだ。そこに利益が生まれても,支払った税金を使われた国民には,1円たりとも還元していない。
 そればかりか,それまでになかった「回収のスペシャリスト」が数多く誕生した。中には救われた人もいるのかもしれないが,圧倒的に多くの人々が不幸な結末を余儀なくされた。

 (中略)

 『Q&Aサービサー法』(法務省債権回収監督室編,商事法務研究会)の監修者となっている自民党の杉浦正健衆議院議員は,弁護士資格を持ち,自民党ワーキングチームの座長を務めた,いわば金融サービサー法の生みの親の一人である。
 (中略)そこ(同法-引用者注)に決定的に欠けているのが,取り立てられる側,「債務者の視点」だ。

(以上,椎名=今西・前掲 44-45頁)

不可解なのは,港債権回収は,三井住友銀行からは4000万円程度で買い取っているらしいのに,港債権回収の代理人の弁護士によれば,W・ケイマンカンパニーはその翌日に,港債権回収から9000万円を超える高額で買い取っているらしいことだ。
 (中略)考えられることは,港債権回収は,投資家から高い評価を得るために,高い回収実績を出す必要があったのではないか,ということだ。事実,港債権回収は,スタンダード&プアーズから,商業用ローン・スペシャル・金融サービサーの評価として,日本初の最上級評価「能力が極めて高い」を付与されている。

(椎名=今西・前掲 60-61頁)

 「らしい」「らしい」とあるように,債権が実際にいくらで売買されているかを確認することは,なかなか難しいようです。
 それはともかく,2つの部分(およびそれらの前後)を眺めると,個別に疑問を感じてきたことが繋がってくるように思われます。

 法例廃止の発端は,平成13年3月30日に閣議決定された「規制改革推進3か年計画」において,債権譲渡の対第三者効力につき債務者の住所地法を準拠法としていた法例12条に(それがバルク・セールの障害になるという-筆者注)クレームがついたことにありました(2006年4月19日(水)「『法の適用に関する通則法』参議院法務委員会通過-特に規制改革との関係で-」を参照)。
 そして,それが通則法23条に「改正」される過程では,債権者の常居所地法を準拠法とすべきだとする「たたき台」までが現れる始末でしたが,幸いなことに,それは斥けられました(この「たたき台」によれば,ケイマン法人による債権譲渡の対第三者効力については,ケイマン法が現実に準拠法とされる事態が生じていたことになりますね)。しかし,この「たたき台」だけでなく,通則法23条にも,「債務者の視点」は欠けています(例えば,拙稿「国際私法の現代化における法例10条・12条関連の改正作業の問題点」千葉大学法学論集20巻2号(2005年)93頁,特に, 111-118頁, 125-129頁参照)。

 通則法が成立した当時の法務大臣は,偶然なのか(必然なのか?),杉浦正健衆議院議員で,杉浦大臣(当時)には,日本国憲法の原文が英文であることが何かよいことのように答弁されたことに驚いたことがありました(2006年4月24日(月)「『法の適用に関する通則法』名称ほか」の後半参照)。
 しかしながら,これには米国製の制度に対する抵抗感のなさが表れており,それが債権者の債権回収のための制度改正に突っ走った司法エリートたちの根底に流れているものと共通するものでもあるのだろうと推測します(その根底に流れているものの原因として推測される点については,2008年3月15日(土)「日本のエリートの致命的弱点」参照)。
 そして,ここに,「信用」崩壊の一因でもあるのではないかと疑われる「格付け会社」がからんでくるとなると,一貫した構造の存在が疑われることにもなりますね(この関連では,2008年4月1日(火)「格付け制度の破綻?」参照)。

 いろいろと思索する契機として貴重な書籍ですので,ご紹介しました。

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2008年11月 5日 (水)

国籍法3条1項等改正法

 驚きましたが,早くも昨4日(火)に国籍法3条1項違憲最高裁大法廷判決を受けた改正案が衆議院にかかりましたので,本則のみ引用しておきます(附則の方がはるかに多いのですが,省略します。そちらについては法務省HPのリンク先からご確認ください)。

○国籍法の一部を改正する法律 

 国籍法(昭和二十五年法律第百四十七号)の一部を次のように改正する。
 第三条の見出し中「準正による」を「認知された子の」に改め、同条第一項中「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した」を「父又は母が認知した」に改める。
 本則に次の一条を加える。
 (罰則)
第二十条 第三条第一項の規定による届出をする場合において、虚偽の届出をした者は、一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
2 前項の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第二条の例に従う。

(附則略)

 それにしても,ずいぶん慌ただしくことが進んでいくようですが,最高裁判決の射程や影響などを検討した形跡が感じられないのは,何か大きな力が働いているということなんでしょうか??

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2008年11月 1日 (土)

H20新司国私第1問を中心に

 一時金と引き換えに,(用が済んだ)数年後からは恒常的に負担増だなんて,あまりにも感覚がズレすぎていて・・・。 雇用や福祉の構造「改善」といった方向に話が行かないのは,住んでいる世界があまりにも違うからなのですね(この関連で(?)渋谷で不当逮捕があったとかで,ネットではちょっと騒ぎになっているようですが。。。)

 大学祭にかこつけて年休をいただいたのですが,結局お仕事をしているという貧乏性!

 最新のジュリスト1366号(11月1日号)で,「国籍法違憲訴訟最高裁大法廷判決」の特集が組まれていて,興味深く拝読しました。特に,高橋和之=岩沢雄司=早川眞一郎「〔鼎談〕国籍法違憲判決をめぐって」(44頁以下)では,高橋教授による「憲法から見た国籍」(46頁以下)の指摘に(他分野の人間としては)啓発される感じがあり,また早川眞一郎教授による全体にわたる鋭い指摘群に自分の問題意識を再確認させられるところがあります。(早川眞一郎先生が国際私法学会の中心に立っていただけるようになれば,学会が浮上する可能性も出てくるのでしょうが・・・ 統制的な現状では,まだまだ難しいのでしょうか?)
 もしお時間があれば,私の過去ログ(6月13日(金)「日本国籍の希薄化?-国籍法3条1項違憲大法廷判決(その1)」および6月14日(土)「同(その2)」)にもお目通しいただければ幸いです。

 さて,今回は,今年5月に実施された新司法試験の国際関係法(私法系)の第1問について,批判的に若干の検討をさせていただきます。もちろん,私には何の権威もございませんので,批判的に眺めていただければ幸いです(以下,引用は法務省のHPに掲載されている「出題の趣旨」)。

 設問1は,成年被後見人の遺言能力の有無を問うものである。遺言能力の準拠法を定める規定は法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第4条,第5条か,第37条か,同条の「遺言の成立当時」とはいかなる時点かを検討して準拠法を決定し,実質法の本件事案へのあてはめの結果を説明することが求められている。

 結論から言うと,この出題(およびその趣旨)は疑問です。まず,4条,5条か,37条かを検討せよとのことですが,『別冊法学セミナー2008』の神前解説(342頁以下)や基本書などを見ていただければ分かるように,遺言能力などの身分的行為能力は各身分関係の準拠法によるというのが圧倒的な通説です。他に書くべきことが多くある中,このような検討をする受験生は,この点を問題視される方の授業を受けたか,逆に勉強が致命的に足りないかのいずれかでしょう。また,単純な知識を問うているだけですので,本番の緊張からど忘れして暫くの間ちょっとしたパニックになった受験生もいるかもしれませんね。
 これと比較すると,離婚の際の親権者の決定の準拠法を問う平成18年の第1問設問3は,基本的知識を問うている点では同じように見えても,連結点の決め方に着眼した議論ができるかを見ることができ,それによって性質決定一般についての応用能力があるかも測ることができますので,問題の質としては段違いです(初歩的な論点すぎますが)。

 設問2は,遺言の方式の有効性を問うものである。まず,遺言は,遺言の方式の準拠法に関する法律(以下「方式法」という。)第2条が掲げるいずれかの法の定める要件に合致しているときは方式上有効とされること,方式法第5条の規定により,遺言の際の証人の立会いや,被後見人が遺言能力を回復している時に遺言がされたことの証明の方式も「遺言の方式」の中に含まれることを指摘し,その上で,本件事案への方式法第2条の適用の結果を丁寧に述べ,本件遺言は日本民法の要求する方式は満たしていないが,甲国民法が要求する方式は満たしていることを説明する必要がある。そして,証人を1名で足りるとしている甲国民法第T条第2項の規定の適用が方式法第8条の「明らかに公の秩序に反するとき」に該当するかどうかを検討することになる。

 こちらは,最後の点を除くと,標準的でしょう。ただ,設問1と併せて,理論的な深みがないうえ準拠実質法の適用にややウエイトがかかっているので,昨年の問題と比較すると(民事法とは区別された選択科目の国際私法としては)物足りない感じですね。また,選択的連結なので甲国法上の方式を充たしている点にのみ触れれば足りるのであって,出題者が「本件遺言は日本民法の要求する方式は満たしていない」ことの説明も要求しているのだとすると,出題者の要領の悪さが目につきます(この点も,その説明を省略する神前・前掲解説342-343頁の方が信頼できます)。いったい,採点基準はどうなっているのでしょう??
 また,方式法8条の公序審査の検討を要求しているのは,あまりにセンスが悪いと思います。というのは,遺言保護のために多数の選択肢を用意した選択的連結が2条で採用されていますし,8条でもそれを受けて「明らかに」とあるわけで,もし裁判所がこの程度の内容の違いで公序審査をするようなら要領が悪すぎますし,この法律の趣旨を理解していないのではないかという疑問さえもってしまいます(ここでも,神前・解答例(367頁)が甲国法上の方式の具備を確認してあっさりと終わっているのを支持します)。この点にも配点されているのであれば,前段とも併せて,少しばかり出題者の適格を疑ってしまいます。

 設問3は,本件遺言による認知の有効性を問うものである。認知の有効性を定める規定は通則法第37条か,第29条か,同条第1項後段及び第2項前段の「認知の当時」とはいかなる時点か,甲国民法第P条が要求する後見人の同意は通則法第29条第1項後段の「第三者の承諾又は同意」に該当するか,準拠実質法上Yが本件遺言を承諾しているかを検討することが求められている。

 この設問は,意表を衝くなかなかの問題だと思います。遺言認知の場合の29条2項の「認知の当時」の意義については,基本書などには当然書かれているもんだと思って確認してみると,意外なことに,平成元年改正前法例につき折茂・各論343頁に記述があるくらいで(神前・前掲解説343頁のとおりで),少々驚きました。これについては,国際私法独自の解釈もありうるとは思いますが,うちの3年生に聞いてみると,その多くは遺言の効力発生時を意味し遺言の準拠法によって決まるという解釈を採っていました(私も最初にこの解釈を思いつきましたし,神前・前掲頁も同様のようです)。
 なお,神前・前掲解説と解答例は,出題の趣旨が検討を求めている最後の点を落としているのではないでしょうか? ただ,この点は,結構難しいのではないかという気もしています。つまり,「認知の当時」のAの本国法である日本法によると,民法782条で「成年の子」については「承諾」が必要ですが,ではYが「成年」か否かについてはどのように判断するのでしょうか?
 この点,山田204頁注1を参照すると,2つの筋が考えられます。1つは,日本民法上の概念ですので日本法でよいという考え方で,これだと「A死亡の時点においてYは20歳」なので「成年」となり,YがAの遺産分割請求をしている点を捉えて,その前提として認知を「承諾」していると認定することになるのでしょう。もう1つは,「成年」か否かは通則法4条1項によりYの本国法である甲国法だとする筋があって,これだと甲国法の関係規定が示されていませんので,場合分けをすべきことになるのでしょうか?(ちょっと,厄介な問題です。)

 以上,第1問を単年度で見れば,まずまずと言えます。ただ,今回は,技術的に過ぎるという感じがします(言い換えると,国際私法の「心」が見えない)。また,3年分をトータルで見ると,第1回に続いて周辺的な領域の問題であり,疑問を覚えます。中心的なところから堂々と,受験生の努力の程度を試してやるぞ,といった出題にしてもらえませんかね。きちんと勉強している学生たちが,気の毒で仕方ありません(レベル的には,十分対応できますが)。

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