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2009年3月 7日 (土)

船舶先取特権の準拠法に関する最近の裁判例

 国民の資産を食い物にしている疑いの濃厚な郵政民営化にまつわる問題は,本当に根が深いようですね。テレビではあまり採り上げられませんが,国会の予算委員会や総務委員会では精力的に解明が進んでいるようです(審議の日から相当に間が開いたりしますが,アップされてくる会議録をご参照ください)。騒がれている問題に,あまり目を奪われない方がよいのではないでしょうか?

 書きたいことがいろいろと溜まっていて,ぼちぼち書けるかと思っていましたら,昨6日(金)に船舶先取特権の準拠法に関する実務家による貴重な論文を見つけましたので,今回はそれについて書くことにいたします。

 船舶先取特権の準拠法について,従来の通説・裁判例は,その成立につき被担保債権の準拠法と旗国法とを累積適用し,その効力につき旗国法によるとしてきました(この立場の最も新しい公表事例は,広島高決昭和62年3月9日判時1233号83頁(評釈は6本ありますが,知られていない拙稿のみ掲げます。東京大学商法研究会編『商事判例研究(38)昭和62年度』(有斐閣・1997年)157頁))。
 さらに学説は多様に分かれていたところ,4年開いて,船舶先取特権に基づく保険金債権への物上代位の事例である,東京地決平成3年8月19日判時1402号91頁,東京地決平成4年12月15日判タ 811号 229頁の2件が,相次いで法廷地法を準拠法としました。

 その後なぜか裁判例の公表がなく,実務では法廷地法説が定着したような感じがしないでもないわけですが,他方,上の2つの事例における差押えの対象は(船舶でなく)保険金債権であって事案が異なるうえに,東京地裁の理由づけが事実に反するものであったりした(拙稿・ジュリスト1051号(1994年) 126頁,127頁)ために,どれほど確立したものか,大きな疑問も残っていたところです(私は,再三書いていますが,裁判例の公表を強く期待しています)。

 そうしたところ,松井孝之=黒澤謙一郎「法の適用に関する通則法施行後の船舶先取特権の準拠法をめぐる最近の議論および裁判例について-近時の定期傭船者倒産事例の紹介」NBL 899号(2009年)28頁において,ご本人の手掛けられた最近の5件の裁判例が紹介されています(34-37頁。ちなみに,32頁の本文中に出てくる「森田教授」とは私のことですが,助手の頃に書いた前掲・拙稿からの一部引用ですので,何か気恥ずかしい感じもいたします。とにかく,思い切って書いておいてよかったと思います。いずれにしても,採り上げていただいて感謝申し上げます)。

 で,事案が必ずしも詳細でないので残念ですが,そこに出てくる5件に共通しているのは,被担保債権の準拠法によって船舶先取特権の不成立が導かれているところです(但し,うち2件は法廷地法との累積,1件は旗国法との累積,1件は現実所在地法との累積が説かれてもいます)。
 (船舶抵当権と処理を分ける理由がないと考えますので)累積には全く賛成できないのですが,全体を通じて見ると,被担保債権の準拠法をベースにしたというようにも理解できますので,事案によっては結論には賛成できるものかもしれません。ただ,被担保債権が関係するのは35頁の図の「船舶燃料供給会社Y(香港法人)」と「定期傭船者Z(香港法人)」であって,燃料代金債権の準拠法は確かにこの両者の規律には適切ですが,これが「船主X」との関係まで規律することには疑問が残ります。「船主X」の事情についても情報が記載されていると,なおよかったと思うのですが・・・

 28頁冒頭の要旨に「船会社の代理人として」とあり,34頁の右の段の6行目に「筆者が代理する船主」とありますので,船舶先取特権の不成立を導き出す香港法(=被担保債権の準拠法)が船主にとって有利であったために,松井孝之弁護士はその適用を主張された,とも受け取れます。この点,問題は,Yと,(Zではなく)Xとの間に存在しているのではないかと私には見えますので,そうであれば,むしろ,燃料供給時の船舶の現実所在地法が準拠法とされるのが適切であったようにも思われます。

 いずれにしても,船舶先取特権の準拠法についてはまだまだ検討が十分でなく,従来の議論を検討されたうえで裁判実務が必ずしも法廷地法の適用で固まっているわけではないことを紹介されるこの論文が非常に貴重なものであることは,間違いありません。いずれご教示いただく機会がありましたら,たいへんありがたく存じます。

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コメント

こちらこそ黒澤弁護士と私の書き物を取り上げていただき、ありがとうございます。ある裁判官は、面接で「東京地裁の決定はよくできているから覆すのは大変だよ」と最初は言っておられましたが、森田先生の論文を証拠で提出してから明らかに雰囲気が変わりました。森田先生に助けていただいたような事件です。一度、お礼に食事でもお誘いしては失礼かな、と考えています。松井孝之 拝

投稿: 松井孝之 | 2009年3月12日 (木) 20時00分

松井孝之先生

 早々に拙ブログを発見されコメントをいただきまして,どうもありがとうございます。
 私にとっては過分なエピソードを書き込んでいただきまして,たいへんありがたく存じます。拙文がお役に立ったのであれば,しばらくぶりに日の目を見た拙文が,たいそう喜んでいることでしょう(もちろん,私も,ですが)。
 そのうち当方が落ち着いたらご教示をいただけないかと考えておりましたので,喜んで近々ご連絡申し上げます。

投稿: 森田博志 | 2009年3月12日 (木) 23時38分

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