「国際裁判管轄法制に関する中間試案」に対する意見
今年の夏は,トンボや蝶をよく見かけます。夏休みも,あとわずかになりました。
さて,法務省が「国際裁判管轄法制に関する中間試案」に対して意見募集していることは,前回の投稿の後半に書いて,関係文書にリンクを張っておきました。私も,若干の意見をお送りする予定です。期限まであと数日ありますので,現時点での内容をここに掲げておきます(このままお送りすることになる可能性が高いですが,見落としなどに気付けば若干の修正をすることもあり得ます)。
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「国際裁判管轄法制に関する中間試案」に対する意見
(千葉大学教授 森田博志)
国際裁判管轄に関して裁判所が採用する「特段の事情論(修正逆推知説)」およびそれに基づく具体的な事案処理は概ね支持できるものであり,そもそも立法は不要であると考える者であるが,「中間試案」の一部につき立法を前提とした愚見を申し上げる(意見の順序は,「中間試案」のそれを若干変更する。また,意見を示さない点は,賛否いずれでもない)。
第6 国際裁判管轄に関する一般的規律-賛成(但し,若干の疑問あり)。
最判昭和56年10月16日民集35巻7号1224頁(マレーシア航空事件)の後,東京地裁を中心とする下級審が積み上げ,最判平成9年11月11日民集51巻10号4055頁において最高裁も採用するに至った,「特段の事情論(修正逆推知説)」を規定化することには賛成である。
ただ,諸判決が掲げる「当事者間の公平」という理念における「公平」を,何故に一般人になじみの薄い「衡平」と言い換えるのか。国民には,分かりにくい言葉遣いではないか(民訴法17条の存在は,理由にならない)。疑問である。
なお,緊急管轄の規定を置かないのであれば,「第1から第5までの規律」について「日本の裁判所に訴えを提起することができる場合」を緩やかに設定しておく必要があるはずだが,これら5つの規律には「管轄配分説(修正類推説)」の影響が強く出ている部分があり,その部分については本規律との間で整合性を欠くことになってしまっているのではないか。
第1の3 法人その他の社団又は財団に対する訴え ①-「主たる」を削除すべきである。
第2の4 事務所又は営業所を有する者等に対する訴え ①-削除(但し,第1の3①を上記のように変更することが前提)。
せめて1点,ぜひ要綱案においてご確認いただきたい。現行民訴法では4条5項に相当する規定により日本に管轄が認められたマレーシア航空事件の事案について,被告はマレーシアに本店を有していたため,第1の3①による管轄は日本に認められなくなる<この点には反対であり,被告が日本に営業所を有していた以上,原則として日本に管轄を認める規定にすべきである>。他方,第2の4①によれば「日本国内……の事務所又は営業所における業務に関するもの」であったか否かが重要な基準となるが,マレーシア航空事件の事案についてはどのように判断されるのか(業務関連性の有無については,争いがある。塩崎勤〔調査官解説〕法曹時報37巻6号(1985年)182-183頁参照)。日本に管轄を認めたマレーシア航空事件最高裁判決の結論に賛成するのが多数説だと思われるのであり,この点の確認くらいは明確にしておいていただきたい。
また,このような事案においては,旅客運送契約の一方当事者(被害者)が「消費者」に該当するとは限らず,他方,被害者の遺族などについて弱者保護が要請される事案も多いであろうことは十分に想定できる。
なお,②については,いずれも①の趣旨に合わせることになるので,省略する。
第2の3 財産権上の訴え ②-甲案に賛成。
「特段の事情論」を積極評価する立場からは,ここでも緩やかな規定を置いておき,第6の規律によって個別の事案に即して具体的妥当性を図るのが筋だと考える。
第2の6 不法行為に関する訴え-「ただし」以下を削除すべきである。
日本における結果の発生が通常予見することができない場合であっても,日本における被害者にとって外国のメーカー等に対する損害賠償請求訴訟を他国で提起することが過大な負担になる場合がありうることは,容易に想定できる。「ただし」以下は,外国の加害者の保護に傾きすぎたものであり,その保護は第6の規律の一要素として個別の事案に即して判断すれば足りると考える。
また,(注)には賛成である。なお,二次的・派生的な損害の発生地も「不法行為があった地」に含めるのは穏当である。
(第2についての後注)-賛成。
債務不存在確認の訴えについては,対象債務,管轄原因等が多様でありうるとの「補足説明」に特に異論はない。
第4の3 消費者契約に関する訴え ①-甲案に賛成。③イ-丙案に賛成。
①について,「特段の事情論」を積極評価する立場からは,ここでも緩やかな規定を置いておき,第6の規律によって個別の事案に即して具体的妥当性を図るのが筋だと考える。
③について,消費者保護の観点から,管轄合意の効力を認めることにはできるだけ慎重であって然るべきだと考える。
第5 併合請求における管轄権 ④適用除外-いずれにも反対。
日本の基準によれば専属管轄であるべき事項であっても,問題となる「外国」においては専属管轄とされていないことも考えられるのであり,いずれにしても第6の規律によって対応すれば足りると思われる。
第8 国際訴訟競合に関する規律-乙案に賛成。
訴えの先後にのみ決定的な地位を付与する甲案には,考え方の基本において全く賛成できない。また,さすがにもはや「補足説明」にも掲げられていないが,甲案に親和的なものとして,東京地判平成元年5月30日判時1348号91頁を挙げる方もおられるかもしれない。しかし,この判決は,むしろ,外国で先行する訴訟の承認可能性の予測の困難さを浮き彫りにしたものである。甲案は,「……見込まれるときは」内国後訴を「中止」するという形で承認予測説を薄めて採用しようとするものと解されるが,「見込まれる」程度で内国後訴を規制しようとするのは甚だ疑問である。
乙案でも,第6の規律による内国後訴の規制は可能であり,それと同旨と解される先例もある(東京地判昭和59年2月15日下民集35巻 1=4号69頁,東京地判平成3年1月29日判時1390号98頁)。
甲案を採用しつつ第6での規律も行うとしても,第6の規律によって日本の管轄が否定されれば本規律の出番はないし,逆に第6の規律によって総合的に判断してもなお日本の方が適切な法廷地だと判断される場合に本規律を働かせてしまっては,処理として統合失調的な印象を受ける。さらに,「国際訴訟競合に関する規律」として甲案の内容のみが条文化されるとすると,かえって我が国の規律について諸外国に誤解を生じさせてしまうのではないか。
甲案の採用には反対である。
以上
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