法律

2009年11月 8日 (日)

教育と音楽,あるいは奨学金

 仕事がようやく一段落しましたので,久し振りに更新します。

 この間,ラトル指揮ベルリン・フィルのブラームス交響曲全集を聴き続けています。全く,飽きが来ません。
 ブラームス自体は今までそれほど好きだったわけでもないのですが,例えば交響曲第1番だと,ベートーヴェンの重たい影(重圧)に耐えて作曲したブラームスの葛藤の凄絶さを表現したと聞こえるバーンスタイン指揮ウィーン・フィルの演奏とか,勢いよく絞り出された圧倒的な充実の和音で始まる重厚なカラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏とか,かつて聴き込んだ若干のCDがあります。それでも,あとしばらくは,ラトルの全集があれば十分かな,という感じです。

 ところで,先月から石黒先生のご好意によりゼミに参加させていただいているのですが,前回のゼミで,あるゼミ生に先生が「ベルリン・フィルやウィーン・フィルよりスゲエ!」と声をかけられ,そんなオーケストラがそうそう存在するわけがないし,いったい何のことなのかと思っていました。
 ゼミが終了すると,そのゼミ生が近寄ってこられ,私のブログを見て私がチャイコフスキーが好きだということで,あるオーケストラの演奏を紹介してくれました。そのオーケストラとは,

 シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ

 NHK教育の芸術劇場で2月に放送されたこのオーケストラのことは,今まで全く存じませんでした。
 ベネズエラには,貧しい子供たちが犯罪や麻薬などに走らないよう,また非行少年の更生にも資する「エル・システマ」という国による音楽教育制度があるのだそうで,具体的には2歳半から無料で楽器の貸与を受けて音楽教育を受けることができ,全国各地のオーケストラに参加して,能力を開花し伸長させていくのだとか。それらのオーケストラの最高峰が,「シモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ」というわけです。
 確かに,楽器の演奏が上達するために練習することだけでなく,オーケストラでは各人がきちんと弾くことに加えて全体との調和も考えないといけないので,非常によい教育になるのだと思われます。それに,高い芸術に触れ続けることは,人間としての成長をも促し続けてくれることになるでしょう。ということで,非常に興味深いシステムです。

 この青年オーケストラが昨08年12月に来日公演し,12月17日の分が芸術劇場で放送されて,これを観る機会をいただいたことになります。そして,半信半疑で見(聴き)始めたところ・・・

 最初は,ラヴェルの「ダフニスとクロエ第2組曲」で,まさに「夜明け」にふさわしくデリケートに始まり鳥たちがさえずり・・・,なかなかやるなあ,といった感じ。「無言劇」も美しい。そして,「全員の踊り」に至ると,内心でわくわくしながら楽しげに演奏しているのがこちらにも伝わり,しかし決して演奏が雑になることなく丁寧に抑え目に演奏しているので,かえってこちらの方がわくわくしてしまうといった感じ。

 メインは,チャイコフスキーの交響曲第5番。私は,チャイコフスキーの交響曲では,2・5・6番が好きで,5番もよく聴きます。
 で,この演奏の圧巻は,第1楽章から休みなく演奏された第2楽章でしょう。均質な,指揮者のグスターボ・ドゥダメルとオーケストラが心を一つにした演奏で,テンポを落としてじっくりと切々と歌い上げていて,この純粋な心の深さで私の中での評価は決定的なものになりました。

 こんなに音楽する喜びに満ち溢れた,熱い熱いコンサートに出会えることは,一生に何度もあるものではないでしょう。この日に東京芸術劇場に行かれた方は,最高に幸せだったですね,きっと。

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 話は換わって,米倉明先生が戸籍時報に連載されている「法科大学院雑記帳」は,示唆に富んでいるので,ほぼ毎月読んでいます。
 9月号については(気が向けば)別の機会に別のものと合わせて書くことにして,今回は10月号(646号)42頁の「(その56)おかねのない者は法曹になるな?」について,前半に書いたものと「教育」という点で関係しますので,ここに書きます。

 (今頃になってもフリードマンを引用されるのはどうかと思いますが,それはさておき)以下の問題意識から書かれています。

 法科大学院,新司法試験……,より広くは法曹養成制度のスキーム自体,および,それが果たしている機能を観察すると,「貧乏人は法曹になるな」,「悪いことはいわないから,貧乏人は法曹の道を諦めなさい」と,声には出さぬにしても,実質的には,声高に叫んでいるといえるような印象を,私は消すことができない。これは私だけの偏見のしからしめるところなのであろうか。

(米倉・前掲43頁)
 実は,私も同様の印象をもっています。
 で,47頁以下で掲げられている「貧乏人閉め出しのスキーム」の第一の「適性試験」から始めますと,これが法曹の適性をきちんと評価するのに適性のある試験であるという声を,少なくとも私は聞いたことがありません(費用対効果が,低過ぎやしませんか)。また,この点は,各法科大学院が入試で評価すれば足りる話ではないのでしょうか? そのように変えれば,受験生の経済的負担がそれだけ軽減するのは間違いありません。
 次に挙げられている,はるかに重要な点は,法科大学院に合格した後の,入学金・授業料・生活費です(同48頁)。法科大学院生には,実際にはアルバイトをしている余裕はないはずで,逆にアルバイトをしているようではおそらく新司法試験の合格レベルには達しないでしょう。そうしますと,国立の授業料でも年間約80万円かかるわけで,それに生活費や基本書・参考書代など考えると,学生当時の私だったら(一時期は法曹志望でもありましたが),最初からやはり法曹は諦めますね(2000人も合格するのなら,現役でなくても合格のチャンスはあったと思いますけれども)。
 さらには修習も来年から給与でなくなるという点(同49頁)で,これなど少なくとも当時の私にとってはダメ押しにしかなりません。

 対策としては,2つ目に「貧乏人に対するファイナンス,資金供与策」が検討されています(同51-52頁)。しかし,単なるファイナンスでは,法曹人口が急激に増えて就職難が現実化してきている現状では,一般の法曹にはそれほどの収入が期待できなくなってくる関係で,貧乏人にとっての敷居は大して低くならないのではないでしょうか? むしろ,奨学金制度を拡充して,一定の期間は返還を猶予し,その期間が経過した時点で一定の社会的貢献を果たしていると評価できる者については返還を免除するといった形にする必要があるのではないでしょうか。但し,具体的な基準をどうするかというのは,ちょっとすぐには思いつきません。いずれにしても,方向としては,そういう方向に進めていただくのがよいのではないでしょうか。

 有為の人材が埋もれてしまうような階層の固定化を図った面々には,もう退いていただきたいものです。

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2009年9月11日 (金)

第4回新司法試験合格発表

 昨10日(木),第4回の新司法試験の合格発表がありました。

 本年3月の修了生は,能力的には極めて高く,ただ若い人が多くなったので,答案上での表現力をどこまで高められるかが勝負だと見ていました。国際私法組では,おそらく12名が受験し,7名が合格でした。
 他方,昨年3月修了の国際私法組では,(正確な数字は把握していませんが)おそらく6名ほどが受験して,2名が合格でした。
 失敗した人は,できるだけ早く再スタートを切ってください。特に,学部卒業後すぐに入学してきた人は,基本科目の実力をできるだけ高めてください。昨年3月修了の合格者のうちのお一人は,そのような方で,昨年の今頃はいったん完全に進路変更することを考えられたところを,懸命に立て直されたものです。

 あえて,国際私法組のこれまでの結果をまとめておきます。発奮してくれることを祈ります。

 1期(7名) : 06年4名合格,07年3名合格
 2期(9名) : 07年6名合格
 3期(15名) : 08年7名合格,09年2名合格
 4期(13名) : 09年7名合格

 合格者数が昨年よりも若干少ないのには,驚きました。受験者のレベルが下がっていることは聞いていましたから,2200~2300名くらいに抑えられるかもしれないと推測してはいました。しかしながら,それにも満たないまでに抑えられ,しかも何の手当てもなく,というのは,・・・・
 文部科学省と法務省は,きちんと連携して,善後策を考えていただきたいものです。

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2009年9月 3日 (木)

授業評価(08後・09前)

 この時期,日本私法学会から,学会での報告資料が送られてきます。その中に,「家族法改正-婚姻・親子法を中心に」というシンポジウム資料が入っていました。最新のジュリスト1384号(9月1日号)4頁以下に掲載されているものですが,読み始めると,これが結構面白い! まだ窪田充見「実子法」の途中なのですが,堅実な内容のようですし,誠に僣越ながら,民法学者の層の厚さを今さらながら感じているところです。お薦めしておきます。

 今期もまた,授業評価アンケートに対する自己点検のコメントを書く時期がやってきました。半期ごとに実施していることですが,従来どおり,昨年度後期の分と合わせて書いておきます。

 評価項目が細かいので,今回も6つの大項目についてまとめさせてもらいます。なお,大項目の後の青字の数値は私の担当科目に対する評価の平均値,その後の( )内の数値は同じ期間に開講された全科目の平均値です(5段階評価)。

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 「国際私法基礎」(2008年度後期)  アンケート回収数17

 ・授業の設計・実施(質問4~6:計画の事前説明・一致,休講等) 4.92 (4.45)
 ・教育内容(質問7~9:知的刺激,法適用能力,法曹教育) 4.61 (4.32)
 ・教材等(質問10~12:内容,分量,参考文献等) 4.86 (4.34)
 ・教員の教育技術等(質問13~19:話し方,説明,発問,予復習指導等) 4.58 (4.24)
 ・教員の教育態度(質問20~25:情熱,授業準備,対応,公平,親和的等) 4.85 (4.42)
 ・総合評価(質問26・27) 4.75 (4.43)

 この期の特徴は,新司法試験において「国際関係法(私法系)」を選択しない3年生が4名履修していたことです。さすがに,ポイントを把握する力や文章力が,2年生とはかなり差があると感じました。前年度に履修した3年生も4名ほど受講していましたが,そうでない修了生ももちろん含めて,そろってよい結果が出ることを祈っています。
 数名がレジュメを評価しているのも,例年どおりです。「教科書があまり役に立たなかった。先生,独自のテキスト執筆して下さい。」というご意見をいただいて,とてもありがたいことです。ただ,同様のご意見は口頭でも毎年いただくのですが,全範囲を満遍なく勉強するというのは性に合わないので,少なくとも当分はないと思います。
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 「国際私法」(2009年度前期)  アンケート回収数7

 ・授業の設計・実施(質問4~6:計画の事前説明・一致,休講等) 5.00 (4.43)
 ・教育内容(質問7~9:知的刺激,法適用能力,法曹教育) 5.00 (4.36)
 ・教材等(質問10~12:内容,分量,参考文献等) 5.00 (4.35)
 ・教員の教育技術等(質問13~19:話し方,説明,発問,予復習指導等) 4.88 (4.33)
 ・教員の教育態度(質問20~25:情熱,授業準備,対応,公平,親和的等) 4.98 (4.44)
 ・総合評価(質問26・27) 5.00 (4.43)

 従来,板書が課題なのですが,今期も受講者が1時間ほど(?)前に来て自分たちの考える流れを書いてくれていたので,それを利用して楽させてもらいました。
 学内での評判は,定着したように思われます。ただ,今年度は,時間割の関係で,(昨年度とは対照的に)受講者と(国際私法を中心とした)講義後のコミュニケーションがほとんどとれなかったので,ちょっと心残りな感じがあります。
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 今年は,事情により,某法科大学院に今回限りで集中講義に行くことになっていますが,2単位でできることは限られていますので,あまり期待しないでください(もちろん,手抜きをすることはありません)。

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2009年8月27日 (木)

「国際裁判管轄法制に関する中間試案」に対する意見

 今年の夏は,トンボや蝶をよく見かけます。夏休みも,あとわずかになりました。

 さて,法務省が「国際裁判管轄法制に関する中間試案」に対して意見募集していることは,前回の投稿の後半に書いて,関係文書にリンクを張っておきました。私も,若干の意見をお送りする予定です。期限まであと数日ありますので,現時点での内容をここに掲げておきます(このままお送りすることになる可能性が高いですが,見落としなどに気付けば若干の修正をすることもあり得ます)。

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「国際裁判管轄法制に関する中間試案」に対する意見
                (千葉大学教授 森田博志)

 国際裁判管轄に関して裁判所が採用する「特段の事情論(修正逆推知説)」およびそれに基づく具体的な事案処理は概ね支持できるものであり,そもそも立法は不要であると考える者であるが,「中間試案」の一部につき立法を前提とした愚見を申し上げる(意見の順序は,「中間試案」のそれを若干変更する。また,意見を示さない点は,賛否いずれでもない)。

第6 国際裁判管轄に関する一般的規律-賛成(但し,若干の疑問あり)。
 最判昭和56年10月16日民集35巻7号1224頁(マレーシア航空事件)の後,東京地裁を中心とする下級審が積み上げ,最判平成9年11月11日民集51巻10号4055頁において最高裁も採用するに至った,「特段の事情論(修正逆推知説)」を規定化することには賛成である。
 ただ,諸判決が掲げる「当事者間の公平」という理念における「公平」を,何故に一般人になじみの薄い「衡平」と言い換えるのか。国民には,分かりにくい言葉遣いではないか(民訴法17条の存在は,理由にならない)。疑問である。
 なお,緊急管轄の規定を置かないのであれば,「第1から第5までの規律」について「日本の裁判所に訴えを提起することができる場合」を緩やかに設定しておく必要があるはずだが,これら5つの規律には「管轄配分説(修正類推説)」の影響が強く出ている部分があり,その部分については本規律との間で整合性を欠くことになってしまっているのではないか。

第1の3 法人その他の社団又は財団に対する訴え ①-「主たる」を削除すべきである。
第2の4 事務所又は営業所を有する者等に対する訴え ①-削除(但し,第1の3①を上記のように変更することが前提)。
 せめて1点,ぜひ要綱案においてご確認いただきたい。現行民訴法では4条5項に相当する規定により日本に管轄が認められたマレーシア航空事件の事案について,被告はマレーシアに本店を有していたため,第1の3①による管轄は日本に認められなくなる<この点には反対であり,被告が日本に営業所を有していた以上,原則として日本に管轄を認める規定にすべきである>。他方,第2の4①によれば「日本国内……の事務所又は営業所における業務に関するもの」であったか否かが重要な基準となるが,マレーシア航空事件の事案についてはどのように判断されるのか(業務関連性の有無については,争いがある。塩崎勤〔調査官解説〕法曹時報37巻6号(1985年)182-183頁参照)。日本に管轄を認めたマレーシア航空事件最高裁判決の結論に賛成するのが多数説だと思われるのであり,この点の確認くらいは明確にしておいていただきたい。
 また,このような事案においては,旅客運送契約の一方当事者(被害者)が「消費者」に該当するとは限らず,他方,被害者の遺族などについて弱者保護が要請される事案も多いであろうことは十分に想定できる。
 なお,②については,いずれも①の趣旨に合わせることになるので,省略する。

第2の3 財産権上の訴え ②-甲案に賛成。
 「特段の事情論」を積極評価する立場からは,ここでも緩やかな規定を置いておき,第6の規律によって個別の事案に即して具体的妥当性を図るのが筋だと考える。

第2の6 不法行為に関する訴え-「ただし」以下を削除すべきである。
 日本における結果の発生が通常予見することができない場合であっても,日本における被害者にとって外国のメーカー等に対する損害賠償請求訴訟を他国で提起することが過大な負担になる場合がありうることは,容易に想定できる。「ただし」以下は,外国の加害者の保護に傾きすぎたものであり,その保護は第6の規律の一要素として個別の事案に即して判断すれば足りると考える。
 また,(注)には賛成である。なお,二次的・派生的な損害の発生地も「不法行為があった地」に含めるのは穏当である。

(第2についての後注)-賛成。
 債務不存在確認の訴えについては,対象債務,管轄原因等が多様でありうるとの「補足説明」に特に異論はない。

第4の3 消費者契約に関する訴え ①-甲案に賛成。③イ-丙案に賛成。
 ①について,「特段の事情論」を積極評価する立場からは,ここでも緩やかな規定を置いておき,第6の規律によって個別の事案に即して具体的妥当性を図るのが筋だと考える。
 ③について,消費者保護の観点から,管轄合意の効力を認めることにはできるだけ慎重であって然るべきだと考える。

第5 併合請求における管轄権 ④適用除外-いずれにも反対。
 日本の基準によれば専属管轄であるべき事項であっても,問題となる「外国」においては専属管轄とされていないことも考えられるのであり,いずれにしても第6の規律によって対応すれば足りると思われる。

第8 国際訴訟競合に関する規律-乙案に賛成。
 訴えの先後にのみ決定的な地位を付与する甲案には,考え方の基本において全く賛成できない。また,さすがにもはや「補足説明」にも掲げられていないが,甲案に親和的なものとして,東京地判平成元年5月30日判時1348号91頁を挙げる方もおられるかもしれない。しかし,この判決は,むしろ,外国で先行する訴訟の承認可能性の予測の困難さを浮き彫りにしたものである。甲案は,「……見込まれるときは」内国後訴を「中止」するという形で承認予測説を薄めて採用しようとするものと解されるが,「見込まれる」程度で内国後訴を規制しようとするのは甚だ疑問である。
 乙案でも,第6の規律による内国後訴の規制は可能であり,それと同旨と解される先例もある(東京地判昭和59年2月15日下民集35巻 1=4号69頁,東京地判平成3年1月29日判時1390号98頁)。
 甲案を採用しつつ第6での規律も行うとしても,第6の規律によって日本の管轄が否定されれば本規律の出番はないし,逆に第6の規律によって総合的に判断してもなお日本の方が適切な法廷地だと判断される場合に本規律を働かせてしまっては,処理として統合失調的な印象を受ける。さらに,「国際訴訟競合に関する規律」として甲案の内容のみが条文化されるとすると,かえって我が国の規律について諸外国に誤解を生じさせてしまうのではないか。
 甲案の採用には反対である。

                      以上

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2009年8月 9日 (日)

サイモン・ラトル「ブラームス交響曲全集」

1994年10月23日(日),当時近くにあった市川〔市〕文化会館にクレーメルが来るというので,一度聴いておきたいと思い出かけました。エルガーのヴァイオリン協奏曲が演奏されましたが,そのイントロ部分で意外にもグッときてしまいました。その時の指揮者がそれまで全然知らなかったラトルその人でした。以来,ラトルは最も注目の指揮者でありました。BPOの後任としても,実力もあり,将来性も期待できる人ということになると,ラトルが最有力なのだろうと漠然と思っていました。良かった! (千葉県 森田様)

 これは,かつて東芝EMIから無料配付されていたメンバーズニュース「CLASSIC21」のVol.19(1999年10月発行)30頁の「ラトルへの一言」のトップに掲載された文章です。99年6月23日(水)にラトルがベルリン・フィルの新芸術監督に選出されたのを受けて「ラトル号外プレゼント」が企画され,それに応募したときに付したものでした。
 ただ,実際に2002年に芸術監督に就任してからリリースされたものの一部を聴いてみると,どうも技巧に偏りすぎている印象で,これまで少し敬遠していました。

 話を上記の94年10月のコンサートに戻しますと,その後半ではブラームスの交響曲第2番が演奏された(オーケストラは,バーミンガム市交響楽団)のですが,この第1楽章と第4楽章も音がグッと詰まった印象深いものでした。その記憶も残っていたところ,「ブラームス交響曲全集」が発売されることになり,しかもCD3枚にDVDが2枚付いて6000円とのこと。これはいかにもお買い得!。。。買ってしまいました。
 で,感情移入しながら聴きたい人間としてはその意味ではやはり物足りないものの,それを遥かに超えて充実した多様多彩な表現と,ベルリン・フィルの室内楽的でありながらブラームスに相応しい分厚い合奏力とが総合された圧倒的な演奏で,これはきっと一時代を画するアルバムになるでしょう。歳月をかけて共に歩んできたラトルとベルリン・フィルは,こういう方向で発展していくのでしょうね。

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 話は換わって,「法制審議会国際裁判管轄法制部会」から「国際裁判管轄法制に関する中間試案」(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1030&btnDownload=yes&hdnSeqno=0000055113)が公表され,意見募集されています(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=300080059&OBJCD=&GROUP=)。
 特に「第8 国際訴訟競合に関する規律」については「甲案」として承認予測説が提案されていますが,部会の第5回(本年2月27日:議事録はhttp://www.moj.go.jp/SHINGI/090227-1-1.pdf)と第9回(同6月19日:議事録はhttp://www.moj.go.jp/SHINGI/090619-1-1.pdf)において裁判官たちの強い危惧が示されていますし,これだけでも何とか回避したいものですが・・・
 本当に,何でもかんでも,現場を無視して拙速に進めていくのですね!!!!!

 まあ,賛否はともかく,意見募集は今月の31日(月)までと,期間は通則法の時の半分くらいしかありませんが,お考えのおありになる方は,意見されてください。

(参考)3月17日(火)「国際裁判管轄研究会報告書に対する批判論文」

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2009年6月20日 (土)

国籍法とか,郵政集中審議-6月9日参院総務委質疑とか

 更新が,2か月以上滞ってしまいました。よく立ち寄ってくださる方々には,あるいはご心配をおかけしているかもしれません。
 実は,懸案になっていた重たい内容の論文を書いていまして,当分の間それに集中しますので,またしばらく更新が開くはずです(重たい内容の論文でなければ,論文を書く意味はない,と考えていますので,寡作になってしまい,それはそれで時世に合わないのですが・・・)。

 この間,千葉の学生たちは,着々と成果を挙げています。構内は,桜やつつじの季節が終わると,緑に覆われ,環境的には非常に恵まれていることを実感するこの頃です。

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 さて,5月10日(日)に国際私法学会がありましたが,若手の報告者のお一人が米国法にかぶれてしまっているようで,この期に及んでまだ米国金融モデルを前提にした法律から影響を受けてしまうのかと,淋しい思いがしました。
 午後の「ウィーン売買条約」のシンポでは,「国際物品売買契約に関する国際連合条約」の批准を推進した方がこれを積極評価していたのは当然ですが,それ以外の報告者および学会の大勢は,余計なことがなされてしまったという受けとめであったように思います。当事者の合意とそれで解決のつかないことは契約準拠法によるという現状に,不確定概念が多く規律対象も限られている上記条約が規範として加わってしまうので,任意規定である上記条約が確実に適用されないようにするためにはどのようにすればよいか,という外国の議論が紹介されたりしていました。
 実務では当面あまり使われないとしても,8月1日に発効する上記条約は,おそらく来年の新司法試験用六法には登載されてしまうでしょうから,仮に実務上は重要だと言えない状況であったとしても,数年に一度は出題されてしまうのでしょう,といった話をローの授業ではしています(出題のあり方として,好ましくないことですが・・・)。

 直後に新司法試験がありましたが,「国際関係法(私法系)」については,法科大学院協会のアンケートに以下のように回答しました。

a. 適切である
理由(理論・実践のバランスがとれ,受験生のレベルもよく考慮されているから)

 理由は簡潔に,ということでしたので,以上のようにしました。いずれ何か書くかもしれませんが,当面は学内でお話しするだけですね。私見によれば,過去4年の出題では,今回が最高で,以下,第1回,第2回と続き,(間がかなり開いて)前回は最悪(!)という評価です。

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 いろいろと面白そうな一般書も読んでいまして,時間があれば何か書きたいと思うかもしれませんが,そうもいきませんので,興味深いものを列挙するだけにします。

 ・日下公人『日本人の「覚悟」-「芯」を抜かれた人は退場せよ!』(祥伝社・2009年)
 ・矢野絢也『黒い手帖 創価学会「日本占領計画」の全記録』(講談社・2009年)
 ・平野貞夫『平成政治20年史』(幻冬舎新書・2008年)
 ・石塚健司『「特捜」崩壊 墜ちた最強捜査機関』(講談社・2009年)
 ・河井克行『前法務副大臣が明かす司法の崩壊 新任弁護士の大量発生が日本を蝕む』(PHP研究所・2008年)
 ・五十嵐仁『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書・2008年)
 ・東谷暁『日本経済の突破口 グローバリズムの呪縛から脱却せよ』(PHP研究所・2009年)
 ・西村幸祐責任編集『反日マスコミの真実2009』(オークラ出版・2009年)
 ・日本の前途と歴史教育を考える議員の会監修『南京の実相 国際連盟は「南京2万人虐殺」すら認めなかった』(日新報道・2008年)

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 国籍法についても,触れておきます。

 前述した国際私法学会の会場で,大村芳昭教授から「生後認知による日本国籍の取得について」中央学院大学法学論叢22巻2号(2009年)1頁の抜き刷りを頂戴しました。
 最後(18頁以下)に国籍法改正のあり方について,「(1)子とわが国との密接な結び付き」「(2)親子関係の科学的証明」「(3)国籍取得の遡及効」「(4)法務大臣への届出」に分けて検討されています。国籍取得の遡及効を認めようとされるご見解については,認知の準拠法が日本法になるとは限らないこともあり,私は疑問に思います。しかし,他の3点については,私見(2009年4月15日(水)「国籍法一部改正その後ほか」の後半で簡単に記述)と大きくは違わないようです。

 大法廷判決当時の担当調査官である森英明氏が書かれた「認知と国籍について-国籍法3条1項に関する最高裁大法廷判決に関連して-」家裁月報61巻5号(2009年)1頁は,37-38頁に,「非嫡出子の国籍の取得に関する諸外国の法制」と題した別表を掲げています。欧州の13か国とトルコ,韓国について掲げられていますが,それを見ますと,(なぜ前記の15か国だけなのかという素朴な疑問を感じるのはさておき)オランダ(生後認知の場合には,「その後3年以上の父の監護養育の証明(未成年時)」を要求)や,スウェーデン・デンマーク(「国外で出生した場合は両親の婚姻(18歳未満,未婚時)」を要求)の例もあるのに,と相変わらず思います(2008年6月14日(土)「日本国籍の希薄化?-国籍法3条1項違憲大法廷判決(その2)」第3段落で触れました)。

 それから,Law&Practice 3号(2009年)という早大ローの紀要に,「憲法訴訟を考える-国籍法違憲訴訟を通して」という特集が組まれていて,近藤博徳「基調講演-原告代理人が語る本判決の意義と課題-」同1頁と,近藤博徳=木棚照一=戸松江二「鼎談-国籍法3条1項から見える『日本』-」同21頁を拝読しました。これまで国籍法に強い関心をもってこられた方々の感覚について,関心歴の浅い者として興味深く思いました。
 ところで,後者の56-57頁に,以下のような近藤弁護士の発言があります。

近藤:私は,判決が出た後に,何人かの国会議員や法務省の人とお会いして,どんな法律を作るのですか,改正をする時にはこういうふうにしてくださいと,いろいろなことを提案してきました。

 (中略)

 しかし,結論は,最高裁判決で判断された範囲での改正にとどめるということになりました。そして法改正についてどんな議論をしたかと言うと,実は何の議論もなかったのです。
 僕たちの様々な要望に対して,面会した国会議員の方々は,最高裁判決の限度の改正であれば,皆それほど抵抗なく,「最高裁が言うんだから仕方がないよね」と改正出来るが,判決以上のことを言い出すと,国籍や家族というものに対して特に意見を持つ人々がむくむくっと起きだしてきて,「いやいや,それはおかしい。」という議論が起きて,収拾がつかなくなる,だからそういうものは一切持ち出さずに,最高裁判決で判断された限度で,改正するということでした。
 法務省の担当者と会った時も,そのようなやりとりでした。今,質疑応答前の休み時間に,木棚さん,戸波さんと話しておりましたところ,先生方は,本来は,国籍法をどういうふうにするかについて,国民のコンセンサスがないといけない,ということを強調しておられたのですが,今回は全くそのようなコンセンサスはありません。議論の「ぎ」の字もないです。まさに,日本の政治の縮図というか,国会議員は,国籍によって決められる日本という国の在り方について何の関心もないのだな,ということをつくづくと感じました。

 ああ,やっぱりそうだったんですか,という感じですね。昨年末の改正への賛否はいずれであっても,国民はなめられたもんですねえ,と思います。
 実際に「最高裁判決の限度の改正」であったか,という点にも疑問があることは,2008年11月26日(水)「『国籍法3条1項等改正法』衆院法務委質疑(その2)」2009年4月15日(水)「国籍法一部改正その後ほか」等々に書きました。
 さらに,実は最高裁の政治性にも疑問があり,これについても書きたいところですが,以下の文献のみ引用しておきます。関心のある方は,ぜひお読みください。

 ・小田滋「光華寮訴訟顛末記-平成19年3月27日の最高裁第3小法廷判決について-」国際法外交雑誌107巻3号(2008年)397頁
 ・石黒一憲「『住友信託銀行 vs. UFJ事件』と“Sanctity of Contract”(契約の神聖さ)」財団法人トラスト60『国際商取引に伴う法的諸問題(15)』(2008年)101頁

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 さて,先週,鳩山邦夫総務大臣が辞任してしまいましたが,これで幕引きとなるでしょうか?
 その直前の9日(火),参議院総務委員会で郵政集中審議がありその会議録がネットで読めるようになっていますので,一部転載して今日は終わります。

(以下,09年6月9日参議院総務委員会会議録から一部転載)
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○長谷川憲正君 民主党・新緑風会・国民新・日本の長谷川憲正でございます。
 今日は、会派の皆さんの御理解と御協力をいただきまして、私が会派を代表して質問させていただくということになりました。どうぞよろしくお願いを申し上げます。
 今日は、予定表を見ていただきましてもお分かりのように、私、かなり長い時間をちょうだいをしておりまして、かなり掘り下げていろいろお聞きをしたいということがございまして、大臣、そして西川社長はもとよりでございますけれども、日本郵政株式会社の、まあ新聞等でも報道されておりますが、社長の続投問題等につきまして、先般、会社の中の指名委員会が方向を出されたということがございましたので、この指名委員会の委員長であります牛尾治朗さんにおいでをいただきたいということで先週からお願いをしたわけでございますけれども、御都合でおいでになれないと。また、これに代わる方ということで他の社外役員の方、この指名委員会にかかわられたお二人にもお尋ねをしたんですけれども、いずれも都合が付かないということでございました。
 そして、先般、かんぽの宿等の不動産の売却に絡みまして、日本郵政の中につくられましたいわゆる第三者検討委員会というものが報告書を出されましたけれども、この委員長の川端さんも御都合が付かないと。また、これに代わるお二人の委員の方についてもそれぞれ御都合が付かないということで、全員お断りでございまして、かつ、日本郵政の執行役で、今度のかんぽの宿の売却に関しましての一番の実行部隊といいますか、表で活躍しておられました伊藤執行役につきましても出席をお願いしたんですが、こちらは体調を崩したということでございますので、これはもう仕方がないと思いますが、先ほど申し上げました指名委員会の委員の方々、いわゆる第三者検討委員会の委員の方々、おいでをいただけなかったということについては甚だ残念でございます。
 今これだけ大きな話題になっておりますときに私どもの審議に御協力をいただけなかったということは、お忙しい方々ですから、それは事情が全く分からないということを申し上げるつもりはないんでありますけれども、御協力をいただけなかったということを大変に残念に思っておりまして、改めて機会がありましたら是非御出席をいただいて、この総務委員会の場あるいはそれ以外の場も国会の中ございますので、御意見をお聞きをしたいというふうに思っております。冒頭そのことを申し上げまして、質問に入らせていただきたいと思います。
 今日は、特に日本郵政の皆さん方にはたくさん参考人として御出席をいただきまして誠に申し訳なく思っております。私が本来考えておりましたのは、西川社長と横山さんと、そして伊藤さん、このお三方ということでありましたけれども、話が多岐にわたる可能性ありということで多くの方々に御出席をいただきましたこと、冒頭におわびを申し上げておきたいと思います。
 今日は郵政問題の集中審議ということになっております。これ、何で今ごろ郵政問題の集中なのかということは分かり切ったことでございまして、昨年の十二月二十六日以来のかんぽの宿の売却の問題、あるいは最近の新聞紙上でいっぱい出ておりますけれども、簡保の保険金の不払の問題、あるいは低料第三種という心身障害者の団体の皆さんが発行される郵便物、安く郵便で扱うわけでございますけれども、この制度を悪用した事件、こういったものがいっぱい出ておりまして、国民の不信が非常に高まっているというふうに思うわけでございますし、加えて、日通のペリカン便とゆうパックとの統合の問題でございますとか、本当にこれから先郵便事業の将来を考えたときに大丈夫なのかなというような問題もありますし、また、先ほど来申し上げました社長の株主総会以降の人事につきましてのいろいろ指摘がある中で、国民の関心が高まっておるわけでございますので、今日はここで各委員からいろんな問題が指摘をされると思いますけれども、公明正大に議論をして問題点を明らかにしていくということがとても大事だというふうに思っているわけでございます。
 そこで、最初に西川社長にお尋ねをしたいと思うのでございますが、この日本郵政の社長という仕事でございますけれども、一部の方々からは、これはもう日本郵政は民間会社になっているんだから大臣といえども口出しをすべきではないんだと、こういう意見があることはあるんですね。大方の方はそうは言っておられませんが、そういうことを言う方もいらっしゃる。西川社長御自身はどのように考えておられるか、お聞きをしたいと思います。
○参考人(西川善文君) お答え申し上げます。
 日本郵政は、申すまでもないことでございますが、ただいま政府一〇〇%出資の会社、株式会社ではございますが、株主構成はそういうことになっております。したがいまして、通常の民間会社のようなわけにはまいらない、そこのところは私も十分心得ているつもりでございます。
○長谷川憲正君 社長の御認識のとおりだと私も思うわけでありまして、政府が一〇〇%株を持っているそういう特別な会社、いわゆる特殊会社でありますから、民間の方々が株主であって株主の決めたとおりにやっていくという普通の民間会社とは違うわけでありまして、法律に基づいて設立をされた会社でございますし、その行使できる権限等についてはいろいろまた定めがありまして、それに対して、行政庁である総務大臣の監督の義務などもいろいろ記されているわけでありますから、株式会社という形態だけに着目して、これはもう経営者に任せておけばいいんだというような論法は私は成り立たないというふうにもちろん思っているわけでありますけれども、どうもこの民営化法そのものをお作りになった竹中平蔵さんが書いておられるものなんかを見ますと、政府が口出しをすべきでない、そして会社というのは経営者のものなんだということを書いているわけでありますが、私は学者でおられる竹中さんの御意見としてはもう甚だ理解しかねる。会社は株主のものですよね。そして、公的な役割を持ったものであれば、更に加えて従業員のものでもあり、何にも増して会社を利用される一般の利用客の皆さん方のものだというふうに私は思うわけでございますけれども。
 いずれにしても、公的性格の強い会社の人事ということでありますから、今日は指名委員会の皆さん方においでをいただけなかったんですけれども、どういう方が社長にふさわしいのかというようなことについては、それは当然指名委員会の中でもいろいろ御意見はあろうと思いますけれども、どうして株主である政府と事前にきちんと調整をされないのかなと。普通の株式会社であれば、株主からいろいろ意見があれば当然そこと調整をされる、そういったことが一切見えてこないというのは甚だ不思議に思うわけでございます。
 私、前に予算委員会の場でも申し上げたんで、繰り返しになりまして恐縮でございますが、この郵政関連の組織というのはどこの国にもあります。郵便やっていない国というのはないわけでございますから、どこにもあります。その場合に、経営形態は、アメリカのように国営でやる、今後とも国営でやるんだと明確に言っている国もあれば、フランスのように公社という国もありますし、そして日本が今なっているような株式会社という形の国もあります。しかしながら、株式会社になっている国でも国が一〇〇%株を持っているというのが常識でありまして、何のために持っているのかとわざわざ私、何遍か質問したことが外国に対してもあるわけですけれども、みんな同じ答えが返ってくる。それは、会社は、今は時代が変化が激しいですからいろんなことをその時々で考えて動いていかなきゃならぬ、それを法律で一々決めていたら自由な活動ができないから株式会社という形にするんだ、商法にのっとって自由に行動ができるようにするんだ、経営者に任せるんだ、しかしながら、事業そのものの目的は国家、公共のためのものだ、国民の福祉のためのものだという貴い目的があるんだから、国が一〇〇%株を持って、その目的どおりにきちんと経営者が仕事をするかどうかを監督して、駄目だったら首にするんだと。これがもう世界の常識なわけでありまして、そういう意味ではどこの会社でも株主が一番怖いんだと思いますが、こういう公的な組織でも、株主がどういう考えを持っているのかということをそんたくしながら、相談をしながら物事を進めていくというのが基本であります。
 現に、私が議員になります前に大使として駐在をしておりましたフィンランドという国で、国が五一%の株を持っている電話会社がございまして、日本のNTTのようなものでございますけれども、経営陣が新しい方針を出したところが、そんなことおかしいといって新聞等で随分たたかれまして、それを見ましたら、監督官庁であります通信大臣が臨時株主総会を要求いたしまして、自らがおいでになりまして会長、社長以下全員首を切ってしまったということがありまして、ああなるほど、国が一〇〇%株主である、あるいは過半数の株を持っているということは重たいものだなというのを身をもって私は体験をしてきたわけでございますけれども、どうも日本では、今回の日本郵政の社長のいわゆる続投と言われている問題をめぐっていろいろ面白おかしくいろんなところで議論されているわけですが、私は、人事の問題でございますし、これはもう西川社長の名誉にもかかわることでもございますから、本来であるなら、表でこんなごたごた議論をするのではなくて、政府の中できちんと調整をしていただくべき問題だというふうに本当は思っているんです。しかしながら、事ここに至っておりますので、今日はいろいろお尋ねをせざるを得ないというふうに考えております。
 なお、忘れないうちに申し上げておきますけれども、この問題に関しましては圧倒的に鳩山大臣に人気があるようでございます。別にごまをするつもりはございませんが、あるラジオ局の番組がありまして、鳩山総務大臣の言っていることを支持するかしないかというインターネットでアンケートをする番組がありまして、六月四日のことでございますけれども、結果を見ますと、二百七十一票対七十六票で支持するというのが支持しないを上回っていると。獲得率は七八%でございますので、世論の人たちは、そんなふうに世の中の人は見ているのかなというふうに感じているところであります。
 そこで、私、長話をいたしましたけれども、お尋ねをいたします。
 総務省にお尋ねをいたしますが、総務省は四月の三日に例の日本郵政から出されました段ボール箱十七箱の資料を点検をされまして、調査結果を報告をされました。と同時に、改善命令も出されているわけであります。改善命令につきましては今月中に報告を出すようにということになっていたと思いますが、私のお尋ねはそのことではございませんで、調査結果報告、これを読ましていただくと、実に詳細にこのかんぽの宿をめぐっての一連の事実が分析をしてあります。
 これを読みますと、少なくも私は、日本郵政は、言葉は悪いんですけれども、本当にでたらめなことをずっとおやりになったなというふうにしか思えないわけでありますが、この調査結果報告について、日本郵政からしかるべき釈明とか説明とか、その後求めていらっしゃるんでしょうか、あるいは今後求めることがあるんでしょうか。
○政府参考人(吉良裕臣君) この調査結果につきましては、これを改善命令という形で私たちは求めておりまして、それを踏まえて、改善命令に対する報告徴求の中でまたそこは聞くことになろうかというふうに思っております。
○長谷川憲正君 これは西川社長にお尋ねをいたしますが、この改善命令に対しての御報告、いつごろお出しになる御予定でしょうか。
○参考人(西川善文君) お答えいたします。
 今月いっぱいということになっておりますが、私どもの方では精力的に準備を進めておりまして、今月中のできるだけ早い時期に御提出申し上げたいと思っております。
○長谷川憲正君 その際に、今総務省の方からもお話がありました十七箱の段ボールに関する調査結果報告、その中身、調査結果報告ということで出ておりますので、当然御覧をいただいていると思いますけれども、私は単なる改善措置、将来に向かって今度はこういうふうにいたしますよということだけではとても済まないというふうに思っておりまして、今までやったことについてこれは良かったのか悪かったのか、なぜそうなったのか、問題点をやっぱり明らかにしてその責任をきちんと出していかないことには前に進めないというふうに思っておるわけですけれども、そういった総括はその中でなさいますでしょうか。
○参考人(西川善文君) お答えいたします。
 総務省からの調査結果、さらに私ども社内に設けました第三者検討委員会の結論もございますので、これらをきちんと踏まえて、そして反省すべきは反省するということも当然ながら加えまして、改善の方向についてのお答えを申し上げたいと思っております。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 日本郵政の第三者検討委員会の報告書というのは読ませていただいておりますが、これはしょせん内部の第三者委員会でございますから、当然中身はお手盛りになるわけでございまして、結論としては、いろいろ問題はあるが最終的には問題がないと、こういう書き方なので、これは内部の検討委員会ならばしようがないだろうと、こういうふうに思うわけですが。
 その後、我々が業務改善命令、監督上の命令でございますが、それに対してどう日本郵政あるいは郵政グループが答えるかということで、かなりやり取りが日本郵政と総務省の間であるようでございまして、一部のことについては全く、十六の問題点で指摘しても今のところ答える気配がないと。今までいろいろやり取りしている案を、いただいた案を見ますと、自分たちはこういう間違いを犯した、したがってこういう反省をしているという部分は一行も今のところ見当たりません。
○長谷川憲正君 今の大臣のお話を伺って、ああ、やっぱりそうだったかという実は感じなんですね。私もそのことを一番心配しているんです。
 この改善命令が出たときの総務省の扱いというのは、非常に温情ある扱いといいますか、私たちから見ますと、この中身を読むと、これはもう犯罪を犯したと、とんでもないことだというふうに事実上は書いてあるわけですよね。しかしながら、そのことの責任を問うのではなくて改善命令という形で柔らかく表に出された。そのすき間のところをどうやって実際は埋めていくのか。それは我々の義務でもあるし、恐らく日本郵政と総務省の間でいろいろおやりになっているのかなと。しかし、私たちが聞くところでは何かそういう話が進んでいるようにも思えないものですから、大変に心配をしていたわけですけれども、それは、西川社長に申し上げますけれども、是非おやりをいただかないと、国民の皆さん、これだけたくさん問題が出ている中で納得をされないと思うんですよ。
 私は、いろんな新聞の論調なんかも見させていただいていますけれども、今度の社長人事のことでも、政局がどうだとか政治的にどうだとかというようなことがいろいろ出ていますけれども、そんなことではなくて、これはあくまでも日本郵政という実業をやる会社の社長さんの人事でありますから、もっともっと客観、冷静にやればいいことであって、今までおやりになったことが適正であるということなら、もちろん続投を含めて、ほかにもっといい人がいるのかいないのかということを検討していただければいいわけでありまして、そうでなくて問題があるということであれば、そのことの責任を明らかにしていただくということだと思うんですね。
 もう一度総務大臣にお伺いをいたしますが、是非、総務省としてもリーダーシップを取っていただいて、きちんと両者の間の点検をしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) よほど問題が深いと思ったから業務改善命令というものを出したわけで、まあちょっとしたことだというんだったら、ちょっと直せばいいというようなことは業務改善命令にはしないわけで、国民共有の財産ですよ、簡易保険に入った方が少しずつ営々と積んだお金が、施設を造り過ぎたとかなんとかというのはあるけれども、少なくとも簡易保険法において加入者の福祉施設であると。つまり、これは会社が社員寮みたいのを軽井沢とか箱根に造るのと同じ発想ですよね。加入者の福祉施設というのを簡保の保険料で造った、それが七十九施設のうちの大部分ですが、二千四百億円以上した。固定資産税評価でも九百億近くする、実勢価格でも千二百億や千三百億するだろうと。これを減損会計だとかマジックを使ってどんどん減損していって、竹中流に言えばこれは不良債権だと。もうけちゃいけないんですから黒字にはめったにならない。赤字だったら不良債権だと。そういう決め付けで、だから、例えば鳥取ですか、あのかんぽの宿は一万円で売られて半年後に六千万円で転売されると。一体だれが利益を受けたのかという疑問がある。
 ですから、二千四百億がマジック使って百九億円になって、出来レースと思われる不透明な部分がいっぱいあって、それでオリックス不動産に渡そうとしたから私は認可をしなかった。それだけのことがあったから業務改善命令を出したわけでして、だからこれはもう真剣に取り組んでもらわなければならないわけでございます。
 ですから、私は、西川社長に対して悪感情もなければ何の感情もありません。お酒一緒に飲んだら楽しそうな方だなと思いますよ。だけど、しかしこれは公的企業のガバナンスの最高責任者としておられたわけですから、これだけのことが起きたならば、それは責任を痛感をしていただかなければ困るというのが私の立場でございます。
○長谷川憲正君 どうもありがとうございました。
 今日は時間たっぷりいただいたとはいうものの、限られた時間でありますので、この調査結果報告の指摘していることを一々全部議論をするというわけにはいかないんでありますけれども、せっかく出されたもので、もう世の中の人も忘れている人が多いんじゃないかというふうに思いますので、もう一度問題点を整理をしてみたいというふうに思っております。
 幾つか目立ったものを私、拾ってまいりました。お手元にB4の一枚紙の資料をお配りをさせていただいておりまして、左の方に四つほど問題を掲げております。
 上から順に行きたいと思いますけれども、この表に入ります前に一つ提起をしたいのは、これもさんざん言われたことでありますけれども、競争入札という言葉が頻繁に使われたわけですよね。これも指摘をされておりますが、この表には入っておりませんけれども、実際は競争入札ではなかったと。最終的には企画コンペというんでしょうか、非常に分かりにくいんですけど、そういうものであったということがだんだん分かってまいりまして、しかしながら、企画コンペというのは、提案をする人がどういう考えを持っているというのを聞いて、そして自分たちの考えと合致するものを選んでいくということでありましょうから、それは入札とはもう全く違うものですよね。これを、日本郵政会社の定めている契約の規定がありますが、これは総務省に届けてあるものでありますが、それを見させていただいたら、会社の手続というのは一般競争入札と指名競争入札と随意契約だというふうに書いてあるわけでありまして、そうすると、これは一般でも指名でもないんですから、今お取りになった今回の契約の仕方というのは随意契約ということになるわけですよね。
 で、随意契約ということと競争入札ということはもう全く物事が違うわけでありまして、競争入札であれば、例えば非常に安い価格で落札がされたとしても、まあ落札の予定価格を下回れば落とさないということはあるにしても、それは入札の結果決まったことですから、マーケットが決めたことですから、それでよしとせざるを得ないわけですよね。しかし、随意契約ということになればいろいろなものを見ながら物事を決めていかなきゃならないわけでありまして、新聞の社説など当時出たものを見ても、一部の新聞では、一般競争入札で決めたことをがたがた言うなというような趣旨の社説がいっぱいあったんですよね。そういう誤解を招いた。
 これ、もう一度お尋ねをしなければいけないんですが、随意契約の実態なのに競争入札というふうに見せかけた、その理由は何だったんですか。
○参考人(西川善文君) お答えをいたします。
 かんぽの宿の事業全体を譲渡しようということで、事業の譲渡ということでございますが、その事業の譲渡と申しましても、これは従業員の雇用の継続といったこと、あるいは一部負債の承継といったこともその中に入ってまいりますので、ただ資産価額だけで競争というわけにはまいりません。しかしながら、想定純資産価額、事業全体の価値というものを想定いたしまして、その価格を競争していただくと。もちろん、それには前提として従業員の雇用といったようなことも入っておるわけでございますが、その事業価値をどう見るかというところを競争していただくという意味合いはございました。
 ただ、これは、いわゆる会計法に言う一般競争入札ではございませんし、そしてまた指名競争でもございませんし、随意契約というふうに決め付けられるものでもないと思います。その点が、我々の社内でもこれは第三者委員会で指摘をされておるんでございますが、この事業譲渡ということについての社内規定がなかったというところが我々としては一つ問題であったなということでございまして、これは第三者委員会からも厳しく指摘をされているところでございます。
○長谷川憲正君 お聞きしてもちょっとよく意味が分からないんですけれども、会社でお決めになっていることはルールがあるわけですよね。だから、どのルールにのっとっておやりになったのかということによって物の見方というのは変わってくるわけでありまして、随意契約ではないというと、一般競争入札ではもちろんない、指名競争入札でもない、随意契約でもない、会計規定で決めていない新たなものをやったんだということなら、どうして最初からそういうふうに言ってくださらないんですか。それだったら世の中の人も誤解せずに、それならそういうことで、中身がいいのか悪いのかというのを皆見たと思うんですよ。
 それ、どなたがそういう形で、世の中に対しては入札という言葉を使うような決定をなさったのか、教えていただけますか。
○参考人(西川善文君) これは一つ大きな間違いを結果的にしたなというふうに考えておりますのは、ホームページでかんぽの宿の譲渡に関する競争入札という表現をしたわけでございます。この競争入札という言葉を安易に使い過ぎたということでございまして、本来はこれは企画提案のコンペということでございます。そこの使い分けがしっかりと行われなかったというところが混乱を呼んだ一つの大きな原因であろうというふうに思います。
○長谷川憲正君 それはそのとおり混乱を生んだわけでございますが、そのことについては当初から社長は気付いておられたんでしょうか。それとも、気付かないうちにそういうことが行われたんでしょうか。
○参考人(西川善文君) お答えいたします。
 大変残念ながら、私はホームページをしばらくたってから見まして、この競争入札という言葉は適切ではないなということを感じたわけでございます。後で気が付いたということでございます。
○長谷川憲正君 社長がそのようにお気付きになったら、それは訂正を当然なさるべきだ。社長が組織のトップですから、適切な指示をして変えられるべきだったと思うんです。そのことがないからその後もずっとおかしなことになりまして、これは十二月の末から総務大臣が出来レースじゃないかということをおっしゃって、問題が指摘をされて話題になった。それでも、大新聞の社説が一般競争入札でやることに大臣が口を挟むのはおかしいとまで論評したわけですよ。
 大臣、そこのところ、いかがお考えですか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) それは先生おっしゃるとおりで、一般競争入札に総務大臣が口を挟むのがおかしいという、そういう論調による私への批判は随分目にしたし耳にしたわけでございまして、しかし実際は一般競争入札ではなかったと、非常に不透明なものだったということが明らかになっているわけでございます。
 そもそもが、メリルリンチをアドバイザリー契約というかアドバイザーとして選ぶそのプロセスにおいて、同じ文書を見て同じ人が点数を変えて、つまりメリルリンチにしなくちゃならないという出来レースだったんでしょうけれども、メリルリンチが一位じゃなくて二位だった。さて困ったというので、二日後か三日後にもう一回開いて、同じ人がですよ、メリルリンチの点数を上げて、トップだったところの点数を下げてメリルリンチを選定するという、こういう大疑惑があるわけですね。そういうところからして、何が入札なのか何が採点なのかよく分からないことが多過ぎるんです。
 これは私は分かりません。民間の会社だったら、純民間の会社だったらそういうことはよくあるのかもしれないと思うのです。例えば、博報堂に民営化していくときの広告宣伝を全部任せると。これはもちろん競争みたいなことをしたんだと思いますが、採点者五人なんですね。採点者のうち五人のうち三人が言わば社長の直系の方ですから、最初から意のままになりますよね。そして、さて民営化されたと。今度はまた訳の分からぬ責任代理店制度というのを採用すると。つまり、郵政子会社四つ、ゆうちょ銀行、かんぽ生命だけじゃなくて特殊会社である事業会社、局会社が広告宣伝しようとしても全部責任代理店である博報堂を通したり相談しなければできない。まあ考えてみればとんでもない仕組みをつくり上げた。
 そのときに、博報堂を選ぶときも五人の人が採点をして、三人が、失礼ながら、社長の息の掛かった三井住友系というんですか、これはもう最初から結果見えていますよね。それで逮捕者が出て捕まった。低料第三種で博報堂の子会社、エルグの役員が捕まったにもかかわらず、私が記者会見で注意するまでは広告関係は全部博報堂だということを貫いたじゃありませんか。
 一般の企業ならいい。しかし、公的な企業がそういうことをやれば、そこに何か巨悪があるんじゃないか、癒着があるんじゃないかと国民が疑うのが当たり前だと。私はそういう体質の問題、これを問題にしておりますので、長谷川先生の御指摘は正しいと思います。
○長谷川憲正君 ちょっと話がいろいろまた拡散しそうなんで戻したいと思いますが、いずれにしても、競争入札と世の中を誤解させてしまった、そのことについての修正の試みが会社側から行われなかった、社長がリーダーシップをお取りにならなかったというのは非常に残念に思います。
 そして、先ほどのこのB4の紙に戻らせていただきますが、私四点指摘しておきました。最初の世田谷のレクセンターの問題であります。
 これは元々かんぽの宿等の施設、事業運営、これを譲渡したいといって提案をされたときにはこの中に入っていたわけですね。かんぽの宿だけではなくて、この世田谷レクセンターという大変な価値のあるものが入っていた。これは昨年の五月時点で会社自身が鑑定評価された額が手元にありますが、百三十九億円、これだけで百三十九億円。ですから、当然買いたいという人たちの提案額が小さければ、これは外そうというふうにお考えになるのは当然だとは思うんですよ、当然だとは思います。たしかオリックスとそれからもう一社、最後に二社が残ってどっちにするかという判断を会社の方でなさったわけでありますけれども、そのときに、この世田谷のレクセンターについては二十三億円というところと三十三億円というような低い評価が出てきたということからこれを外そうとしたというのは分かるんです。
 ところが、総務省が発表されました調査報告を読みますと、今日は病気のためにおいでいただけませんでしたが、伊藤執行役が上司である専務、副社長、そして西川社長に対してこれからの進め方について報告、確認を行ったと、こう書いてあるわけです。そして、この間出されました日本郵政の中にあります第三者検討委員会の報告書でも同様に、専務執行役、副社長及び社長に順次口頭報告をして確認を得たと、ただしこれは文書で記録に残っていないと、こう書いてある。
 残っていないこと自身は大変問題で、このいわゆる第三者検討委員会の報告書は繰り返し文書で残っていないのは問題だということを言っていますが、それは別にして、西川社長が国会の中で御答弁になったことを見てみますと、これは衆議院の総務委員会の松野委員の質問に対してのお答えでありますけれども、この世田谷レクセンターを外すということを聞いたのは最後の段階だったと。自分もいろいろ思うところはあったんだと思いますが、いずれにしても、そういう話を聞いたのはレクセンターを外すということを通告した後の話であって非常に残念であったと、こう御本人が述べていらっしゃいます。これは西川社長、間違いございませんか。
○参考人(西川善文君) お答えいたします。
 そのとおりでございます。私も世田谷レクセンターを外すということ自体は、当時もう既にリーマン・ショックの後でございまして、このレクセンターはマンション開発用地として活用されるであろうということが考えられる物件でございますから大幅な値下がりをしておりまして、もうマンション事業者も手を出さないと、あの時期では手を出さないというような状況でございましたから、これは外すこと自体はそれは正解であったと思いますが、聞いたのは最後の段階でございますので、通告をされた後聞いております。
○長谷川憲正君 重ねてお答えをいただきましたので、そのとおりなんだろうと思いますが、そうすると、伊藤さんが総務省に対して述べていること、事前に社長まで報告、確認を行ったということ、あるいは、ついこの間の第三者検討委員会の報告書にある順次口頭報告をして確認を得たというのは、事実が違いますね。いかがでしょうか。
○参考人(西川善文君) これは私の記憶に間違いがなければということでございます。あるいは私の記憶が不正確であったのかもしれませんですが、私の頭の中にはそういうものが残っております。
○長谷川憲正君 そこは大変正直にお答えをいただいて、感謝を申し上げます。そのとおりなんだろうと思います。
 いずれにしても、これは社長がおっしゃっていることとこの二つの報告書に書いてあることは一致しないんですよ。どっちか間違っているんですね。そういうことが非常にこれ、売る方にしても、ましてや買う方にしてみれば、今までこういうものが一括売却の対象の中に入っていた、それが抜けるという非常に大きな話でありますから、こういったことがいい加減に扱われてはならないと思うし、会社にとって貴重な財産ですから、それはもう当然のことながら、経営者の中で意識の統一が図られていなければいけないと思うんですけれども、これで見ますと、社長のおっしゃるとおりだとすると、伊藤執行役がうそを言っているのか間違っているのか、要するに独断でやったのかというような話になるわけですね。
 それと同じことが、その下の社宅(9)の簿価割れと書いておきましたが、これは東京周辺にあります九か所の社宅のことでございます。これも今度の一括売却の中にかんぽの宿と一緒に入っているわけです。世田谷のレクセンターは評価が低過ぎるということで外れましたが、この社宅九か所については簿価割れをしておった提案であったけれども、外れなかったんですね。これ一緒に売るという中に入っていたわけです。これは、調べましたら、五月時点で会社が評価されたときは四十六億円という評価をしておられる。九月の中間決算の簿価では三十二億円と計上してある。それに対してオリックスは九億円という簿価割れの評価をしてきた。
 このことについて、本来ならこれもレクセンターと一緒に外すべきですよ、簿価割れしているんですから。それを外さなかったということについて、どうもきちんと担当の伊藤さん、今日はおいでいただいてないんですけれども、最終的な契約を決定するような会議には報告をしてないということらしいんですね。したがって、社外の役員等も含めてだと思いますが、経営陣が認識できなかったと総務省の報告書にあります。
 第三者検討委員会の報告書を読ましていただきましたらば、この伊藤さんはこのことについても先ほどのレクセンターと一緒に報告をして確認を得たということを言っておられるわけです。この点については、簿価割れの社宅を一緒に売ってしまうということについては、西川社長は御認識はあったんでしょうか。
○委員長(内藤正光君) 社長じゃなくていいですか。
○長谷川憲正君 どうぞ。
○参考人(佐々木英治君) 社宅の関係でございますので私の方から御説明をさせていただきますが、このかんぽの宿に係る社宅と申しますのは、旧簡易保険福祉事業団から承継した社宅でございまして、今回のこのかんぽの宿の施設の譲渡に伴いまして一体不可分の関係で譲渡されるのが、私ども経営側とそれから労働組合の側も同様の認識でございました。そういうことで、社員のモチベーションへの影響が懸念されたということもございまして、今回、簿価といいますか、簿価とそれから事業者の評価額は異なりましたけれども、これはかんぽの宿と一体として売るべきであるというふうに私の方といたしましては判断した次第でございます。
○長谷川憲正君 佐々木さんはそういうふうにおっしゃいますけれども、関係の資料をいろいろ読んでみますと、実際に契約の手続等をやっているメリルリンチからは、これも外すべきだという提案がなされているわけですよね。それを途中で無視して一緒に売ってしまう、しかも経営陣が認識できないような形で会議を開くというようなことは、私はもうこれは非常に意図的であるというふうに思っているわけです。
 この件に関しましても、四月七日の西川社長の答弁では、こういうことも含めて聞いていない、後から聞いたというようなお話であったようでありますけれども、これ、私の言っていることは間違いないと思いますが、吉良さん、いかがでしょうか。
○政府参考人(吉良裕臣君) 私どもは報告徴求の場合にこれ全部文書でいただいておりまして、先生がここに書かれていることはこれは文書で、口頭で言った話じゃございません。このとおり、経営会議資料、ちょっと多めに言いますと、経営会議資料及び取締役会資料には九社宅の簿価及びオリックス不動産による評価額は記載しておらず、また各会議の場において口頭での説明を行っておりませんので、簿価とオリックス不動産との評価額の差にマイナス二十三億円の乖離があったことについて、取締役を含む経営陣は認識していませんというふうな回答をいただいております。
○長谷川憲正君 これも会社にとっては極めて重要なことだと思うんですよ。まさに国民の財産であるべきものが簿価割れをして売られようとしている、そのことが経営陣の判断の材料として提供されない。そういうことが事実としてあったとするならば、それは分かった時点でそれなりの対応をされるべきでありまして、いまだに何かこのことで対応されたというのは私聞いておりませんけれども、これは伊藤さんが、言ってみれば個人の判断でおやりになったことなんでしょうか、それとも社長の意を受けてやっておられるということなんでしょうか。これは西川社長、お願いしたいと思いますが。
○参考人(西川善文君) 本件に関しましては、私は、今佐々木専務がお答えいたしましたように、従業員が現に居住しておると、かんぽの宿の運営をしておる宿泊事業部でございますが、こちらの社員が現に住まいをしておるということでございますので、これは一体として譲渡する対象に含めなければならないなという判断をしておったわけでございます。
○長谷川憲正君 表向きはそれだけ聞いたら、ああ、なるほどというふうに思う人もいるかもしれませんけれども、実際には非常に空き家の多いところでありまして、住んでいる人、そんなにいないわけですよね。しかも、これ買うことになったオリックスとの最終の契約なんかを見ますと、実際社宅として使うのは一年ということですか、後はどうなるか分からないというようなことでありまして、わざわざこれお土産に付けたのかなというふうにしか見えないわけであります。
 次に、三つ目の問題点でございますが、メリルリンチ社からの売却中止の提案というのがあります。
 不動産価格が低迷をしているどころか大変な下落を続けておったという状況の中で、たしか三回にわたって、アドバイザーに選ばれたメリルリンチが全体の売却手続そのものを中止するという選択もあるよということを提案をしているわけですけれども、このことが、一回目のときには伊藤執行役は上層部に対しては報告もしなかったということで、無視をした。次には、十一月に入りまして同じくこういったものが提案をされておりますが、これにつきましては西川社長まで報告をしたかどうか執行役は記憶がないと、こういう極めて大事な判断を報告をしたのかしないのか記憶がないと、非常に無責任極まりないと思うのであります。
 これについては、社長の方も後で聞いたということで、大変聞いたのが遅かったことを悔やんでおると、早く聞いたらもっとほかに判断もしようがあったということをおっしゃっているわけでありまして、この点についても、社長、その後、この伊藤執行役に対して何らか責任を追及するとかなさったんでしょうか。
○参考人(西川善文君) 伊藤執行役に対しましては、ただいまのところ特段の処分等は行っておりませんが、第三者検討委員会の結論も出たところでございますので、今後のけじめを付けるために何らかの処置をする必要があると考えております。
○長谷川憲正君 最後に、四点目のところですけれども、インフォメーションメモランダムというものが二年後から黒字化と書いてあるというのが問題点のところに指摘してあります。短く書いてしまったものですから御理解いただけないかもしれませんが、これは、今回の一括売却に対して関心ありということで集まってきたいろいろな業者の方に、アドバイザーの実際に契約手続を担当するメリルリンチが配った資料があるわけでありまして、その中に、日本郵政とも相談をして作ったという資料ですけれども、かんぽの宿というのは赤字赤字と言われているけれども、二年後からはずっともう後黒字になります、収支見通しとして年間十億円から十七億円の利益が出てくるんだと、こういう資料が現実に配られているわけです。
 このことについては第三者検討委員会では残念ながら言及が全くないんですけれども、このことについては度々西川社長が国会で答弁をしておられまして、例えば一月の段階では、衆議院の予算委員会で、このかんぽの宿の事業というのは不採算事業だから、持てば持つほど負担になるんだ、だから早く売却しなきゃいけないんだということをおっしゃっている。このことが実際いろんな新聞等でも引用されておって、赤字の事業だから早く売るのは当たり前だ、これは不良債権だと、竹中さんまでそう言っているわけでありますが、そういう認識をつくっているわけであります。
 最後に、これ、四月の六日の外山委員の決算委員会での質問に対しての西川社長の御答弁ですけれども、そういう資料があることを知らなかった、最近知ったと、こういうことをおっしゃっているわけでして、これ、実際、本当にこのかんぽの宿の売却という非常に大きな取引について社長がきちんと全体を把握していたのかということを非常に私たち疑問に思うわけであります。
 こういった資料を出すというようなことについて、社長は事前に相談を受けるということは日本郵政の中ではないんでしょうか。
○参考人(西川善文君) 重要な事項につきましては一々相談を受け、あるいは報告を受けるということも当然ございますが、このインフォメーションメモランダムと申しますのは企画コンペへの応募者に対する情報提供ということでございまして、これは、私の記憶に間違いがなければ、ある外資系のコンサルタントに依頼をいたしまして、全施設についての今後の収益改善策等を検討してもらい、それを参考に作成した資料であるということを聞いた覚えがございます。
○長谷川憲正君 ちょっとよく理解できないんですけど。
 そうすると、これに関しては社長は事前には御覧になっていなかったし、そういうものを必ず社長に報告をしなければいけないとか、例えば配られたものと社長の答弁が食い違っているというようなときに、日本郵政の部下の方々、今日もたくさんおいででございますけれども、社長の言っておられることと資料と違うことがありますよというような指摘も全く上がってこないんでしょうか。社長にお伺いいたします。
○参考人(西川善文君) 多分、外部のコンサルタントが作った資料でございますので、応募者に対して御参考までということでお配りをしたのではないかと思います。私は存じませんでした。
○長谷川憲正君 これは、買おうと思っている人からすると極めて重要な資料だと思うんですね。しかも、その資料には、外資系の企業とおっしゃいましたけれども、メリルリンチという会社が、お金を払ってアドバイザーとして雇っている企業ですよ、その企業が日本郵政の宿泊事業部と相談の上に作ったと資料に書いてある。そういうものを出していて、それが中身が違うということを社長が言っておられるのに、周りの方が一切情報提供もしない、社長の誤りも正そうとしないというと、一体どういう社員管理をしておられるのかなと。
 私が残念ながら申し上げたいのはそこのところなんです。世の中ではよくガバナンスという言い方が使われまして、私はそういう片仮名英語は嫌いなんですけれども、しっかりと組織を統率して、部下を統率して、それは社長だって間違うことがある、そうしたらすぐに情報が上がってくる、重要な決定については社長にきちんと相談をする、当たり前のことだろうと思うわけですが、今のお話をずっと聞いていると、肝心なところで一切社長のところには相談が来ないという、そういうことになりますよ。そういうことですか。そういう理解でよろしいですか。
○参考人(西川善文君) そういったことでは決してございませんで、本当に重要事項については間違いなく相談を受けております。ただ、その周辺情報については全部が全部私の耳に入るということではございませんでした。
 私自身も、いろいろなことがございますので、例えばかんぽの宿について全部起きている事柄について毎日毎日聞くという時間的余裕もないという状況でございましたので、多分そこをしんしゃくして取捨選択をしたのであろうというふうに思います。
○長谷川憲正君 仮に、部下の皆さんが、社長は御多忙だから大事なことだけ入れようということで、こういうものは大事でないという整理をしたとすると、私はちょっと、それは経営陣としてふさわしからぬ人たちばかりがそろっているんじゃないのかなというふうに思うんです。それは社長の方からも、新聞にもいろんな書き方が出るわけですし、総務大臣からもいろいろ御指摘もあるわけですから、それを重要でないといって受け流しているというのは、それはもういかにもおかしなことだというふうに思うわけでありまして、そんなことはあり得ないと思うんですよね。
 こういう形でずっと答弁をしておられますから、今更うそを言いましたとか、間違えましたとかいうふうにはおっしゃいにくいんでしょうけれども、西川社長は日本でも屈指の有数な経営者でいらっしゃいますよね。銀行業界ではもう赫々たる成果を上げてこられた方ですよ。そして、私も今回改めて昔のことをいろいろ見てみましたけれども、三井住友銀行で頭取をしておられるときにも、それはもうまさにらつ腕といいますか、言葉が過ぎるかもしれませんけれども、敏腕ということで、会社を一手に担ってやっておられた。
 そういう方が、今回のように、部下が勝手なことをして、報告をしてもしなくてもどうでもいいというようなことをなさるはずがない。だから、それはもう包括的にこういう形でやれということを言われたから報告がなかったんだろうというふうに私は思っているんです。
 このことに関しては、私は総務省の調べた資料を拝見をして申し上げているわけでありまして、実際にもっと事細かに調べられて報告を受けておられる鳩山総務大臣は、このいわゆるガバナンス、西川社長のガバナンスについてどうお受け取りになりましたでしょうか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) ある方は、西川社長は被害者なのではないかと言った方はいますよね。それは、いいように部下にやられてしまったんではないかということを私におっしゃった方はいますけれども。
 やはり今、長谷川憲正先生がおっしゃったように、最後のバンカーと言われるようならつ腕の方が請われて日本郵政の社長になられた。これは公的な会社でありますから、特殊会社でございますから、国民の利益に直結をする問題で、利益が上がればいいというものではないと。例えば、いわゆるユニバーサルサービスというものが四つの会社とも全部求められていくと。
 そういう中で、今やり取りで聞いておりましたが、そういうことは知らなかった、あるいは聞いていなかったという話が多過ぎるのは、これは私も好きな言葉ではないんですが、ガバナンスができていなかったということになるだろうと。
 今、インフォメーションメモランダムの点で、将来は利益を生むかんぽの宿であるというのがあったわけで、それもお読みでなかったようではありますが、問題は、簡易保険法によって、かんぽの宿は加入者福祉施設であって、もうけてはいけない、ただで泊めても、ただで温泉に入れてもいいんだ、ただし一部の費用は利用者から取ってもいいというそういう福祉施設であるから、当然なかなか黒字にはならないと。赤字という表現が正しいかどうかも分からない。赤字じゃなくて、これは福祉施設なんだから、福利施設です、福利厚生施設ですね、一般的に言うならば。とすれば、赤字が出るのが当たり前だ。片や、赤字が出るということは不良債権だと。千円で売ってもいいんだ、千円で売ったら四千九百万円に化けたと、一万円で売ってもいいんだ、一万円で売ったら六千万円に化けたというような話が多過ぎるわけですね、郵政に関しては。
 ですから、私は簡易保険法によってかんぽの宿が言わばもうけることを禁止されていたということを西川社長がお知りであったのかどうかなということも実は疑問に思っておりまして、やっぱりこうなってくると、好きな言葉ではないが、ガバナンスの問題は問題があり過ぎると、こう考えております。
○長谷川憲正君 ありがとうございます。
 私もいろんなことを御指摘をさせていただいたんですけれども、結論的に申し上げたいのはそのことなんですね。私は、個人としてはひそかに心の中では、いや、これは部下任せに社長がなさるはずがないので、包括的にこういうことを了承してやっておられたんだろうというふうに思っているわけですが、仮にそうでないとするならば、これはもう手抜きも甚だしいし、いわゆる丸投げですよ。手抜き、丸投げ、でたらめ経営ということになるわけでありまして、非常に悪い言葉ですけれども、経営者としてはぼんくらということになっちゃうんですが、そんなことはあり得ない。西川さんのような方がそんなことはあり得ないのであって、私は、やっぱりきちんとこれは今後とも解明をしていく必要があるというふうに思っているところであります。こんなことではどんな会社でも株主はどこも了承しないというふうに思っているわけでありまして、日本郵政の場合には国が唯一の株主でございますから、国に対してきちっと説明するのは当然なことであります。
 そこで、もう時間もなくなりましたので最後に一言申し上げますけれども、冒頭から申し上げたように、日本郵政の社長の人事ということについて言えば、今申し上げたようなことも含めて、それ以外にもたくさん問題点の指摘がなされておりますけれども、そういうものに対してやっぱり社長が社長として適切に役割を果たしてこられたのかどうか。これはもう西川社長の個人的な持っておられる資質だとか力量だとか御性格だとか、そういう話ではないんです。そうではなくて、実績として社長として果たすべき役割をきちんと果たしてきたのかどうかというその評価の上に立って指名委員会も株主総会も物事をお考えになるべきだというふうに私はもう単純に思っているわけでございます。
 それで、仮にふさわしくないと。今の御答弁のようなことだとすると、これはもう申し訳ないんですけれども、全くふさわしくないと私は思います。続投に強い意欲をお示しになったというのは、それは経営者の立場におられる方として当然だろうとは思いますけれども、こういうやり方を今後も続けるんだったら、それはだれも納得しませんよ。西川さん御自身はいかがなんですか。今のような仕事のやり方で今後もやっていかれる、そのことが世の中の期待にこたえることだというふうにお思いなんでしょうか。これ最後にお伺いさせていただきます。
○参考人(西川善文君) お答えいたします。
 総務大臣からもいろいろな御指摘をちょうだいしております。したがいまして、改善、是正に向けた必要な措置を講じてまいりますとともに、事業の経営改善に向けて真摯に対応したいと考えております。私自身にもいろいろと至らぬ点もございますが、私といたしましては、いったんお引き受けした以上、民営化の土台をしっかりと築くことが私に与えられた責務であり、また果たすべき責任であると考えているところでございます。
 以上です。
○長谷川憲正君 これからはしっかりやりますという御意味かなというふうに理解をしましたが、再三申し上げているように、今までやってきた実績というものを無視するわけにはいかないわけです。
 世の中には立派な経営者がいっぱいおられますから、どういう人が日本郵政の社長にふさわしいのか、それは政府がお考えになるんでしょうけれども、当然その中で西川さんが筆頭におられるということは間違いないと思いますが、しかし西川さんの場合には白紙で議論するというわけにいかないので、今まで社長としてやってこられた実績がある、そのことを私たちは見たときに、今のように部下が勝手なことをやっていても、そのことに対してとがめもしない、多くの方々に間違った情報が流れたままになっている、自分もきちんとした理解をしていないということであるとすると、これはもう本当に経営の体を成さないわけでありまして、鳩山大臣には大変、何か世の中の悪者役を一手に引き受けていただいているようなところがちょっとありましてお気の毒だなと思うんですけれども、しかし、それは監督官庁として言うべきことを言っていただくのは当然でありまして、事業を正しく経営をしていくために言いにくいことはきちんと言っていただかなきゃならないし、ましてやそういうことを無視して社長人事というものが行われるようなことがあってはならないと。
 これは最終的には麻生総理がお決めになることだとは思いますけれども、そういう意味で鳩山大臣に私たちとしては大いにエールを送りたいというふうに思っているところであります。野党からエールを送られて迷惑だよとおっしゃるかもしれませんが、お考えを最後にお聞きをして、終わりたいと思います。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 私としては、今日のやり取りをいろいろお聞かせいただいておりまして、西川社長に対する私は、先ほどから申し上げましたように、何の感情的なものを持っているわけではありません。ただ、日本郵政という巨大な特殊会社の長として統治能力がどうであったかと。国民の共有の財産がかすめ取られそうになることをお認めになってきた。その責任は、それは私が西川社長をどんなに尊敬していたとしても、その部分は私は監督官庁として認めるわけにはいかないと。
 さっきちょっと申しましたが、六月三日に日本郵政グループの責任代理店である博報堂との契約の関係について報告徴求をしました。これは簡単なことですから翌日返事をしてくれということで、六月三日にお尋ねをして六月四日に報告を受けましたけれども、実は私どもがお尋ねしたことについてはお答えにならなかった。つまり、逮捕者が出たのにまだ博報堂との関係を続けるという指示が回ったじゃありませんか、どういう人がいつどこでというような意味のことを聞いたつもりなんですが、答えがなかった。
 答えがないというのはどういうことかというと、日本郵政株式会社法第二十一条によれば、私の報告徴求に報告をしない、若しくは虚偽の報告をした場合は三十万円以下の罰金と、こういうことになっているわけですから、報告を求めて、しないというのは本来犯罪にもなり得ることだと。何も大げさにしようとは思いませんけれども、それもガバナンスのなさだと思いますよ。報告徴求、私は法律に基づいてしているんですよ。それに答えない。そういう日本郵政株式会社という会社が正しいガバナンスの下で運営されているとは私は思いません。
 そこで、最後のお答えでございますが、私には御承知のように、憲法第九条ではなくて、日本郵政株式会社法第九条によって認可権限が与えられております。この認可権限には財務大臣協議という項目は入っておりません。いろんな権限は財務大臣協議なんですが、この権限は財務大臣協議になっておりませんから、総務大臣の独自判断でやれということであろうと思っておりますので、私はその権限を持っているということを重く受け止めて、私の考え、信念に基づいて権限を行使していきたいと思っております。

 (中略)

○山下芳生君 日本共産党の山下芳生です。
 日本郵政の社長人事が国民の注目を集めております。日本共産党は、西川善文氏が日本郵政の社長に就任したときから不適格として反対してまいりました。理由は、かつて三井住友銀行が中小企業に対し金利スワップ商品を押し付け販売して、大きな被害を出したそのときの責任者、頭取が西川氏だったからであります。しかし、当時の竹中大臣が西川氏には知見があるからと社長に就任させました。その結果、日本郵政で何が起きたか。
 今日はパネルにまとめてまいりました。(資料提示)日本郵政西川社長、六つの責任というふうにまとめてまいりました。
 一つは、これはもうよく知られた二千四百億円で造ったかんぽの宿がわずか百億円余りで売り飛ばされようとするなど、国民の財産をたたき売りにした。それから二つ目に、ゆうちょ銀行がクレジットカード事業に参入する際に三井住友カードと提携をした、あるいは、巨額の郵政資金が三井住友系の信託に預託されているなど、西川社長出身の三井住友グループとの癒着が余りにも目に余るということ。そして三つ目に、かんぽ生命の保険金未払が公表されなかった。数十万件から百万件を超える未払があることを把握しながら、国会で私が追及するまで一切明らかにしませんでした。そして四つ目に、今質疑があった障害者団体向け第三種郵便の悪用を見逃し続けてきた。そして五つ目に、簡易郵便局が四百か所全国で閉鎖される、あるいは各種手数料が何倍にも値上げされるなど、国民サービスが低下をした。そして六つ目に、現在郵政グループには二十一万人の非正規労働者の皆さんがいらっしゃいます、働いておられます。日本の最大の非正規労働者を抱える企業グループですが、その非正規の郵政で働く皆さんが月十万円あるかないか、本当にワーキングプアに置かれているし、その上、最近またその待遇が切り下げられようとしてきたなどであります。
 西川社長の下で国民はこんなに被害を被った。私は責任を取ってお辞めになるのが当然ではないかと思うんですが、社長の見解を聞きたいと思います。
○参考人(西川善文君) お答えいたします。
 私自身にもいろいろと至らぬ点もあり、今から思えば反省すべき点もあったかと考えますが、私といたしましては、先ほどもお答え申し上げましたとおり、いったん引き受けました以上、民営化の土台をしっかりと築くことが私に与えられた責務であり、また果たすべき責任であると考えておるところでございます。
 以上です。
○山下芳生君 私は、だれに対して何の責任を全うするのかが鋭く問われていると思うんですね。この六つの西川さんがおやりになったことを振り返ってみますと、出身の三井住友グループに更に利益を供与する責任を果たそうとされているのか、あるいはまたオリックス、リクルートなど、規制緩和を推進してきた企業グループに新たな利益を与えるために責任を全うされようとしているのか、そう思いたくなるわけですね。
 国民に被害を与えたという自覚と反省が余りにもなさ過ぎると思います。そういう自覚と反省ありますか。この六つ、どうですか。
○参考人(西川善文君) 六項目一つ一つについてお答えする時間的余裕もないかと存じますが、中でも、ゆうちょ銀行のカード事業など三井住友と癒着という御指摘をいただいておりますが、これは、やはりカード事業につきましては大手数社に企画提案をお願いして、そしてコンペの中でゆうちょ銀行として決めたというふうに私は理解をいたしておりまして、決して私が三井住友カードを強く推薦するとか、あるいは三井住友カードのいいところを主張するとか、そういったことは全くございませんでした。
 以上です。
○山下芳生君 幾ら社長がそうおっしゃっても、客観的にはそう見えるようなことがいっぱい起こっているわけですね。
 現に、日本郵政の中には、先ほど出席された横山専務執行役、妹尾常務執行役、みんな西川さんが三井住友から連れてこられた、いわゆるチーム西川と言われる方々ですね。そういう方が配置されて、こういうカード事業一つ取っても、一つだけじゃないです、不動産売却だって三井住友系のいろいろなところが利益を被るような売却がやられております。
 ですから、責任をどう取るのかというときに、方向が私は間違っていると思う。あなたが見当違いの責任を全うすればするほど国民の被害は拡大する。国民共有の財産が食い物にされて、地域社会を支えてきた郵便局のネットワークがほころんで、職員のモチベーションが下がるという事態になっていると思います。私は、あなたがお辞めになることが国民の立場から郵政事業を再生させる第一歩になるということを指摘しておきたいと思います。
 鳩山総務大臣に伺いますが、日本郵政株式会社法第九条には、「会社の取締役の選任及び解任並びに監査役の選任及び解任の決議は、総務大臣の許可を受けなければ、その効力を生じない。」とあります。国民の立場に立つなら、私は、仮に株主総会で西川氏が取締役社長に選任されたとしても総務大臣として断じて認可すべきでないと思いますが、大臣の考えを伺いたいと思います。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 政治家になって以来、日本共産党と余り意見が合ったことがないんですが、今日は八割方、大体御意見、私すんなり入ってまいります。
 特にカード事業の問題は、三井住友のカードをやっておられる方が日本郵政に入られて、猛烈に運動されて、見事にカードは三井住友になったという話も聞いておりますから、法的に云々ということはありませんが、やっぱり公的な会社ですから、国民から見て、要するに、何度も言っている李下に冠を正さず、瓜田にくつを入れずという部分が全くできていないということがあるわけです。それは、例のJPエクスプレスの件も同じです、これ以上申し上げませんけれども。いいとこ取りをしようとしているというのも見え見えでございます。
 そういう意味で、私は西川社長という方は立派な方だと思いますし、尊敬すべき方だと思いますが、日本郵政グループを率いていく中でこうした問題がいっぱい出てきておりますので、それは私なりに考え方を持っているわけでございます。
 日本郵政株式会社法第九条の規定の重要性は、これは財務大臣協議が入っておりません。ということは、財務大臣が株主総会で判断をすることと総務大臣が取締役について判断する基準は違うということです。財務大臣は何か投資したもの、出資したものの安全が保たれればいい。私はそうではない、郵政すべてがうまくいかなくちゃならぬと、そういう観点でございますから、財務大臣協議でないということは、私が単独で懸命に考えて、信念に基づいて判断をするということでございます。
○山下芳生君 西川社長に伺います。
 大臣の判断には従われますか。
○参考人(西川善文君) お答えいたします。
 それは、法律の決めたことでございますから、法に従うまででございます。
○山下芳生君 進退問題について、大臣の判断に従うことを西川社長がお認めになりました。大臣はしっかり判断していただきたいと思います。
 西川社長をかばうわけではございませんけれども、先ほど紹介した六つの責任は決して西川社長個人の問題から生じたものではありません。郵政民営化路線そのものの当然の帰着だと思います。
 元々、郵政民営化の要求は日米の大手金融機関から出てきたものです。三百兆円を超える郵便貯金と簡易保険、国民の金融資産を日米の民間金融機関に明け渡せと迫ったのが郵政民営化の出発点でした。そこから先ほど並べた国民の被害が生まれてきているわけですから、西川社長の辞任は当然ですが、それだけでは問題は解決されないと思います。郵政民営化そのものを根本的に見直すことがどうしても必要だということを指摘して、次のテーマに移りたいと思います。
 郵便事業会社の高齢再雇用制度について質問します。
 まず、厚生労働省に、高年齢者雇用安定法に掲げられた継続雇用制度とは何か、概要と趣旨について説明を求めます。
○政府参考人(岡崎淳一君) 御質問の高齢者雇用安定法第九条で高齢者雇用確保措置が定められております。
 これは、六十五歳未満の定年、今はまだ経過措置期間中でありますから六十三歳でありますが、それ以下の定年を定めている事業主につきまして、六十五歳までといいますか、今は六十三歳までにつきまして、定年を引き上げるか、継続雇用制度を導入するか、あるいは定年を廃止するかということを求めたものでありますが、継続雇用制度というのは、現に雇用している高齢者の方が希望するときには定年後も引き続きその年齢まで継続して雇う制度と、こういうものでございます。
○山下芳生君 郵便事業会社における〇九年度の高齢再雇用社員の受験者数と合格者数、それぞれ何人ですか。
○参考人(團宏明君) お答えいたします。
 郵便事業会社におきましても、高齢再雇用制度をつくっております。
 今御質問の〇九年度の選考試験の受験者が千二百七十四人、合格者は千百五十一人でございます。
○山下芳生君 現に雇用されていた労働者が継続雇用を求めたにもかかわらず、一千二百七十四人中百二十三人、一〇%が不採用になっております。これは高齢者雇用安定法の趣旨に照らして私は大きな問題だと思います。
 この制度は年金支給の開始年齢の引上げに伴う措置ですから、六十五歳に定年延長しない場合の代替措置ですから、これ法律の趣旨からいっても希望者全員が採用されるべきだと思うんですが、どうして一〇%もの労働者が不採用になったんですか。
○参考人(團宏明君) 当社の高齢再雇用社員制度でございますけれども、これは法律に基づきまして高齢再雇用社員の選考基準というものを労働組合との協約及び高齢再雇用社員就業規則によって定めております。その基準にすべて該当する者は高齢再雇用社員として採用することとしてございますけれども、このすべてに該当しないという職員がいたために、残念ながら今議員御指摘の数の方が再雇用にならなかったというものでございます。
○山下芳生君 ちょっと納得できませんね。まあまあ聞きましょう。
 その基準、三つ全部言ってください。
○参考人(團宏明君) 協約等に決めております基準でございますけれども、選考基準としましては、一に、選考における面接試験又は作文試験の評価が著しく低くない場合、それから二番目に、身体検査の結果、就業可能と判断された場合、三番目に、正社員の人事評価に基づき実施した人事評価結果を二百点満点で点数化した直近二年間の人事評価結果が、いずれも八十点以上である者又は八十点未満であっても面接試験の評価が良好と判定された者というものが選考基準になっておりまして、この選考を面接試験等で行っておりますけれども、それに該当しなかった者がいたということでございます。
○山下芳生君 私のところに近畿支社で不採用になられた、Nさんとしておきましょう、という方から手紙が届きました。
 Nさんは、私は人事評価はシートAかBだと。その評価は毎月の手当にも反映されている。平成十九年、二十年の二年間で支店長から三回も表彰状を受けている。イベント小包も、イベント小包というのは母の日、父の日、お中元、クリスマスというときにいろいろ小包を買っていただく方を増やすことですけれども、平成二十年度で五十個を達成した。暑中見舞いはがき二百枚、年賀郵便はがきは八千枚販売してきた。会社の方針に従って必死で努力してきたと、こうありました。Nさんのいた職場では、今年の四月の勤務表にこのNさんの勤務が書き込まれていたんです。周りはみんなNさんは高齢再雇用者に当然採用されるものと思っていたんですね。ところが採用されなかった。
 表彰状も届きましたけれども、こういうものですね。「表彰状 年賀王特別賞」「あなたは「平成二十年用お年玉付年賀葉書におけるインセンティブ施策」において、積極的な予約・販売活動に取り組まれた結果、優秀な販売成績を収められました。 よって、ここにその努力と功績に対し、報労品を贈呈するとともに表彰いたします。 今夏の「かもめーる」予約・販売においても、活躍されることを期待しています。」と。これ支店長名ですよ。
 こういう方、優秀な労働者が不採用になっている。Nさんは、何で不採用になったのかを当然支社に聞くわけですけれども、総合的に判断したという回答しか返ってこなかった。これ納得できるはずないじゃありませんか。
 これ厚労省の指針には、もう時間がありませんから、高齢再雇用の基準は具体性がなければならない、そして評価に客観性がなければならない、そしてだれもが、なぜ不採用になったのか予見できるようなものになっていなければならないと、こうありますけれども、具体性も客観性もなければ予見なんかできない。みんな採用されると思っていた、予見していたのに違う結果になったということですね。
 私は、郵便事業会社は法律の趣旨に反して継続雇用制度を恣意的なものにしていると言わざるを得ません。優秀な労働者を不採用にするのは郵便事業にとっても損失です。
 総務大臣に伺いますけれども、これ必要な資料を後で提供しようと思いますけれども、何でこんなことになったのか調査をして改めさせていただきたいと思いますが、いかがですか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 私も昔、労働大臣というのを六十四日間だけやったことがありまして、羽田内閣でございました。
 高齢者雇用安定法というのも大事な法律でございます。特に、郵政関係は専門知識が要りますよ。それから、地域であるならばなじみになっているということがありますから、したがって、高齢者の再雇用というのは私は非常にいい仕組みだと思っております。
 なぜ今具体的に言われた件が不合格であったのかは調べてみます。
○山下芳生君 調べるということでした。
 実は、Nさんだけではないんです。お手元の資料に、郵便事業会社の資料を基に各支社ごとに高齢雇用社員の採用状況を一覧にしてみました。こうやって並べてみますと、やっぱり近畿支社の不採用が人数、率とも飛び抜けて多い。二百三十三人受験して不合格が四十四人ですから、全体は九・七%ですが、ここはもう二割近い人がはじかれております。
 郵産労の調査では、大阪中郵支店は十人受験して四人不採用です。新大阪支店も十人受験して二人不採用です。尼崎支店、四人受験して二人不採用。姫路支店、七人受験して二人不採用。神戸中央支店、十六人受験して五人不採用。向日町支店、二人受験して二人とも不採用。四割、五割の人が不採用となった支店も少なくありません。不採用とされた社員は、現に雇用されて健康上も就業可能であって、直近二年間の人事評価もおおむね八十点以上の方ばっかりなんですね。
 総務大臣、近畿支社の実態は、継続雇用を求める労働者を恣意的に不採用にしているんじゃないかと私は疑いを持ちます。Nさんのケースだけではなくて、近畿支社全体を調査する必要があると思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) その点も、他との整合性がありませんから、調べてみる必要があると思います。
○山下芳生君 一方で特定の企業グループに莫大な利益を供与してきた民営化された郵政が、労働者をこんなふうに粗末に扱うなんてもってのほかだということを指摘して、質問を終わります。
○又市征治君 社民党の又市です。
 改めて西川社長にお伺いしたいと思いますが、先ほど山下さんは六つの責任というふうにパネルをお出しになりましたが、私はもっと多いんではないのかと。
 一つは、一番冒頭から言われているように、国民共有財産であるかんぽの宿や不動産の疑惑に満ちたたたき売りの問題、二つには簡易生命の未払問題、三つには郵便事業における低料第三種の不正問題、そして四つには、度重なる年賀状などのノルマ販売など職員の酷使の問題、五つ目には、二百億円以上の課税申告漏れと九十二億円の追徴課税、六つには、利益相反、背任と見られる横山専務らの社宅の問題、七つには、カード事業の三井住友との癒着の疑惑問題、そして八つには、先ほども出ましたが、簡易郵便局の閉鎖であるとか、分社化に伴って一番根本であったユニバーサルサービスが低下をしておるという問題、こういう問題などがあると思うんですが、先ほどから西川さんは、いろいろと反省をする点があるとおっしゃるけれども、そのいろいろ、総括的にもう少し国民にこの場を通じて説明をいただきたい。
○参考人(西川善文君) 反省点はいろいろございます。先生がただいま御指摘をいただいた項目それぞれについて、もう一度よく考え直してみる必要のあるところだと存じます。一部に私は認識が違うんではないかと思われるところもありますが、それはともかくといたしまして、総括的に反省をしなければならないということはもちろんそのとおりでございます。
 ただ、公社時代の話も含めまして、民営化の過程でグループ各社において予想外の様々な問題が出てきたことも事実でございます。国民、利用者の皆様に御迷惑をお掛けしたという点については、日本郵政グループを代表しておわびを申し上げたいと存じます。
 以上です。
○又市征治君 私もすべてが西川さんの責任だと申し上げているつもりはありません、それは公社時代の話もあるわけですから。しかし、経営というのは一面では継続をしているわけですから、そういう点での結果責任という問題はこれはどうしてもあるわけですね。そういう意味で西川さんを結果的に我々追及せざるを得ないわけでありまして。
 私は、こういう問題が次々に起こっている背景というか、ここのところは、やはり強引な民営化による利益優先の経営、あるいは三事業を四分社化するなんというこんなばかげたことをやったこと、そうしたことが、全国津々浦々における三事業のサービス低下であるとか、あるいは郵便労働者を結果として酷使をしたりという問題が起こっておるし、そしてまた一連の不祥事であるとかという問題をもたらしている。こういう負の中間総括というものをしっかりとやられるべきで、いろいろと考えてみにゃならぬという話を今されたんでは困るんです、これ。今ここではむしろ総括をきっちり出されにゃいかぬ、国民に対して。株主総会、これだけ大きな問題になっているんですから。
 当分の間、郵政グループは、今申し上げたようなことに対しての是正をする経営方針こそが今求められているんだろうと思いますね。つまり、大臣の言葉を借りて言うと、国有に戻す以外は聖域なき見直しが必要だということをまさに今やらなきゃならぬ、この時点に来ているんだろうと思う。
 これは視点は違うけれども、政府は日本政策投資銀行についてもやみくもに民営化、民営化なんて言っていたけれども、ちょっとこれは方向転換をしたわけだよね。悪性インフルエンザならぬ民営化のはやりというのは、これはやっぱりもう一遍、これだけの時間がたってみたら、大臣の言葉、なかなかうまいことをおっしゃるなと思ったけれども、かさかさした社会つくっていいのかと、潤いのある社会でなきゃならぬと、こうおっしゃった。そういうことが今見直しの時期に来ているんじゃないか、こう思いますが、これは何も郵政の社長にそのことを今お聞きするつもりはないんです。これは私の意見として、今日せっかくの委員会ですから、皆さんにもお訴えしておきたいと思います。
 そこで、少し具体の問題を幾つか聞いておきたいと思うんですが、先ほど同僚議員からも出ましたが、横山専務の疑惑について私は、低料第三種問題にも絡んでいる、こんなふうに思います。
 横山専務が決裁した博報堂の一括契約によって、十九年度の博報堂への支出は何と前年度の十九億円から一挙に七倍の百四十六億円に上がった。また、二十年度、その翌年ということになりますが、二百二十二億円にも増えている。横山氏がこの利権を与えたとも言って過言でないんじゃないかと、こう思うんですが、そこで、先ほど大臣がむしろこのことをおっしゃったが、横山さんは四月十六日、博報堂エルグの社長らが逮捕されても、さらには五月七日の博報堂本社から契約自粛の申入れがあったにもかかわらず、まだ博報堂とずっとやりなさいということを指示をし続けた。これは極めて奇怪な、いや、公的な組織の専務としてあるまじき行為ではないのか。大臣、うなずいているけれども、まさにそうだと。そこで、総務大臣が六月三日に、何だこれはと、こう指摘をなさって、ようやくこれは転換を図る、博報堂との契約はやめると、こうなった。
 なのに、西川さん、そこで私は聞きたいのは、あなた、四月、五月の段階でこうした状況があったにもかかわらず、何ら是正をされない、その指示もなさらなかった、大問題になっているのに。これはなぜだったんですか。
○参考人(西川善文君) 博報堂との契約につきましては、博報堂エルグの役員の逮捕後、グループ各社の契約状況の調査を行うとともに、捜査等の進展に応じて適切に対処することといたしておりました。横山専務の事柄については、誤った情報が伝わっているんじゃないかというふうに私は理解をいたしております。
 その後、同社の役員が起訴されたこと等を踏まえまして、当面、新規の契約は見合わせることとし、博報堂を責任代理店とすることをやめるということとしたものでございます。
○又市征治君 総務省に対する報告徴求に対して答えなさっていることと違うんじゃないですか、これは。私、あなたのお話聞いていて、どうも時々腑に落ちなくなる。意見が違ってもいいんだけれども、しかし腑に落ちない。
 あなたは前に私に対して、いや、横山氏は優秀だと、三井住友はいつでも戻ってこいと、こう言っている、こう開き直られた。今回も彼をかばって、彼のところへまともな情報が上がっていなかったんじゃないかと。私、そんなこと聞いているんじゃなくて、これだけ問題になっているのに、そして総務省からの報告徴求に対しても公式にお答えになっているのに、まだこれをかばっておいでになる。つまり、国民から預かった国民共有財産である郵政会社、これを何だと心得ておいでになるのか。私、この一事をもってしても、あなたね、国一〇〇%出資会社の責任者として、どうもこれは納得できないと、こう言わざるを得ない。
 鳩山大臣、この問題について、ちょっと違うんじゃないですか。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 又市先生、雄弁に語っておられるとおりなんです。
 四月二十一日に、さっきも言いましたけれども、横山専務の判断として博報堂は切らないと、早急に切る必要はないということが言われているんです。四月二十三日の宣伝会議では、多分、日本郵政から子会社全部集まる会議で、これは責任代理店という制度があるからこういう会議をやるんでしょう、この案件は経営判断であると、新たな方針を示さないということはそのままの方針であると。つまり、博報堂を使い続ける、経営判断として決定したのだから、異議があれば横山専務に申し立ててくれという発言があっているんですね。つまり横山専務が、いろいろあったがこれからも博報堂でいくと、だから文句があったら横山専務に言えと、こういう話になっている。
 その辺が余りに不透明で、まさに何らかの癒着があるんではないかと思うでしょう、常識的に。思うから報告徴求したら、この部分について全く答えなかったんですよ。もう私をこけにした、ばかにしたような報告書、法律上の報告徴求したら何にも書いてこない。そういうガバナンスは問題ですよと私は申し上げている。
○又市征治君 そこで、次の問題に移ります。
 もう一つ、四月に発足した日通との小包合弁企業、JPエクスプレスでは、非正規社員、いわゆるゆうメイトの大量首切りをしようとしている。これを私は三月十九日、この委員会で質問して、あなた方は、非正規社員から正規社員に登用するという雇用政策、さらには一昨年十一月、これもこの委員会で西川さん、答弁をいただきましたが、非正規のウエートが非常に高くなってきたと、これはいろいろとマイナス影響も出ていると、こうおっしゃった。こういう認識と今の対応、全く違うんじゃないのか、おかしいんじゃないのか、こう答えながら。国会をばかにしているのかと、こう言いたくなる。
 具体的に伺いますが、JPエクスプレスへ日通の労働者の皆さんは多くがそのまま継続して雇われるけれども、郵便事業会社由来の期間雇用社員の方は新会社にほとんど異動できない。全国で数千人から一万人が非正規ゆえに職を失うのではないか、こう言われている。
 まず、現在、郵便事業会社の期間雇用社員十五万人余りのうち、ゆうパック事業に携わっている人の数。二つ目に、またそのうちJPエクスプレスに移行できる人数は何人と見ているのか。三つ目に、その差、つまり会社都合によって職を失う人たちの数と、これにどういう一体全体雇用政策を取ろうとしているのか、これについてお答えください。
○参考人(伊東敏朗君) お答えいたします。
 郵便事業会社におきまして現在ゆうパックにかかわっている社員についてのお尋ねでございますが、特に期間雇用社員についてのお尋ねでございますが、トータルとして、期間雇用社員、現在十五万二千人雇用しております。当然のことながら、一人で手紙、はがきの仕事をしたり、ゆうパックの仕事をしている人が多数おりますので、何人がゆうパックを扱っているという数字の把握はしておりません。したがって、ゆうパック業務に携わっている社員数ということでは今データは私ども持っていないものでございます。
 それから、何人JPEXに必要としているのかということでございますが、トータルといたしまして、JPEXが日通のペリカン業務、それから郵便事業会社のゆうパック業務を行うに当たりまして必要な契約社員数というのは八千五百人を予定しております。
 その言ってみれば差引きがどうなるのかという御指摘でございます。これにつきましては、当然のことながら、二つの事業を一緒にすることによって効率的なネットワーク、効率的な会社ということを目指しますので、その間に当然のことながら必要となる人員調整というのは出てくると思っておりますが、可能な限りそれぞれの関係者の希望を踏まえた上で、先生御心配のようなことにならないような対応を今後していく予定でございます。
○又市征治君 伊東さん、あなたいつもそう言われるんだよね、あなた方の答弁というのは。
 既に四月から十五万人全員が六月までの三か月雇用に短縮されている、現場では。明日の我が身も分からないという不安を募らせているわけですよ、この人たちは。そこへ、一人ずつ呼び出されて、あなたがおっしゃったようにみんなの意向を聞いている。意向確認書を書かされて、賃金ダウンや業務替え、遠方への配転を選ばされて、嫌なら自発的に退職せよ、こういう誘導じゃないですか。そして、行くのも残るのも保証はないよと。つまり解雇通告ですよ。
 八月と十月で新会社に完全移行により全国で数千人から一万人が非正規ゆえに職を失うといってみんな不安がっている。新会社への採用数一覧が公表されていますね。例えば、千葉県内の浦安、船橋、千葉の三か所だけで推定二百人がいわゆる雇い止めにされる、こう見られている。
 しかし、これは大変に違法行為ですよ。事業譲渡による解雇というのは平成十五年四月十日の厚生労働省通知で禁止をされています。期間雇用だといっても、実際はそれをどんどん更新をし続けているわけだからこれは適用されないんだ、そういう臨時みたいな格好ではね。だから実質はこれに抵触をする。
 そこで、西川社長、お聞きになっておって、雇用安定、非正規労働者は今切り捨てはいかぬ、派遣切りやめさせろと、こう政府も言っているわけですよ。そのときに、政府一〇〇%の出資会社で、孫会社でこういう不当解雇を制度化をするなんというばかな話、これ許されていいんですか。
○参考人(西川善文君) 先生の御指摘誠にごもっともでございまして、JPEX一社については今伊東常務がお答えしたとおりでございますけれども、グループ全体としてやはり雇用という問題を考えてまいらなきゃならないというふうに私は思っております。
 以上です。
○又市征治君 何か意味がよく分からないですね。もうちょっと責任を持って、何か聞いていると、私も余り人の首切る話を一緒にするのは嫌な方なんだけれども、だんだんだんだん何を言っているんだかという、今具体の話を聞いているときに、まして事前通告してあるわけでしょう。
 そこで、社長、もう時間がなくなってきましたから、今冒頭から申し上げてきた、あるいは今日の委員会が長谷川委員以下ずっと問うてまいりましたかんぽの宿の売却を始めとしてこれまで出されている不祥事やあるいは疑惑、あるいは不適切な経営問題、責任が大きく問われている。これは政争の具なんというたぐいのものじゃないんですね。
 加えて、決算が黒字とはいえ、中期計画を大きく下回っています。六月二十九日の株主総会を控えているわけだけれども、再任はおかしいというのは国民の今や共通の理解になっている。さっき長谷川さんもおっしゃった。先週行われた民放の二つぐらいの調査を見ますと、やはり西川さん、お辞めになるべきだというのは七割、こんな格好だ。鳩山さんが言っていることはよく分かると、こういう格好になっている。仮に西川社長の人事が国会同意人事なら、間違いなく参議院では否決ですよ、これは、今この空気は。そのことをしっかりと受け止められるべきだと私は思う。
 民営化推進のお仲間である指名委員会がどう言われるにせよ、これだけ国民の信頼を失って、責任者が責任を取らないで事業がうまくいくわけがない。経営者、指導者というのは、これは釈迦に説法だけれども、結果責任じゃありませんか。
 そういう意味で、あなたを始めとした、私は人心一新をもって出直しが必要なんではないかと、こう思うけれども、晩節を汚されないように、あなたの決断をここで最後にお伺いしておきたい。
○参考人(西川善文君) お答えいたします。
 先生の御意見をよく受け止めまして考えてまいりたいと思います。
○又市征治君 最後に、大臣に伺います。
 あなたの日本郵政の今日のありように対する様々な指摘、これについてはこの委員会全体的には多くの人が支持をしてきた、私もその一人であります。
 しかし、先ほどもちょっと申し上げましたが、残念ながら政治家の中にもこれを政争の具として扱っていろいろとしゃべる人がいる。あるいは、一部のジャーナリズムも事の本質を見失ってそういう報道をされている。ひどい例は、与党のある幹部は、鳩山氏は選挙が強くない、選挙のことを考えて、かんぽの宿問題で人気があったので突っ走るしかないんだろうと。どこかのまた幹部は、鳩山氏も西川氏もどっちもどっちだと。これで一体全体、国民共有財産問題をどうするかという論議をしていることに対して、かつて総理か何か知りませんけれども、こんなことを言っている人がいるのは情けないな、同じ政治家としてと、こう思います。
 私は、冒頭申し上げたように、強引な民営化による利益優先経営と三事業の四分社化、そして三事業のユニバーサルサービスの低下と郵政労働者の酷使、そして一連の不祥事をもたらした、こういうことだと思いますけれども、だからこそ今その是正が日本郵政に求められている、グループ全体に求められている、こんなふうに思うし、そのことに頑張ってもらいたい。こういうことで現場で働く人々には特にそのことを呼びかけたいと思うんですけれども、その観点から、大臣が日本郵政に一連の不祥事や不適切経営の責任を問う権限を行使されるとおっしゃっていることについては支持をしたいと思う。
 と同時に、私は、そのことについての大臣のもう一度改めて決意と、もう一つは、そうは言いながら、総務省はこうした不祥事続きの郵政そのものの監督責任もある。この問題もどうするのかという問題もまた私は問わなきゃならぬのだろう、国民もまたそのことを求めているだろうと思う。
 そういう意味で、あなたがおっしゃる正義の実現のために、この二点について、最後に決意のほどをお伺いしておきたい。
○国務大臣(鳩山邦夫君) 様々な問題について監督責任があることは間違いがありませんから、低料第三種を悪用した事件とか様々な事柄については、あるいはかんぽ生命の不払の件がずっとほったらかしになって、そのために費用が掛かって、逆にお客さんである保険金を受け取れる人の金額が百億ぐらい減ってしまう、こういうことについては本当に心からおわびをしなければいけないと思うし、もっといい監督、厳しい監督の方法について考えていかなければならないと、こう思っております。
 私は、こんなことが新聞に毎日出ますけれども、非常に残念でございまして、これは政争だとか選挙とか全く関係のないことですよ。国民の常識、それが政界の常識、私の常識でなければいけないと思って、私は常識的に判断をさせていただこうと思っております。

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(以上,09年6月9日参議院総務委員会会議録から一部転載)

 では,またしばらく開くと思います。これにて。

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2009年4月15日 (水)

国籍法一部改正その後ほか

 ちょっと前のことになりましたが。。。
 小林よしのり氏が責任編集長をされているSAPIO増刊の雑誌『わしズム』が「最終号」と銘打たれているのに気が付き,出版不況はついに小学館にまで及んだか,と思って驚きましたが,同誌によれば,実はそうではなく,小林氏に批判された最近ご活躍の佐藤優氏がSAPIO編集部に圧力をかけてきたことに端を発する苦渋のご選択とのこと。
 事実関係については存じ上げておりませんので論評は控えますが,以前おふたりの著書を興味深く拝読して並べて紹介したことがあり(2006年7月27日(木)「前期授業終了」),複雑な気分ではあります。

 個別の問題を離れて「言論の自由」という一般論に話を移しますと。。。
 もうかなり前になりますが,偶然ですが同僚の間でちょっと議論があり,どちらの言い分も理解できるので黙って聞いておりました。ただ,言論には言論で対抗する,異なる立場の言論でも圧力による言論の排除やレッテル貼りからは守る,というのが大原則であることは,確認しておくべきことであろうとは思いました(但し,匿名のものは,負っているリスクに差がある分,顕名のものと同列には論じられないでしょうね)。
 法律の世界でも,某社の雑誌等には○○分野で某先生に睨まれると書かせてもらえないというような公然の(?)秘密があり,嫌な話も実際に耳にすることがありますが,さすがにまだ具体的な話は書けませんね。

 話は換わって,これまた前のことになりますが,2月28日(土)にNHK-BS1でエマニュエル・トッドのインタビュー番組がありましたね。なかなか興味深いもので,3月22日(日)に再放送されていました。なお,2009年1月31日(土)「E.トッド『世界の多様性』」もご参照いただければ幸いです。

 ついでですが,同氏(平野泰朗訳)の『経済幻想』(藤原書店・1999年)(原著は1998年刊)も非常に面白い本で,冒頭の「日本の読者へ」には以下のような記述があります。

 日本は,まぎれもなく経済大国の1つである。……本書で見るように,日本は,人類学上の理由から,アングロサクソン・モデルとはきわめて異なった資本主義の調整されたモデルを示している。……国民国家による調整という考え方の,積極的な擁護者となれる。人類学上の基盤のせいで,日本は,集団行動に長けている。孤独で空虚な絶対的個人という考え方は,日本の文脈では想定できない。……多くの領域で,日本は,世界のトップにいる。例えば,幼児死亡率は,世界で最も低い。日本は,アングロサクソン世界と同じくらい,その経験と成功を人類社会に提示する権利がある。……

(トッド・前掲2頁)
 トッド氏からも一定の役割を期待されていた我が国は,その期待に反し,実際にはこの後どんどん米国化していったのですから,皮肉と言うか何と言うか・・・

 米国の文化的な低下・停滞を中心に論じる第2章(特に,62頁あたり)を始めとして興味深い分析が続くのですが,最も印象に残ったのは,自由貿易が万能ではなく需要の不足をもたらすという問題点を指摘する部分です。

   自由貿易と過少消費

 自由貿易は,地理的にも,文化的にも,心理的にも供給を需要から切り離す。A国の生産者とB・C・D・E国の消費者が結びつけられ,逆の関係にもなる。企業家および国からみれば,全体需要(Dg)は,国内需要(Di)と国外需要(Dx)に分けられる。すなわち,Dg=Di+Dx。賃金を支払うことにより国民規模の総需要に貢献しているという感情を企業家がもはやもたなくなる経済世界を,自由貿易は作り上げる。賃金は,世界レベルで集計された場合はアクセス不能な抽象値でしかなく,もはや企業にとって,出来るだけ圧縮するという関心しかない生産費用にすぎない。このような論理が展開すると,技術進歩により生み出された生産性上昇成果に対して,需要が首尾一貫して遅れる理想的条件が出来上がる。取引を「国民の外」で行うことは,資本主義を原初的・前ケインズ的形態に戻す。……

 (中略)

   切り詰めの進む世界

 輸出にとりつかれた社会では,国境の開放が,いつも,後退的心理に火をつける。つまり,費用や支出を絶えず出来るだけ切り詰めようとし,マルサスに従って人口まで抑制しようとする時代精神と共鳴する。賃金を切り詰め,子どもを減らし,労働者を減らし,楽しみも減らそう,これが道である。国民の行政の中心である国家は,自由貿易の環境によりマクロ経済的意義をすべて奪われ,ついに企業のように行動し出す。財政赤字の削減にとりつかれた政治家層は,全体需要の圧縮に進んで協力する。その結果,消費の削減,雇用者数の削減,失業の増大に行かざるを得ない。

(以上,トッド・前掲190-191頁,196頁)

 「価格破壊」というスローガンが叫ばれ始めた頃,ただ安ければよいと言っているとたいへんなことになる(私たちは,単なる消費者ではなく,給与所得者でもあるのですから)と思っていたところ,某国製のの悪い衣料品が出回ったり,それが改良されてきたと思っていると賃金がじりじりと下がり始め,・・・振り返ってみると,いろんな意味で生活レベルが落ちてきたことを実感します。
 良い物やサービスにはそのに相応しい対価が支払われるべきだという了解がないと,このままどんどん沈んでいってしまうのでしょう。あるいは,格差が広がってきたために低価格のものにしか手が出せない人たちが増えてしまっていて,上記のような了解が復活したとしても,もう手遅れなのかもしれませんが・・・

 「訳者あとがき」から,上記引用部分に関するものを引用しますと,

 自由貿易批判と保護主義の擁護  そして,この世界的需要不足……を避ける手だては,彼によれば,国外に対する保護主義と国内での自由競争である。こうした提案も,理論的には十分根拠があり,傾聴に値する。ただし,各国がどういう保護主義政策を相互に認め合うかは,難しいであろうが。
 この保護主義の提案は,国民主義(ナショナリズム)の再生を意味する。トッドにとって,国民こそが,人間が個人的であると同時に共同的になれる,最も確かな枠組みであるからだ。この認識は,彼の長年の人類学的考察から得られたものであることは,本文を読めば,直ちに分かる。(後略)

(トッド・前掲387頁(平野泰朗))
 トッドと少し観点は異なりますが,中野剛志『経済はナショナリズムで動く-国力の政治経済学』(PHP研究所・2008年)も,まず内なる力を主体的に充実させようという「当たり前のこと」が書かれていると思われます。これは,現在でも他国の動向に合わせようとする風潮が続いているからこそ,なおさら貴重な書物であると思われます。

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 さて,国籍法に話を移します。これまで重要な文献がいくつか出ていますので,それらに触れながら進めていきます。

 最初に採り上げるのは,近藤博徳「国籍法違憲訴訟-大法廷判決獲得までのあゆみ」法学セミナー651号(2009年)26頁です。著者は,平成20年6月4日の2つの大法廷判決の代理人として名を連ねておられますが,「代理人として実質的な活動をしたのは専ら第二事件〔国籍確認請求事件の方-引用者注〕」とのこと。
 その第1審の審理の経過の記述の中に,次の一節があります。

 さらに裁判所は,第3回期日に双方に対し,「準正によって日本社会との結びつきが強くなるという点について社会実態の有無も含めて調査し主張されたい」と指示した。しかし国側は,第4回期日にその回答を提出することができなかった。私たちは,「準正によって日本社会との結びつきが強まる」との国の主張を支える立法事実が存在しないことが証明された,と確信した。

(近藤・前掲28頁)
 これが事実なのだとすると,国(法務省)は,この段階では国籍法(旧)3条1項の婚姻要件の維持を諦めていた,ということになるのでしょうか。国籍法に関心をもっていた研究者も現在ほど多くなかった当時の状況に照らすとやむを得なかったようにも思われますが,どうなんでしょう?(ただ,「社会実態の有無も含めて調査」するための時間的余裕が与えられていたのかという疑問も生じはします。)
 それと,もう1点。「法改正と適正な運用へ向けて」という項目中の一節です。

衆議院での採決のころから,この法改正が「偽装認知を容認し,不法外国人の流入を増大させる」とのデマが流れ,……結局,改正法は法案通り成立したが,衆参両院で付帯決議が付き,さらにもっぱら偽装認知防止のみを目的とした施行規則の改正が行われた。その結果,国籍取得の手続はこれまでよりも格段に厳格になったばかりでなく,手続自体が障害となって国籍取得が困難になってしまった。

(近藤・前掲29頁)
 関係の施行規則や通達等は,戸籍時報636号(2009年)4頁以下で速報されています。
 ところで,「デマ」と表現されている事実については,確かに不安を煽る過剰反応も散見されはしましたが,現実に外国人犯罪の報道によって治安の悪化を肌で感じている一般の方も多くおられますし,私自身も単に婚姻要件を削除し実効性に疑問が残る罰則を設けただけの改正法には拙速さを感じたものです(「拙速さ」については,他の文献も引用しつつ後述します)。
 その意味では,厳格な手続は必要であると思いますが,他方で,法律レベルでの規律ではなく法務省の裁量にかかるものですので,手続がいつの間にか緩いものに変わっていた,ということも起こり得るのがやや心配です。

 改正法施行後の状況については,「国籍問題を検証する議員連盟(平沼赳夫会長)」における当局の説明を報告される,赤池誠章衆議院議員の以下の2つのブログ記事が詳細です。
 「2月25日(水)国籍議連で施行後の対応をチェック」
 「4月7日(火)第6回国籍議連でチェック」

 国籍法(旧)3条1項の婚姻要件が担っていた2つの意味,つまり,①「我が国との密接な結び付き」,②「仮装(偽装)認知による国籍取得の防止」のうち,上記の手続は②に関するものですが,上記の手続が適切なのか,DNA鑑定を導入すべきなのかが問題として残っています。
 3条1項のみを考えるのであれば,DNA鑑定の導入は,「国籍取得届という公法行為」の部分でなければなりません(2008年12月14日(日)「私法上の『認知』と『国籍取得届』」参照)。
 それだけでなく,赤池議員の2月25日付のブログ記事に出てくる,NHKのニュース等でも報道された中国人女性の子の偽装認知は,「胎児認知」であって国籍法2条1号の問題ですので,こちらについても憂慮すべき事態が生じていると判断するのであれば,合わせて検討する必要があります。その際,2条1号の場合は(3条1項の場合と異なり)国籍取得のための特別の手続はありませんので,何らかの手続を新設する必要があるのかもしれません。

 ①「我が国との密接な結び付き」についても,再検討が必要です。大法廷判決は,婚姻要件がもはやその指標にはならないとして単純に削除してしまったわけですが,まともな国際私法学者にとってこの点が気にならないわけがありません。いずれも,程度の差はあれ直接存じ上げている方々ですが,公表順に引用しておきます。

本判決の今後の国籍法改正に対する影響という点については,さらに慎重な検討を要すると考えられる。本判決も,国籍付与について,血統主義に加えて,子と我が国との密接関係性を要求すること(国籍法3条の立法目的)自体,合理性があるとする。したがって,改正において,本判決の基礎となった国籍付与要件とは別に,子と我が国との密接関係性を確保するための要件を付加することは可能であろう。このことは,結局,立法論としては,国籍法3条1項の存在を前提とした平等原則を基礎とする検討のみでは足りず,日本国籍付与の意義およびその範囲についての実質的な議論が必要となることを意味する。

(竹下啓介「国籍法3条1項を違憲とした最高裁判決」法学セミナー647号(2008年)6頁,7頁)

そのような要件を必要と考えるかどうか。それから,もし必要だとしたときに,具体的にどういう要件を入れるかは,立法論としては非常に難しい問題だと思います。それやこれやを考えると,国籍法全体を,もう少し基本的な原理原則から考え直して構成するという作業がゆくゆくは必要になるのではないか,パッチワーク的に修正していくと,だんだんおかしくなってくるかもしれないという感じがいたします。そのような根本的な立法作業の際には,国籍法を背後から支えるものとして,出入国管理等の外国人政策・移民政策に関する高度に政治的な問題について,大局的・長期的視野に立った十分な検討をすることも必要不可欠になるでしょう。

(高橋和之=岩沢雄司=早川眞一郎「〔鼎談〕国籍法違憲判決をめぐって」ジュリスト1366号(2008年)44頁,71頁(早川発言))

本件で直接問われたのは,日本人男性と外国人女性の非嫡出子につき,準正を「家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付き」の指標とすることの合理性のはずである。多数意見は,「家族生活や親子関係」一般の実態・意識の変化を1つの論拠とするばかりか,婚姻・親子関係の「実態」・「認識」が「複雑多様」な「両親の一方のみが日本国民である場合」の一類型たる日本人男性・外国人女性の非嫡出子については,その「近年」の「増加」に触れるのみである。以上から,「近年」の合理的関連性欠如が論証されているといえるか。仮にいえるとして,逆に改正当時には合理的関連性が存在していたといえるか。家族生活・親子関係一般……の実態・意識の変化が,本件で直接問題となっている類型の子の「我が国(社会)との密接な結び付き」を論ずるにつきどのように関係するのか。多数意見の同論証が必ずしも十分でないことは,そもそも論証の核にある「我が国(社会)との密接な結び付き」の意義が明確でないことにも起因すると思われる。

(原田央「最高裁平成20年6月4日大法廷判決をめぐって-国際私法の観点から」法学教室341号(2009年)6頁,9頁)

 以上のものとは対照的に今般の3条1項の改正までも積極評価される国友明彦教授でさえ,以下のように論じてもおられます。

本判決の射程は,本件の事実関係からして,外国人母から日本国内で出生し,日本人父に生後認知された時及び国籍取得の届出時に国内に住所を有する子に及ぶものと考えられる。

 (中略)

例えば,もし政府又は立法府において,出生地,認知時の子の住所,現在の子の住所のいずれかが外国にある場合の国籍付与については特に慎重な検討が必要であると考えるのであれば,応急的な立法措置として,例えば,上記3つの地が日本国内にある場合に限定して届出による国籍取得権を付与する立法を行って,その他の場合を含めた一般的な改正については法制審議会に部会を設けて検討することとしても本違憲判決の効力には反しないこととなる。

(以上,国友明彦「国籍法の改正-国際私法的観点から」ジュリスト1374号(2009年)15頁,18頁,19頁注23)
 大法廷判決に反対である私の立場からも,それでも大法廷判決を尊重して3条1項を至急改正するというなら,上記の線であればまだ穏当だと判断したと思います。しかしながら,実際にはこれに止まらなかったのですから,「拙速」であったと言わざるを得ません。
 この点については,「改正法の立法過程について」「止むを得なかった」とされる国友教授でさえ,以下のようにも評されています。

  本件においては法令違憲として請求を認容したことに対しては,「かなりの副作用をもたらす劇薬」という評価もあるが,立法手続が通常の場合に比して非民主的かつ急いだものであったこともその「副作用」の1つと言えよう。例えば,後述Ⅴ2のような外国法に基づく好意認知の問題についても本来であれば事前に検討すべきであったであろう。

(国友・前掲19頁)
 基本的な立場は異なりますが,引用部分には賛成です。
 なお,「Ⅳ改正法の趣旨について」という項目で示されている国友説については,全てが希望的な「可能性」の指摘としか理解できないので,大いに疑問です。「可能性」ではなく,実態で判断すべきではないのでしょうか?
 最後に,「Ⅵ国籍法2条解釈への影響」という項目で,次のように論じておられます。

 最判平成9・10・17民集51巻9号3925頁,同平成15・6・12家月56巻1号107頁ほかの判例によって,生後認知ではあるが戸籍実務上の嫡出推定のために胎児認知届を出すことができなかった等の事情がある場合に例外的に法2条に該当することが認められている。しかし,これら判例の解釈は,生後認知による国籍取得権のないことを前提とした解釈であり,改正法が施行された今となっては生後認知による父子関係の成立なのに法2条に該当するという無理な解釈を続ける必要はないように思われる。

(国友・前掲21頁)
 確かに,やや「無理」をした「解釈」という感じはしています。ただ,改正法においても,2条と3条とでは要件・効果ともに異なりますので,少なくとも関係の方々にとっては「必要はない」ということにはならないのではないかと思われます。

 いずれにしても,理論的にも実際的にも広い視野で統一的に検討すべき問題について,「拙速」かつ射程の広すぎる改正がなされてしまった以上,再改正をも視野に入れた全面的な検討がなされるべきであると考えております。

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2009年3月29日 (日)

船舶先取特権の準拠法(追記)

 最近は,学事が一段落すると体調を崩すようになってしまい,年末年始に引き続いてダウンする羽目になり,25日(水)午後の修了祝賀会にも(この時期に風邪をうつしたりしてはいけないので)出席を見合わせるという淋しいことになってしまいました(打ち上げとか祝勝会とか,また呼んでください)。

 昨28日(土)午後には,3月7日(土)「船舶先取特権の準拠法に関する最近の裁判例」でご紹介した論文を書かれた,松井孝之弁護士と黒澤謙一郎弁護士が,わざわざ千葉大まで来てくださいました(活躍されている弁護士さんは,フットワークが軽いので,感心してしまいました)。貴重なお話を伺えて,たいへん勉強になりました。

 まず,船舶先取特権の準拠法につき成立・効力とも法廷地法によった東京地決平成4年12月15日判タ 811号 229頁は,(本来公表されない類の決定であったところ)公表されてそれなりによくできたものであったことから,裁判所には相当の説得力を有していたとのこと。
 ところが,(松井弁護士のご説明を素直に受け取ると)上記の決定に「疑問がある。また,その理由づけには事実に反する点がある。」とした拙稿〔判批〕ジュリスト1051号(1994年)126頁を発見して裁判所に証拠の1つとして提出されたところ,拙稿は,裁判所が上記の決定の事実上の拘束から逃れるのに影響力があったようです(ただ,上記決定の立場=法廷地法説を覆しただけであって森田説が採用されるところまではいっていませんので,そこまでの影響力しかなかった,という言い方もできると思います。この拙稿については,2008年10月24日(金)「判例評釈のツボ(我流です)」もご参照ください)。

 次に,海事の世界は狭いので,松井チームの片手に余る戦果を判例集に掲載して公表する,ということができないのだそうです(NBLのご論文のように抽象化した形で公表するのがギリギリとのことです)。
 ということは,私たちが判例として理解しているものが本当に裁判所において定着した取扱いであるのか,少なくとも船舶先取特権の準拠法については相当に疑問が残る,ということになりますね。
 この問題は他分野にも存在しているはずの大きな問題で,ここで簡単に論じられるようなものではありません。ただ,「判例」について論じる際には,常に頭の片隅に留めておくべきではありますね。

 勉強の種をたくさん頂戴しましたが,何かが生まれてくるでしょうか?

 では,ちょっと頭が痛いので,このへんで。

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2009年3月17日 (火)

国際裁判管轄研究会報告書に対する批判論文

 国籍法(旧)3条1項を違憲とする大法廷判決と,それを受けて立案され本年1月1日に施行された国籍法一部改正法について,重要な文献がほぼ出揃った感がありますので,近々書きます。

 本日は,法制審議会で立法作業が進んでいる国際裁判管轄について,その作業のたたき台である「国際裁判管轄研究会報告書」の一部に対する(実質的には全体にも関わる)鋭い批判論文である,藤下健「国際裁判管轄研究会報告に関わる若干の問題点について」判例時報2028号(2009年)3頁を採り上げます。

 私自身,立法作業の前提についてそもそも疑問があり,昨08年8月に以下のように書いておりました。

(以下,08年8月1日(金)「パール判決書はいかが?」から転載)
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経営法友会の協力を得て,同会に所属の企業に国際裁判管轄に関するアンケートを実施した。
 そのアンケートの結果であるが,957社にアンケートを配布したところ,回答を寄せたのは,37社であった。まず,規定の要否については,規定を設けるべき,あるいは設ける方が望ましいとする意見が25社と多く,その理由として,予測可能性,法的安定性の確保を挙げるものが多数である。他方,規定は不要であるとする意見は,1社にとどまった。

(以上,前掲〔上記報告書(1)NBL883号(2008年)〕38頁)

 「回答を寄せた……37社」中「25社」と考えれば,67.6%で3分の2をかろうじて超えていると見えますが,(回答率は 3.9%にすぎず)配布数の「957」を母数とすれば 2.6%しかありません。これは,ほとんど無関心ということではないのでしょうか? これで,予算を使って立法するんでしょうか?(「無駄ゼロ」との関係は,どうなるのでしょう?)
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(以上,08年8月1日(金)「パール判決書はいかが?」から転載)

 ただ,それ以上は,報告書の中身に立ち入っていませんでした。その理由は,以下のとおりです。

 法例改正のたたき台であった,法例研究会『法例の見直しに関する諸問題』(別冊NBL)については,一部に,杜撰な資料が掲げられたり,先行業績に対する正確な理解を欠く恣意的な議論がなされたりしていましたが,それでもまだ(諸外国の立法例だけでなく)従来の裁判例も不十分ながら示されていました(そのようなそれなりに評価できる点があったからこそ,徹底した批判も可能なのでした)。これに対して,上記管轄研報告書は,従来の裁判例を提示して分析するという姿勢がほとんど全く見られず,他に追究すべきことがいろいろとある者にとっては,まともな批判的検討をする気持ちが生じないものであります。

 さて,藤下判事は,まず,国際的訴訟競合について,上記報告書(6・完)の第7の2(NBL888号(2008年)72頁,78頁)が,ヨーロッパ諸国で採用され我が国の通説でもある承認予測説に基づく立法を提案するものと読み込まれます(藤下・前掲3頁。確かに,その点に付されている注2(上記報告書・79頁)には,承認予測説を採用するものと読める「ヘーグ1999年草案」21条1項と,東京地判平成元年5月30日判時1348号91頁しか引用がありません)。
 この立法提案に対して,裁判官としては国際裁判管轄についての「特段の事情」論の枠組みでの処理が「平易かつ自然」であること,我が民訴法の母法であるドイツ法の移送等の規律と我が民訴法のそれとが前提を異にすること,我が国における国際的訴訟競合の解決が最も必要だと考えられる相手国は(承認予測説によるのでなく)柔軟な規律をしている米国であることを指摘されています(藤下・前掲3~4頁)。

 さらに,注12では,「報告書(6)がくだんの箇所で注(10)の⑪判決〔前掲東京地判平成元年5月30日-引用者注〕のみを引用しているのは,控えめに表現しても不正確の誹りを免れないのではなかろうか。」(藤下・前掲6頁)と指摘されています。
 これは全くそのとおりなのですが,もっとハッキリと書いておきます。

 国際的訴訟競合に関する事例は藤下・前掲5頁注9に引用されているように他にもあるところ,東京地判平成元年5月30日判時1348号91頁のみが引用されているのは,この判決について「(b-2)〔承認予測説-引用者注〕の立場をとったもの」(道垣内正人「国際訴訟競合」高桑昭=道垣内正人編『新・裁判実務大系第3巻国際民事訴訟法(財産法関係)』(青林書院・2002年)150頁)との評価があるからです。

 しかしながら,同判決は,「先行する外国訴訟について本案判決がされてそれが確定に至ることが相当の確実性をもって予測され,かつ,その判決が我が国において承認される可能性があるときは……後訴を規制することが相当とされることもあり得る」と判示しているのであって,承認が予測されれば必ず規制する,とは言っていないのです。
 しかも,この判決は,上の基準を当該事案について見ると,「しかしながら,……将来において米国訴訟についての本案判決が下され,それが確定するに至るかどうかについては,現段階で相当の確実性をもって予測することはできない。……現段階でいまだ本案審理も開始されていない米国訴訟の判決が同号〔民訴200条(現118条)3号-引用者注〕の要件を具備するものと断定することもまた困難である。」と続いているのです。

 そして,次の指摘によって承認予測説は既に止めを刺されている,と私は理解しています。

具体的な結論としては承認可能性の予測が困難であるとして規制を認めず,かえって同説〔承認予測説-引用者注〕の問題点を浮き彫りにした形になっている

(小林秀之〔判批〕渉外判例百選第3版(有斐閣・1995年)239頁)

 ちなみに,小林秀之教授は,前掲百選の後継である国際私法判例百選においては,執筆者から外れておられます。

 藤下論文に戻りますと,藤下判事は,主として米国との折り合いが付かずに採択されずに終わった「ヘーグ1999年草案」が上記管轄研報告書の各所で引用されていることを批判されています(藤下・前掲6~7頁)。これは,上記報告書が同草案に関わった研究者によって主に作成されたのではないかということを強く示唆するものでもあるでしょう(藤下・前掲7頁の注2から注4を参照)。

 以上,国際裁判管轄の立法作業においても,従来の裁判所の営為が尊重されているのか,疑問です。

 最後に,藤下判事は,以下のように述べておられます。「国際訴訟競合が生じた場合について報告書(6)が提案するような規定を置くことが,我が国裁判所に提起される渉外的要素を有する民事紛争を適切妥当に解決することに資するものではなく,また裁判実務に混乱を招きかねないものである」,「国際裁判管轄に関する規則は,渉外的法律関係に適用される法律に関する規則以上に,我が国に居住する人民及び我が国に本店を置く法人の具体的権利義務に大きな影響を及ぼすものである。現在検討されているといわれる法律案において,適切妥当な解決が図られることを願ってやまない。」(以上,藤下・前掲7頁)
 私たちは,法例廃止の轍を踏んでしまうのでしょうか。国際裁判管轄の規律については裁判官の声が極めて重要なのであって,多忙を極めておられるでしょうが,さらに裁判官のご意見が示されることを期待するものです。

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2009年3月 7日 (土)

船舶先取特権の準拠法に関する最近の裁判例

 国民の資産を食い物にしている疑いの濃厚な郵政民営化にまつわる問題は,本当に根が深いようですね。テレビではあまり採り上げられませんが,国会の予算委員会や総務委員会では精力的に解明が進んでいるようです(審議の日から相当に間が開いたりしますが,アップされてくる会議録をご参照ください)。騒がれている問題に,あまり目を奪われない方がよいのではないでしょうか?

 書きたいことがいろいろと溜まっていて,ぼちぼち書けるかと思っていましたら,昨6日(金)に船舶先取特権の準拠法に関する実務家による貴重な論文を見つけましたので,今回はそれについて書くことにいたします。

 船舶先取特権の準拠法について,従来の通説・裁判例は,その成立につき被担保債権の準拠法と旗国法とを累積適用し,その効力につき旗国法によるとしてきました(この立場の最も新しい公表事例は,広島高決昭和62年3月9日判時1233号83頁(評釈は6本ありますが,知られていない拙稿のみ掲げます。東京大学商法研究会編『商事判例研究(38)昭和62年度』(有斐閣・1997年)157頁))。
 さらに学説は多様に分かれていたところ,4年開いて,船舶先取特権に基づく保険金債権への物上代位の事例である,東京地決平成3年8月19日判時1402号91頁,東京地決平成4年12月15日判タ 811号 229頁の2件が,相次いで法廷地法を準拠法としました。

 その後なぜか裁判例の公表がなく,実務では法廷地法説が定着したような感じがしないでもないわけですが,他方,上の2つの事例における差押えの対象は(船舶でなく)保険金債権であって事案が異なるうえに,東京地裁の理由づけが事実に反するものであったりした(拙稿・ジュリスト1051号(1994年) 126頁,127頁)ために,どれほど確立したものか,大きな疑問も残っていたところです(私は,再三書いていますが,裁判例の公表を強く期待しています)。

 そうしたところ,松井孝之=黒澤謙一郎「法の適用に関する通則法施行後の船舶先取特権の準拠法をめぐる最近の議論および裁判例について-近時の定期傭船者倒産事例の紹介」NBL 899号(2009年)28頁において,ご本人の手掛けられた最近の5件の裁判例が紹介されています(34-37頁。ちなみに,32頁の本文中に出てくる「森田教授」とは私のことですが,助手の頃に書いた前掲・拙稿からの一部引用ですので,何か気恥ずかしい感じもいたします。とにかく,思い切って書いておいてよかったと思います。いずれにしても,採り上げていただいて感謝申し上げます)。

 で,事案が必ずしも詳細でないので残念ですが,そこに出てくる5件に共通しているのは,被担保債権の準拠法によって船舶先取特権の不成立が導かれているところです(但し,うち2件は法廷地法との累積,1件は旗国法との累積,1件は現実所在地法との累積が説かれてもいます)。
 (船舶抵当権と処理を分ける理由がないと考えますので)累積には全く賛成できないのですが,全体を通じて見ると,被担保債権の準拠法をベースにしたというようにも理解できますので,事案によっては結論には賛成できるものかもしれません。ただ,被担保債権が関係するのは35頁の図の「船舶燃料供給会社Y(香港法人)」と「定期傭船者Z(香港法人)」であって,燃料代金債権の準拠法は確かにこの両者の規律には適切ですが,これが「船主X」との関係まで規律することには疑問が残ります。「船主X」の事情についても情報が記載されていると,なおよかったと思うのですが・・・

 28頁冒頭の要旨に「船会社の代理人として」とあり,34頁の右の段の6行目に「筆者が代理する船主」とありますので,船舶先取特権の不成立を導き出す香港法(=被担保債権の準拠法)が船主にとって有利であったために,松井孝之弁護士はその適用を主張された,とも受け取れます。この点,問題は,Yと,(Zではなく)Xとの間に存在しているのではないかと私には見えますので,そうであれば,むしろ,燃料供給時の船舶の現実所在地法が準拠法とされるのが適切であったようにも思われます。

 いずれにしても,船舶先取特権の準拠法についてはまだまだ検討が十分でなく,従来の議論を検討されたうえで裁判実務が必ずしも法廷地法の適用で固まっているわけではないことを紹介されるこの論文が非常に貴重なものであることは,間違いありません。いずれご教示いただく機会がありましたら,たいへんありがたく存じます。

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