法適用通則法(国会審議)

2007年11月 6日 (火)

特別留保条項(22条)が残った理由-国際私法(現代化関係)部会議事録から(ほぼ転載)

 今回は、通則法制定後に出た教科書類の改訂版にはきちんと書かれていない、特別留保条項(22条:法例11条2・3項)が残った理由について、法制審議会国際私法(現代化関係)部会の議事録から、改めて核心部分を転載しておきます。
 よくお読みください!

(以下、06年7月9日(日)「衆院法務委参考人質疑から(その2)」から一部転載)
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 ところで、不法行為については、パブリックコメントの結果を受けて要綱案作成に向けた法制審議会国際私法(現代化関係)部会の第26回会議(全28回)において、法例11条(特にその2項)に関する頭にくるやりとりがありました。6月14日(水)午後からの枝野幸男委員(民主党)の質疑にも関係しますので、抜粋して転載しておきます(ちょうどこの日の1年前のことだったんですね)。

(以下、
05年6月14日国際私法(現代化関係)部会第26回会議議事録から転載)
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● 事務局がA案でよろしいですかというふうにお聞きした趣旨ですが,先ほども申し上げましたように,現に11条2項を適用して妥当な結論を導いている判決がある。平成14年のカードリーダー事件がまさにそうで,この判決自体についての評価は分かれるところだと思いますけれども,この部会で知的財産権の侵害について特則を設けるかということについては時期尚早だということで今回提案できませんでしたので,知的財産権の侵害に関しては,今後もカードリーダー事件が最高裁判例として生きていくんだろうなというふうに考えております。そういった意味で,11条2項を今後使い続ける例というのは少なくはないんであろうと。また各国の不法行為法制はさまざまですから,やはりどのような行為が違法とされるかよくわからない--成立における違法性の問題もそうですけれども,例えば時効期間の問題とかもあると思います--そういったものを日本法に照らして,すべて公序によって成立,あるいは請求権の存否それ自体についてカバーし切れるかどうかというのは,今決断することは非常に危険なのではないかなというふうに思っております。
  それと,累積適用になる結果,二度手間ではないかということでございますけれども,日本の不法行為法は基本的には緩やかな成立要件を認めておりますので,特殊な不法行為法制というわけではなく,この点につきましても,それほど実務的な支障というのは特に問題であるという声は聞いていないところでございます。
  それから,今回のパブコメでは上がってきませんでしたけれども,マスコミの方から連絡がございました。名誉毀損,信用毀損についての特則を設けるか否かにかかわらず,11条2項の存否は不可欠であるという意見が来ておりまして,いずれ書面で提出させていただくということでございますので,そういった方面からもそういう要望があるという点でございます。
  それと,こういう大きな問題ですので,いろいろな民間企業等を監督しておりますほかの省庁に聞きましても,11条2項を外すのはまかりならんという声がやはり強うございます。2項について内国法の過度の優先であるというような御指摘があるのは重々承知しておりますが,今の状況で11条2項を削るという立法提案をすることは,なかなか難しいのではないか。仮に法制審の総会を通ったとしても,その後の立法過程で,また結局A案になってしまうという可能性が非常に高いのではないかというふうに考えています。何とも歯切れが悪くて申しわけないんですが,立法を担当しております事務当局の感触としては,そういうふうに言わざるを得ないということでございます。
● 
そういうことであれば,11条の規定はもうそのままに置いておくという手もあるんじゃないでしょうか。内容的に変えて,それを現在の規定を裏書きするような形でということになれば,これはなかなか分かりにくいけれども,とにかく11条はそのままにしたという説明ができるんだったら,その方がよろしいんじゃないでしょうか。
  もう一つ言いますと,カードリーダー事件のことを盛んにおっしゃいますけれども,あれで最高裁が日本法では不法ではないというチェックをしたのは,要するに積極的な勧誘行為という言葉ですかね,教唆に当たる行為そのものではなくて,それが域外に及ぶことは日本は射程に入れていないよと言っていることで,要するに適用範囲の問題で言っているだけの話ですよね。要するに不法性そのもの。それはいろいろな意味の不法性があると思いますが,あれに限って言えば,射程範囲が広過ぎるということを言っているだけにすぎないと思うんです。それに限定をして2項のような規定を入れるんだったらまだわかりますけれども,そうではなくて,2項の不法性というのはもっと一般的なチェックなんです。要するにクオリティーチェックをもう一回不法性全体でやろうというわけですから,これはちょっとオーバーインクルーシブだと思います。
● 今の○○委員の御発言,ちょっと確認させていただきたいんですけれども,○○委員は,11条2項を残すぐらいなら,もう11条を全然改正しないでおけと,こういうことなんでございますか。せっかく今日だけでも相当の時間をかけてここの議論をしてきていただいたわけですし,これまでかけた時間は膨大な時間で,それなりに画期的な提案がいろいろ入っていると思うんですけれども,それを11条2項のために全部パーにしてしまうというのは,何か余りにももったいないように思うんですが。
● いやいや,全部がパーじゃないんですよ。11条に関連してということです。
● 11条の関係でも,ここでも8ページ以下,ずっといろいろございますよね。それを全部やめてしまうというのは,余りにももったいないような感じがするんですけれども。
● 一度でもここで審査して,内容的にも手を加えて,しかしやはり2項,3項を維持するというデシジョンメーキングというのは,やはりこれは相当な重みを持つと思います。

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(以上、
05年6月14日国際私法(現代化関係)部会第26回会議議事録から転載)

 議事録だけではその場の空気を含む正確な文脈がはっきりしませんが、議論を重ねてきて「余りにももったいない」から改正するというのはどうなんでしょうか? そもそも、「改正ありき」で大まかな審議日程が決まっていて、必ずしも議論が尽くされず、という形で立法がなされてしまったようなのですが、これが他の法律でもなされているとすると大問題ではないでしょうか? まさか、他の法律では違いますよね?
 さらに、この次の回の議事録からも抜粋して転載します。

(以下、05年7月5日国際私法(現代化関係)部会第27回会議議事録から転載)
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● 私,パブコメの趨勢で,もうこの件は削除しないということに前回決定したという理解でいたものですから,意見を言う必要もないと思ったんですが,実は先ほどの御議論に関して,今回大変,不法行為に関して明確化とか個別の規定化がなされたということで,その内容について非常に私も結構なことだと思っているのですが,ただ本当は,原因事実発生地という裁判官の裁量で不法行為地とも読めるような現行法の規定を結果発生地という形でどんと言い切ったということにつきこの部会では大して反発とか異論とはなかったのですが,知的財産関係者を初め,いろいろな形の方が今回の不法行為の抜本的な改正について違和感というのですかね,同意していないという層もあるということなんです。それで,それに対しては,いや,最終的には当面11条2項,3項は維持されるので,このパッケージで考えれば別に大して弊害が予想されないと。したがって,まずはこういう形で不法行為の原則的連結,それから例外の考え方をすっきりして,それから一方で,弊害については2項,3項があるからいいじゃないかという形で,恐らくいろいろな団体がそういう発想法で今は収斂しつつあるという理解であります。したがって,不法行為の規定がしっかり書かれたから2項,3項はデリートしていいというのは,この内容をよく御存じのこの部会の委員の方はそういう発想をされるのですが,そういう法案をパッケージで提案された国民はそうは受けとめていなくて,おおこんなに変わるんだと。したがって,少なくとも2項,3項は要るのでしょうねと,こういうことでいろいろな組織で恐らく議論がなされ,受けとめがなされたと,こういうふうに理解しています。
  したがって,例えば部会資料37,事務局でおまとめいただいたパブコメ結果の16ページですか,特別留保条項に関しての意見についても,このA案に賛成する意見7団体というのがありまして,これも基本的には個々人ではB案でもいいのじゃないかという意見はあり,先ほどの○○幹事と同じような議論が内部でなされておるのですが,最終的に,機関としての結論がAかBかといったときには,皆さんAに収斂したと,こういう過程があります。
  したがって,この11条2項,3項というのは,この政策を本当に国民に納得していただいて,これを削除とか変更するには時間がかかるのじゃないかと。今回の不法行為の抜本改正を踏まえて,その運用を見て,かつあらかじめこの問題だけに絞って本当に広く国民の理解を得るような何かがないと,いろいろな組織に意見を照会したときに,今まで何十年もあった規定であって,かつ保護されておって問題もなかったというふうに国民は思っている規定について,裁判実務上は先ほど○○幹事が言ったように個別局面でかえって使いづらいとかということがあっても,総体としては,それで大過はなかった規定について,何で抜本的な変更をするんだと。こういう意見を変えてもらうのには相当そのような時間をかけて,かつ実績に基づいて説得・説明・納得できるプロセスがないとなかなか現状の法律を変えろということにはいかないのじゃないかなというふうに受けとめています。
● 全銀協としても,私も何回も申し上げていますけれども,確かに比較法,国際的な平仄とか,学説的にはもう先生方がおっしゃるとおりで,何の反論の余地もないとは思うのですが,パブコメの結果はもちろん,実際の実務の方の意見はAだと。で,我々もアンケートをとった限りは,判例でも使われているし,特にこれ積極的に削除する実務界からの要望があるかと言ったら,それはないということになると。削除するとすれば,特に2項なんですけれども,賛成という意見はなかった。したがって,現行のA案をとらざるを得ませんねというのが,銀行界では一番多かったということでございます。
  それが,国際私法の国際的な平仄から見てどうかというのは,それは大いに問題はあると思うんですけれども,意見としてはそういうことでございます。
● 前回もそうでしたけれども,代表的な御意見をいただいたわけだろうと思いますけれども,これは裁判所とか省庁の方ではどんなふうにお考えでしょうか。
● 裁判所は,特に意見を出していなかったと思いますが,特に特段の意見はないというところでありまして,特段削除という意見もありません。かと言って,絶対維持という意見でもありませんので。あえて何かいじるという強い意見はなかったというところだと思います。
  実際,法を適用する立場としてどうかということに関しては,日本法ですので,日本法を適用する場面では,特に不便は感じていないというのが正直なところであります。
● 事務局として,今回11条2項だけを削除するとか,2項及び3項を削除するという提案はしていなくて,現行法の特別留保条項維持という前提で要綱案をつくらせていただいているわけでございます。これは,結論的には,もう苦渋の選択といいますか,やむを得ないのではないかというふうに考えておりまして,これは前回も私の方から発言させていただいたことの繰り返しになりますが,やはりいろいろ多様な不法行為類型,いろいろな外国法があるというという中で11条2項,3項が現実に使われているということでございまして,11条2項を適用して妥当な結論を導いた最高裁判決も現にあるということでございます。
  パブコメの結果を見ても,やはり実務的には存置の意見が強うございまして,意見の分布としては割れておりますが,現行法維持ということ,2項を残すということについての団体からの意見というのはかなり多数あるということでございます。
  それから,先ほど特殊ないろいろな態様の不法行為があるというふうに申し上げましたけれども,特に民放連とか,NHKからは11条2項を残してほしいという意見も来ておりますし,私のレベルで事実上ほかの官庁ですね,ほかの省庁から伝えられている意向としても11条2項,3項がないと困るというような意向が伝えられておりまして,たとえ法制審で11条2項を削るというような立法提案を通したとしても,閣議決定までの間の他省庁との調整の過程でまた修正されてしまう可能性もなきにしもあらずということでございまして,この部会でもこれだけ議論が割れていることからもわかりますように,今何の規定もなく新たな条文として特別留保条項を設けるという立法とは異なり,現在ある条文,現在機能している条文を削るかという問題ですので,やはりこれは時間をかけて十分議論した上でコンセンサスに近い形で削除するという,そういう決断をやはりすべきであって,この現状においては11条2項,3項は残さざるを得ないのではないかなというふうに考えております。
  学会からの御指摘は非常にごもっともなところがありまして,その御意見は,議事録にも十分残りましたし,この方向で立法された場合には,思う存分批判論文をお書きになって,また今後の改正の時期の到来を期していただきたいというふうに事務局としては考えております。
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(以上、
05年7月5日国際私法(現代化関係)部会第27回会議議事録から転載)

 法例11条2・3項は、学説上は削除すべきだというのが立法論上の通説で、引用した部分の直前にはそのような意見が続いていました。それを、事務局を含む実務サイドが現実の必要性から押さえ込んだという文脈になっています(以上2つの転載部分の前後は、実際に確認してください)。
 以上のやりとりは、法例改正は不要という立場に立ってきた私にとって非常に興味深い部分ですし、腹立たしさも覚える部分ですが、今日はこれまでにします。

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(以上、06年7月9日(日)「衆院法務委参考人質疑から(その2)」から一部転載)

 以上、22条は、日本の法秩序を守るために、主体的な決断により維持されたものであることに、十分留意する必要があります。
 もちろん、17~21条までの規定が<最密接関係原則>に照らして立派な規定であったならば、そして、実務がそれを適切に運用するならば、特別留保条項などというものは、理論的にはあってはならないものであると、私も思います。しかしながら、(運用はこれからのことなので、どうなるか分かりませんが)いずれにしても立派な規定が新設されたとはお世辞にも言えませんから、22条は十二分に活用される必要があります。そうでないと、非常に危ないですから(ところが、おかしな議論もありましてね・・・)。

 今回は、このへんで。

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2007年11月 2日 (金)

06年6月14日衆院法務委参考人質疑から(ほぼ転載)

 「風林火山」における晴信・勘助の好敵手、長尾景虎に興味をもったので(?)、米沢の上杉神社に参拝し、稽照殿(宝物殿)を観てきました。その件については、いずれ書くかもしれません。
 景虎(謙信)はなかなか達筆で、「英語より、癒しのひらがな、凛々しい漢字を見直そう」なんて、どう? とか思います。

 さて、今回は、通則法17条と18条の線引き(性質決定レベルの問題)に移りましょう。これについては、衆議院法務委員会における鈴木五十三参考人の発言が改めて興味深いので、それを見直しましょう。

(以下、06年7月8日(土)「衆院法務委参考人質疑から(その1)」から一部転載)
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(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○柴山委員 そろそろ時間がなくなってくるんですけれども、ただ、今最後に鳥居先生がおっしゃったように、結局、わけがわからないようなところで引き渡しがされてしまったような場合には、その場合は生産者の主たる事業所の所在地の法律で定めることになっているわけでして、これが本当に被害者の保護という観点から妥当性を持つのかどうかということについて鈴木先生にお伺いします。(後略)
○鈴木参考人 まず、先ほどの生産物の引き渡し地の問題でございますが、例外としまして、通常予見することができない場合には、生産業者等の主たる事業所の所在地法になる。それでもだめな場合、それでも不都合のある場合というのが、恐らく、明らかにより密接な関係がある地がある場合というふうに考えるのがいいかと思います。
 例えば、今、外国の生産しましたエスカレーターが日本で生産物のゆえに事故を起こしたという場合を考えたらよろしいと思うんですが、このような場合には、事故に遭った人は決してエスカレーターの引き渡しを受けているわけではございません。そうしますと、一体どこがより密接な関係がある地かというふうに考えますと、恐らくおのずと答えが出てくると思います。(後略)
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 下線を引いた柴山委員の問題意識は、私も共有するものです。
 これに対する鈴木参考人の意見は、少し舌足らずであって次の石関貴史委員(民主党)の質疑において補足されます。ここでは、鈴木参考人の設例のように実際に生じる重要な問題については18条の生産物責任の特則の対象ではなく、また(18条自体に問題があるとしても)20条の例外条項(回避条項)があるので何とかなると考えておられることのみ読み取ればよいのでしょう。いずれにしても、18条自体の妥当性については、回答を回避されました。
 結局、妙な前提から規定を新設したものの、実際に具体的妥当性を確保しようとすると、20条に負担がかかるという構造の新法ができあがったということになりますね。

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(以上、06年7月8日(土)「衆院法務委参考人質疑から(その1)」から一部転載)

 ここで鈴木参考人がエスカレーターを例に挙げられたのは、ちょうどその頃、某社製のエレベーター事故があったので、それとの連想を避けられたのだと受け取っていました。ところが、つい最近にはエスカレーターが関係する事故が起こりましたから、先見の明があったのかどうか・・・

(以下、06年7月9日(日)「衆院法務委参考人質疑から(その2)」から一部転載)
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(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○石関委員 引き続き、鈴木先生にお尋ねをしたいと思います。
 この法改正によって不法行為の準拠法が見直されることになった、このことに関して、特にわかりやすく事例を挙げて実務的な御説明をいただければと思います。(後略)
○鈴木参考人 先ほど、途中までお話しさせていただきましたが、例えばヨーロッパのある国で製造されたエスカレーターがあるとします。そのエスカレーターが日本に輸出されまして、日本のデパートに設置された、そのエスカレーターに乗った子供がそれによって事故を起こされたという事案を考えてみたいと思います。
 この場合には、子供とエスカレーターの製造メーカーとの間には契約関係がございませんので、まず不法行為というものの成立が考えられることになります。メーカーは外国の会社であり、子供は日本人でございますので、国際的な事件でございます。
 今回の改正されました法案によりますと、結果発生地法ということでございますので、日本法が適用になるというふうに言えると思います。ただ、このエスカレーターが日本に輸出されることを知らなかった、とても日本向けの輸出品ではなかったという場合には、日本に行くことを予測していなかったということでございますので、加害者であるエスカレーター製造国の法律が適用になるというふうに考えております。
 その意味では、これまで不法行為につきましては、原因事実発生地ということで大きな解釈論争がありまして、個々の事件ごとに何回も何回も膨大な解釈論争をしていなければいけなかったんですが、今回の改正によりまして、まず原則が決まりまして、例外も決まりましたので、そういう意味では争点が簡便化したというふうに言えるのではないかと思います。
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 上記の設例では、まず不法行為の準拠法に関する原則規定である通則法17条が問題になります。そこでは結果発生地法が原則ですから(同条本文)、原則として被害者側の日本法が準拠法になりそうです。しかし、外国のエスカレーター製造会社にとってその地での結果発生が(日本の国際私法として)「通常予見」不可能だと判断される場合には、瑕疵あるエスカレーター製造行為の行われた地である行為者側の法が準拠法になりそうです(同条但書)。
 以上で終わりであれば、「争点が簡便化した」と言えるかもしれません。しかし、現行法例(廃止された「法例」のこと<ここ加筆>)11条1項の「原因事実発生地」に関する実際の事例において「膨大な解釈論争」などという大げさなことはほとんどなされていないはずです。それに、前回の投稿で最後に引用した部分において鈴木五十三参考人ご自身が述べておられたように、通則法20条によるチェックはほとんど常について回ることになるのではないでしょうか?
 現に、上記の設例についてよく考えてみてください。仮に外国のエスカレーター製造会社の予見可能性がないとしても、だから当該外国法が準拠法になるという17条但書の帰結に納得できるのでしょうか? たとえ予見できなかろうと、日本で結果が生じて現に被害者が出た以上、日本法によってもらわないといけないのではないでしょうか? このことから考えると、17条全体の趣旨は、行為者に予見可能性がなければ加害行為地法によるという17条但書の存在によって、(本文の被害者保護という外観と異なり)行為者の予見可能性の最重視ということになっていると思います。被害者側の事情は関係ないのですから。エスカレーターに乗るときは、日本製か否か、確認しないといけませんか??

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(以上、06年7月9日(日)「衆院法務委参考人質疑から(その2)」から一部転載)


 しかし、こんなことを現実問題に即して考察する日がこれほど早く来ようとは、夢にも思っていませんでした。責任の所在がまだ明確になっていないようですが、被害を受けた方々には、全く痛ましいことです。
 事後的に現状回復できないことがいくらでもあるのですから、適切な規制(!)はぜひともきちんとしていただきたいと、切に思います(「司法制度改革」の理念とやらも、本当に胡散臭いと思いますね)。

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2006年8月 7日 (月)

「法の適用に関する通則法」衆議院附帯決議、条文化など

 久々にいろいろなことから解放された気分になり、富士山を眺めてゆっくりしてきました。朧に見える富士も、悠然としていいものですね(帰ってきた翌日には会議があり、夢気分は瞬時に終わりましたが)。今月は、少しゆったりと仕事するつもりです。

 今回は、衆議院の附帯決議などを採り上げます(これで、国会の審議がらみのものは終わりにします)。

(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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    法の適用に関する通則法案に対する附帯決議(案)
  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。
 一 国際化の進展に伴い、国際私法の重要性がますます高くなっていることにかんがみ、社会の変化、諸外国の立法動向等へ的確に対応するなど、利用者のニーズに適合した規律が確保されるよう、不断の見直しを行うこと。特に、不法行為の準拠法に関する規律(←特別留保条項)については、本法の運用状況を注視しつつ、報道の自由の確保にも留意した上、国際的調和及び利用者のニーズの観点から、必要があれば見直しを行うこと(←その必要性について更なる検討を行うこと)。
 二 我が国の法令が準拠法として国際的にも幅広く利用され、国際取引の更なる活性化・円滑化に資するよう、法令外国語訳の早期整備及び法制度の一層の充実を図ること。
 三 我が国における国際的な紛争をめぐる裁判において、準拠法となる外国法の適用が的確かつ迅速になされるよう、国際私法及び外国法の調査研究を行う体制を確立すること。
 四 国際私法は、企業間取引のみならず個人の日常社会生活関係に深い関わりを有していることにかんがみ、消費者契約及び労働契約の特則についての改正内容を始め、その十分な周知に努めるとともに、国際私法についての理解を深めるため、法教育の充実を図ること。
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 青字に変えた部分が衆議院独自のもので、そのうち参議院での附帯決議から修正された部分(1番目と3番目)はその直後に参議院での内容を引用してあります。それがない部分(2番目と4番目)は、衆議院で追加されたものです。

 第1点は、微妙な修正ですが、ともかく特別留保条項だけが問題なのではないことが明らかにされたことに意義があると思います(前回の投稿も参照)。
 第4点については、「衆院法務委参考人質疑から(その1)」もご参照ください。
 また、「衆議院への宿題」から過去ログを辿っていただければ、と思います。

 今日は、1点ずっと引っ掛かっている、荒井正吾参議院法務委員(自民党)の発言を引用しておきます(通則法7条についての寺田逸郎法務省民事局長の説明を受けたもの)。

(以下、06年4月18日参議院法務委員会議事録から転載)
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○荒井正吾君 法制審議会で、いつも法制審議会、法制審議会言われるんですけれども、法制審議会でも意見分かれていて、一般的な意見を聞いたときも意見分かれていて、しかし条文になるとこんなに分かりにくい条文になるという過程がちょっと分かりにくいように思うんですが、またこれは今回で尽きないですので、機会があればと思いますが。
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(以上、06年4月18日参議院法務委員会議事録から転載)

 通則法に限らず、法務委員会を通じて制定される多数の法律について、法制審議会を始めとして意見が分かれている場合でも一定の条文化がなされるその過程が法務委員にも分かりにくいと表明されています。法案の審議時間が短いということが通則法案に遠くながらも関わったことでよく分かりましたので、「これは今回で尽きない」し、この点について審議がなされる「機会があればと思」っておられてもその機会は永久に(?)得られないのではないかという疑問を強くもちます。
 法制審議会などの人選も重要で、その点に触れる機会があればとも思いますが、問題はそれだけでなく、法制審議会で要綱が取りまとめられた後の条文化を担当する部局の作業にメスが入らないと、根本的な問題の解決にはならないのであろうと思います(こんなこわいことは、誰にもできないと思いますけどね)。さらに言えば、そもそも「法例研究会」の検討項目自体、法務省からの注文によるものだったように聞いていますし、もしそれが事実なのであれば、最初から最後まで法務省主導の立法であったことになり関係した研究者はうまく利用されただけということになるのかもしれませんが、さらにその裏があるのかもしれないという疑問もあり・・・(いずれにしても、疑念を表するのみといたします)。
 それにしても、日本法の英訳にも研究者が使われていますし、いろいろな要因でのここ数年の研究力の低下を危惧しています。素材になる興味深い裁判例の公表も激減しましたし・・・ この構造は極めて根深いと思われますが、私の手に余りますので、今日はこのへんで失礼します。

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2006年7月29日 (土)

「法の適用に関する通則法」6月14日衆院法務委質疑から

 さて、本題に戻りまして、去る6月14日(水)午後に行われた衆議院法務委員会における枝野幸男委員(民主党)の質疑から、いくつかの点について抜粋してコメントしておきます。

(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○枝野委員 今の大臣の御答弁のうち、予見可能性ということについては、そもそもが、原則的な準拠法の決定に当たって、十七条では、「その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。」ということで、不法行為、加害者の予見可能性を十分考慮した上で連結点が決定しているわけなんですね。これで、予見可能性という意味では十分過ぎるのではないのか。
 つまり、予想される結果の発生地でどういう法が適用されるのかということは、国境を越えて移動したり、国境を越えてビジネスをしたりという人は、当然その結果の発生し得るであろう地の法のことを予見することは可能であるわけですし、それが予見できないときには行為地ということですから、行為地の法についてもこれまた当事者として当然その法体系については予見可能なわけですから、予見可能性ということからすれば、もう不法行為の原則的な準拠法決定のルールで十分であると私は思います。
 むしろ、その上で、不法行為が公の秩序に関する制度であるということを踏まえた上でも、先ほど来申し上げているすき間が、国際的なお互いの協調関係を優先するのか、我が国の内国法を優先するのかということの違いにすぎない問題だと私は思います。
 そのことを考えたときに、最終的に我が国の裁判所が我が国の公序良俗に反するような判決は出せないという担保がとれていれば、我が国の法制度としては余り考えていなかったとか、我が国の制度としてはそこまでは考えていなかったんだけれども、だけれども、最も関連の深い準拠法に基づいていけばそれが認められたり、あるいはその額が認められたりということがあって、なおかつ我が国の公序良俗に反しないんだとすれば、国際私法の理念からすると、それを頭からはねのけるというこの二十二条の規定は必要ないと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○杉浦国務大臣 先生のような御意見も十分あり得るものと思います。検討の過程でもいろいろあったようですが、経済界からは、強く、削除しないでほしいという要望があったというふうに聞いております。
 実際の取り扱いとしては、先生おっしゃったとおり、日本の裁判所は、このような規定、あるいは四十二条であっても、あるいはこの特別留保条項を設けたからある意味では明確になったと思いますが、日本の公序良俗に反するような請求を認めないだろうということは、私もそのように思っております。
○枝野委員 僕は、経済界がぜひ残してくれと言ったということ自体が、余りよくわからないで経済界は言っているんじゃないのかなと。多いんですね、経済界は、消費者契約法なんかのときも僕は思ったんですが。ちゃんとわかって、それは困ると言ってもらうんだったらいいんですけれども、何かイメージとして、とにかく自分たちの責任が重くなりそうな話は初めから反対するみたいな硬直的な姿勢があって、ここも、十七条できちっと、結果発生地が連結点であっても、その地における結果の発生が通常予見することができないときは除外されているんですから、一般的にといいますか、問題ないんですよね、予見可能性という観点からは。
 経済界の皆さんが、日本の製品は世界じゅうで使われるわけですから、いろいろなことを心配する、自分が全然知らない国でとんでもない損害賠償の額が認められるようなことになったら困るとかという心配をするのであれば、むしろ、この十七条の結果発生が通常予見することができないものであったときの意味、解釈をきちっと限定するというか広目に見る、そういうことをするべきなのであって、ちょっとこの特別留保条項のところでというのはピントが外れていると実は私は思っております。
 だからといって、この法案に反対するというわけじゃありません。特にこれを聞いていらっしゃる法務省の皆さんには、今後もこういった話はあると思いますので、率直に言って、経済界の闘うところのポイントがずれていると時々思いますので、ここはそのずれている一つの明確な大きなポイントだろう。むしろ、日本の経済界が意図しない、そして予想できないような結果を生じないためにということであったら、十七条の規定ぶりとかここの解釈であるとか、こういうところのことについてもっと詰めた議論をする方がずっと大事ではないかということを申し上げておきたいというふうに思います。(後略)
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 今般の改正で法例11条2・3項の特別留保条項が文言の若干の変更とともに通則法22条として残った理由が予見可能性の確保といった点にないことは、前々回の投稿(「衆院法務委参考人質疑から(その2)」)で法制審議会国際私法(現代化関係)部会の議事録を転載してありますので、ご確認ください(経済界の危惧は、まともに受け取ってもらえなかったということでしょうか?)。

(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○枝野委員 (前略)まさに私たちは、個人の氏を含めた名前というのは個人の人格権にかかわるような話であるから、個人ごとに自己決定権があるはずである、したがって、結婚した場合にどういう氏を名乗るのかということについても、最終的な決定権はそれぞれの個人が決めればいい、したがって、結婚したときに、これは日本の最近の伝統、あえて最近のと言いますが、わずか百年余りの最近の伝統としては夫婦同じ氏ということがありますから、だから夫婦同じ氏にしたいという人はそうしたらいいけれども、自分はそうじゃないことをしたいという人については、従来の氏を名乗り続けるという個人の人格権を認めて何ら問題がないということをずっと申し上げてきておるんですが、そういう考え方は、今おっしゃった夫婦の氏についての国際私法的な我が国としての従来の解釈とむしろぴったりと合致をするということになるわけですよね。
 これに反対する皆さんは、そんなことを認めたら日本の公序良俗が崩れるとかということをおっしゃるわけですけれども、しかし、現行の法例、従来からの法例に基づいても、今度の、今のおっしゃった解釈によっても、一方が日本人である国際結婚をした夫婦で、日本が常居所地であるという夫婦であっても、相手の国が別姓原則であれば別姓になる、あるいは別々にそれぞれの国の法律で決まるわけですから、夫婦で同じ氏にならない。つまり、日本の国内において、日本を常居所地とし、日本法を本国法とする夫婦であっても、夫婦別姓というのは現実的に現行法でもう認めているわけですね、従来から法例において。もし部分的でも夫婦別姓を認めると日本の公序良俗が崩れるというんだったら、法例ができたときから崩れている、こういうことになるわけですよね、大臣。
○杉浦国務大臣 法例の解釈の問題として運用されてきている問題だと思います。
 先生と申しますか、先生たちが主張しておられる選択的夫婦別姓制度の導入というのは、これはすぐれて立法政策の問題でございまして、民法を改正しなきゃなりませんが、この問題については国内でさまざまな議論があることは、もう申し上げるまでもないと思います。婚姻制度とか家族のあり方、国際的な保護とも関係がないわけじゃありませんけれども、まず国内の問題としてどうするかという重要な問題でございまして、国民各界各層でさまざまな議論がございます。まだ各方面の十分な御理解を得ることが難しい状況にあると言わざるを得ないと私どもは認識をいたしております。
○枝野委員 大臣とこれ以上詰めてもしようがないんだろうと思うんですが、理屈を申し上げれば、日本人はすべからく、すべての日本人が結婚したら夫婦で同じ氏を名乗るべきだという価値観に立たれるのであるならば、国際結婚をして夫婦別氏になっている夫婦に対しては、この国際私法の四十二条を適用して、日本の公序良俗違反だから同じ氏を名乗れという主張をしないと、論理矛盾であります。国際結婚の場合だったら夫婦別でもいいんだったら、本人がどうしても別の氏にしたいという人について例外を認めても何ら公序に反することはないというのがロジカルな話であって、もともと選択的夫婦別姓反対論は論理性がないと僕は思っておりますが、この一点でも明らかに論理性がないということを申し上げておきたい。感情論にすぎないということを申し上げておきたい。
 ちなみに、私個人は夫婦別姓にしたいと思っていませんし、現に別姓ではありませんし、もしも別姓の制度が通っても別姓にしようとは全く思っていない、そのことを念のために申し上げておきたいというふうにつけ加えておきます。(後略)
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 国際私法上の公序則(法例33条→通則法42条)が実質法上の公序良俗(民法90条)などと比べて寛容であるということを、枝野委員ともあろうお方がご存じないということはないはずです。国際結婚については夫婦別姓に対して寛容であっても、日本人同士の結婚については夫婦同姓を維持するということは、論理的に全く問題ありません。
 ちなみに、現時点では私個人は夫婦別姓は支持しませんが、法例改正反対の立場を採っておられた一番の同志は選択的夫婦別姓論者ですし、その議論に相応の理由があることについての認識を有していることも、念のため付言しておきます。

(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○枝野委員 それでも、これは通告しておりませんので御答弁は結構なんですが、なかなか悩ましいことは出てくるんだろうと。
 今政務官がお答えをいただいたように、アメリカの飛行機メーカーがつくって、被害に遭ったのがアメリカ人であれば、アメリカ法を適用しましょうね、これはわかりやすいんですけれども、例えば、飛行機を製造したのがアメリカでした、日本の航空会社が引き渡しを受けて、それに乗っている例えば中国人の方が被害に遭ったとしましょうといったときに、さあどこの法を適用したらいいのかというのは、なかなか難しい話だろうと思います。十七条とそれから二十条とを駆使して解釈をしても、非常に悩ましい話ではないかと思います。(後略)
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 この点は、「17条・18条について」で簡単に触れましたし、授業でも設例を通じて若干の検討をしましたし、だいたいの問題点は把握しました。いずれにしても、裁判所の現場感覚に期待するしかないでしょう。勇気を出して、思い切った解釈論を展開するか、20条を積極的に活用するか、ともかく具体的妥当性を確保する試みは、(あまりにも微力ながらも)積極的に応援したいと思っております(やはり、ここらあたりの考えられる議論を整理して、きちんとしたものを残しておく必要がありますね)。

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2006年7月 9日 (日)

「法の適用に関する通則法」衆院法務委参考人質疑から(その2)

 前回に引き続いて、「法の適用に関する通則法」についての6月14日(水)の衆議院法務委員会における参考人質疑から抜粋しておきます。
 今回は、石関貴史委員(民主党)の質疑から、前回の柴山昌彦委員(自民党)の質疑から最後に転載した部分で出された設例についてさらに言及された部分を抜粋します。

(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○石関委員 引き続き、鈴木先生にお尋ねをしたいと思います。
 この法改正によって不法行為の準拠法が見直されることになった、このことに関して、特にわかりやすく事例を挙げて実務的な御説明をいただければと思います。(後略)
○鈴木参考人 先ほど、途中までお話しさせていただきましたが、例えばヨーロッパのある国で製造されたエスカレーターがあるとします。そのエスカレーターが日本に輸出されまして、日本のデパートに設置された、そのエスカレーターに乗った子供がそれによって事故を起こされたという事案を考えてみたいと思います。
 この場合には、子供とエスカレーターの製造メーカーとの間には契約関係がございませんので、まず不法行為というものの成立が考えられることになります。メーカーは外国の会社であり、子供は日本人でございますので、国際的な事件でございます。
 今回の改正されました法案によりますと、結果発生地法ということでございますので、日本法が適用になるというふうに言えると思います。ただ、このエスカレーターが日本に輸出されることを知らなかった、とても日本向けの輸出品ではなかったという場合には、日本に行くことを予測していなかったということでございますので、加害者であるエスカレーター製造国の法律が適用になるというふうに考えております。
 その意味では、これまで不法行為につきましては、原因事実発生地ということで大きな解釈論争がありまして、個々の事件ごとに何回も何回も膨大な解釈論争をしていなければいけなかったんですが、今回の改正によりまして、まず原則が決まりまして、例外も決まりましたので、そういう意味では争点が簡便化したというふうに言えるのではないかと思います。
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 上記の設例では、まず不法行為の準拠法に関する原則規定である通則法17条が問題になります。そこでは結果発生地法が原則ですから(同条本文)、原則として被害者側の日本法が準拠法になりそうです。しかし、外国のエスカレーター製造会社にとってその地での結果発生が(日本の国際私法として)「通常予見」不可能だと判断される場合には、瑕疵あるエスカレーター製造行為の行われた地である行為者側の法が準拠法になりそうです(同条但書)。
 以上で終わりであれば、「争点が簡便化した」と言えるかもしれません。しかし、現行法例11条1項の「原因事実発生地」に関する実際の事例において「膨大な解釈論争」などという大げさなことはほとんどなされていないはずです。それに、前回の投稿で最後に引用した部分において鈴木五十三参考人ご自身が述べておられたように、通則法20条によるチェックはほとんど常について回ることになるのではないでしょうか?
 現に、上記の設例についてよく考えてみてください。仮に外国のエスカレーター製造会社の予見可能性がないとしても、だから当該外国法が準拠法になるという17条但書の帰結に納得できるのでしょうか? たとえ予見できなかろうと、日本で結果が生じて現に被害者が出た以上、日本法によってもらわないといけないのではないでしょうか? このことから考えると、17条全体の趣旨は、行為者に予見可能性がなければ加害行為地法によるという17条但書の存在によって、(本文の被害者保護という外観と異なり)行為者の予見可能性の最重視ということになっていると思います。被害者側の事情は関係ないのですから。エスカレーターに乗るときは、日本製か否か、確認しないといけませんか??

 ところで、不法行為については、パブリックコメントの結果を受けて要綱案作成に向けた法制審議会国際私法(現代化関係)部会の第26回会議(全28回)において、法例11条(特にその2項)に関する頭にくるやりとりがありました。6月14日(水)午後からの枝野幸男委員(民主党)の質疑にも関係しますので、抜粋して転載しておきます(ちょうどこの日の1年前のことだったんですね)。

(以下、
05年6月14日国際私法(現代化関係)部会第26回会議議事録から転載)
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● 事務局がA案でよろしいですかというふうにお聞きした趣旨ですが,先ほども申し上げましたように,現に11条2項を適用して妥当な結論を導いている判決がある。平成14年のカードリーダー事件がまさにそうで,この判決自体についての評価は分かれるところだと思いますけれども,この部会で知的財産権の侵害について特則を設けるかということについては時期尚早だということで今回提案できませんでしたので,知的財産権の侵害に関しては,今後もカードリーダー事件が最高裁判例として生きていくんだろうなというふうに考えております。そういった意味で,11条2項を今後使い続ける例というのは少なくはないんであろうと。また各国の不法行為法制はさまざまですから,やはりどのような行為が違法とされるかよくわからない--成立における違法性の問題もそうですけれども,例えば時効期間の問題とかもあると思います--そういったものを日本法に照らして,すべて公序によって成立,あるいは請求権の存否それ自体についてカバーし切れるかどうかというのは,今決断することは非常に危険なのではないかなというふうに思っております。
  それと,累積適用になる結果,二度手間ではないかということでございますけれども,日本の不法行為法は基本的には緩やかな成立要件を認めておりますので,特殊な不法行為法制というわけではなく,この点につきましても,それほど実務的な支障というのは特に問題であるという声は聞いていないところでございます。
  それから,今回のパブコメでは上がってきませんでしたけれども,マスコミの方から連絡がございました。名誉毀損,信用毀損についての特則を設けるか否かにかかわらず,11条2項の存否は不可欠であるという意見が来ておりまして,いずれ書面で提出させていただくということでございますので,そういった方面からもそういう要望があるという点でございます。
  それと,こういう大きな問題ですので,いろいろな民間企業等を監督しておりますほかの省庁に聞きましても,11条2項を外すのはまかりならんという声がやはり強うございます。2項について内国法の過度の優先であるというような御指摘があるのは重々承知しておりますが,今の状況で11条2項を削るという立法提案をすることは,なかなか難しいのではないか。仮に法制審の総会を通ったとしても,その後の立法過程で,また結局A案になってしまうという可能性が非常に高いのではないかというふうに考えています。何とも歯切れが悪くて申しわけないんですが,立法を担当しております事務当局の感触としては,そういうふうに言わざるを得ないということでございます。
● 
そういうことであれば,11条の規定はもうそのままに置いておくという手もあるんじゃないでしょうか。内容的に変えて,それを現在の規定を裏書きするような形でということになれば,これはなかなか分かりにくいけれども,とにかく11条はそのままにしたという説明ができるんだったら,その方がよろしいんじゃないでしょうか。
  もう一つ言いますと,カードリーダー事件のことを盛んにおっしゃいますけれども,あれで最高裁が日本法では不法ではないというチェックをしたのは,要するに積極的な勧誘行為という言葉ですかね,教唆に当たる行為そのものではなくて,それが域外に及ぶことは日本は射程に入れていないよと言っていることで,要するに適用範囲の問題で言っているだけの話ですよね。要するに不法性そのもの。それはいろいろな意味の不法性があると思いますが,あれに限って言えば,射程範囲が広過ぎるということを言っているだけにすぎないと思うんです。それに限定をして2項のような規定を入れるんだったらまだわかりますけれども,そうではなくて,2項の不法性というのはもっと一般的なチェックなんです。要するにクオリティーチェックをもう一回不法性全体でやろうというわけですから,これはちょっとオーバーインクルーシブだと思います。
● 今の○○委員の御発言,ちょっと確認させていただきたいんですけれども,○○委員は,11条2項を残すぐらいなら,もう11条を全然改正しないでおけと,こういうことなんでございますか。せっかく今日だけでも相当の時間をかけてここの議論をしてきていただいたわけですし,これまでかけた時間は膨大な時間で,それなりに画期的な提案がいろいろ入っていると思うんですけれども,それを11条2項のために全部パーにしてしまうというのは,何か余りにももったいないように思うんですが。
● いやいや,全部がパーじゃないんですよ。11条に関連してということです。
● 11条の関係でも,ここでも8ページ以下,ずっといろいろございますよね。それを全部やめてしまうというのは,余りにももったいないような感じがするんですけれども。
● 一度でもここで審査して,内容的にも手を加えて,しかしやはり2項,3項を維持するというデシジョンメーキングというのは,やはりこれは相当な重みを持つと思います。

-----------------------------
(以上、
05年6月14日国際私法(現代化関係)部会第26回会議議事録から転載)

 議事録だけではその場の空気を含む正確な文脈がはっきりしませんが、議論を重ねてきて「余りにももったいない」から改正するというのはどうなんでしょうか? そもそも、「改正ありき」で大まかな審議日程が決まっていて、必ずしも議論が尽くされず、という形で立法がなされてしまったようなのですが、これが他の法律でもなされているとすると大問題ではないでしょうか? まさか、他の法律では違いますよね?
 さらに、この次の回の議事録からも抜粋して転載します。

(以下、05年7月5日国際私法(現代化関係)部会第27回会議議事録から転載)
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● 私,パブコメの趨勢で,もうこの件は削除しないということに前回決定したという理解でいたものですから,意見を言う必要もないと思ったんですが,実は先ほどの御議論に関して,今回大変,不法行為に関して明確化とか個別の規定化がなされたということで,その内容について非常に私も結構なことだと思っているのですが,ただ本当は,原因事実発生地という裁判官の裁量で不法行為地とも読めるような現行法の規定を結果発生地という形でどんと言い切ったということにつきこの部会では大して反発とか異論とはなかったのですが,知的財産関係者を初め,いろいろな形の方が今回の不法行為の抜本的な改正について違和感というのですかね,同意していないという層もあるということなんです。それで,それに対しては,いや,最終的には当面11条2項,3項は維持されるので,このパッケージで考えれば別に大して弊害が予想されないと。したがって,まずはこういう形で不法行為の原則的連結,それから例外の考え方をすっきりして,それから一方で,弊害については2項,3項があるからいいじゃないかという形で,恐らくいろいろな団体がそういう発想法で今は収斂しつつあるという理解であります。したがって,不法行為の規定がしっかり書かれたから2項,3項はデリートしていいというのは,この内容をよく御存じのこの部会の委員の方はそういう発想をされるのですが,そういう法案をパッケージで提案された国民はそうは受けとめていなくて,おおこんなに変わるんだと。したがって,少なくとも2項,3項は要るのでしょうねと,こういうことでいろいろな組織で恐らく議論がなされ,受けとめがなされたと,こういうふうに理解しています。
  したがって,例えば部会資料37,事務局でおまとめいただいたパブコメ結果の16ページですか,特別留保条項に関しての意見についても,このA案に賛成する意見7団体というのがありまして,これも基本的には個々人ではB案でもいいのじゃないかという意見はあり,先ほどの○○幹事と同じような議論が内部でなされておるのですが,最終的に,機関としての結論がAかBかといったときには,皆さんAに収斂したと,こういう過程があります。
  したがって,この11条2項,3項というのは,この政策を本当に国民に納得していただいて,これを削除とか変更するには時間がかかるのじゃないかと。今回の不法行為の抜本改正を踏まえて,その運用を見て,かつあらかじめこの問題だけに絞って本当に広く国民の理解を得るような何かがないと,いろいろな組織に意見を照会したときに,今まで何十年もあった規定であって,かつ保護されておって問題もなかったというふうに国民は思っている規定について,裁判実務上は先ほど○○幹事が言ったように個別局面でかえって使いづらいとかということがあっても,総体としては,それで大過はなかった規定について,何で抜本的な変更をするんだと。こういう意見を変えてもらうのには相当そのような時間をかけて,かつ実績に基づいて説得・説明・納得できるプロセスがないとなかなか現状の法律を変えろということにはいかないのじゃないかなというふうに受けとめています。
● 全銀協としても,私も何回も申し上げていますけれども,確かに比較法,国際的な平仄とか,学説的にはもう先生方がおっしゃるとおりで,何の反論の余地もないとは思うのですが,パブコメの結果はもちろん,実際の実務の方の意見はAだと。で,我々もアンケートをとった限りは,判例でも使われているし,特にこれ積極的に削除する実務界からの要望があるかと言ったら,それはないということになると。削除するとすれば,特に2項なんですけれども,賛成という意見はなかった。したがって,現行のA案をとらざるを得ませんねというのが,銀行界では一番多かったということでございます。
  それが,国際私法の国際的な平仄から見てどうかというのは,それは大いに問題はあると思うんですけれども,意見としてはそういうことでございます。
● 前回もそうでしたけれども,代表的な御意見をいただいたわけだろうと思いますけれども,これは裁判所とか省庁の方ではどんなふうにお考えでしょうか。
● 裁判所は,特に意見を出していなかったと思いますが,特に特段の意見はないというところでありまして,特段削除という意見もありません。かと言って,絶対維持という意見でもありませんので。あえて何かいじるという強い意見はなかったというところだと思います。
  実際,法を適用する立場としてどうかということに関しては,日本法ですので,日本法を適用する場面では,特に不便は感じていないというのが正直なところであります。
● 事務局として,今回11条2項だけを削除するとか,2項及び3項を削除するという提案はしていなくて,現行法の特別留保条項維持という前提で要綱案をつくらせていただいているわけでございます。これは,結論的には,もう苦渋の選択といいますか,やむを得ないのではないかというふうに考えておりまして,これは前回も私の方から発言させていただいたことの繰り返しになりますが,やはりいろいろ多様な不法行為類型,いろいろな外国法があるというという中で11条2項,3項が現実に使われているということでございまして,11条2項を適用して妥当な結論を導いた最高裁判決も現にあるということでございます。
  パブコメの結果を見ても,やはり実務的には存置の意見が強うございまして,意見の分布としては割れておりますが,現行法維持ということ,2項を残すということについての団体からの意見というのはかなり多数あるということでございます。
  それから,先ほど特殊ないろいろな態様の不法行為があるというふうに申し上げましたけれども,特に民放連とか,NHKからは11条2項を残してほしいという意見も来ておりますし,私のレベルで事実上ほかの官庁ですね,ほかの省庁から伝えられている意向としても11条2項,3項がないと困るというような意向が伝えられておりまして,たとえ法制審で11条2項を削るというような立法提案を通したとしても,閣議決定までの間の他省庁との調整の過程でまた修正されてしまう可能性もなきにしもあらずということでございまして,この部会でもこれだけ議論が割れていることからもわかりますように,今何の規定もなく新たな条文として特別留保条項を設けるという立法とは異なり,現在ある条文,現在機能している条文を削るかという問題ですので,やはりこれは時間をかけて十分議論した上でコンセンサスに近い形で削除するという,そういう決断をやはりすべきであって,この現状においては11条2項,3項は残さざるを得ないのではないかなというふうに考えております。
  学会からの御指摘は非常にごもっともなところがありまして,その御意見は,議事録にも十分残りましたし,この方向で立法された場合には,思う存分批判論文をお書きになって,また今後の改正の時期の到来を期していただきたいというふうに事務局としては考えております。
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(以上、
05年7月5日国際私法(現代化関係)部会第27回会議議事録から転載)

 法例11条2・3項は、学説上は削除すべきだというのが立法論上の通説で、引用した部分の直前にはそのような意見が続いていました。それを、事務局を含む実務サイドが現実の必要性から押さえ込んだという文脈になっています(以上2つの転載部分の前後は、実際に確認してください)。
 以上のやりとりは、法例改正は不要という立場に立ってきた私にとって非常に興味深い部分ですし、腹立たしさも覚える部分ですが、今日はこれまでにします。

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2006年7月 8日 (土)

「法の適用に関する通則法」衆院法務委参考人質疑から(その1)

 今回(と次回?)は、「法の適用に関する通則法」についての6月14日(水)の参考人質疑から抜粋しておきます。
 今回は、柴山昌彦委員(自民党)の質疑から。

(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○柴山委員 ありがとうございます。
 それでは、法案の中身について具体的にお伺いしていきたいと思います。
(中略)
 労働契約に関しては、これは割とすんなりと、労務提供地を労働契約に最も密接に関係する地の法という形で推定をなさっているというか、そういう法案になっております。
 EUでもそういった定めがなされているということは伺っているんですが、ただ、それですと、労務提供地を労働者保護が少ないところにあえて持っていって、それで働かせるというようなことも当然考えられるわけでして、消費者のところで日弁連さんが御提案されたように、例えば労働者の常居地、さまざまなフォーラムの中から、労務者に一番有利なものを選択する自由を認めるべきではないかという主張も恐らく考えられるところではないかと思うんですが、これについて日弁連の御意見はどうなんでしょうか。
○鈴木参考人 日弁連としまして、労務提供地をもちまして最密接関連地と推定するということに賛同いたしましたのは、労働者自身が日常的に業務を通じまして服さなければいけないさまざまな取り決め、それはやはり労務提供地が中心になるだろうということでございます。
 例えば、日本の労働者が日本におきまして外国の企業との間で労務契約を締結して、準拠法が外国法になるというような場合もあるかと思いますが、その場合でも労務提供地である日本の保護を受けるということを念頭に置いております。
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 下線を引いた設例を含む柴山委員の鋭い疑問に対して、正面からの答えはありませんでした。
 柴山委員の設例のような場合には、明示的に「労務提供地法」が選択される(通則法7条)でしょうし、明示の選択がない場合でも最密接関係地法による(同8条1項)ことから現行法例7条1項におけるような黙示の意思の(執拗な?)探求はなされず「労務提供地法」が最密接関係地法と「推定」される(同12条3項)ことが多くなるとすると、この「労務提供地法」の意義は極めて大きいことになります。
 しかし、12条の趣旨は労働者の保護にあるということですから、本条の「推定」はあまり強いものではなく、労働者の契約時における常居所地法も相当の重みをもつと考えます(立法関係者の見解はそうではないのでしょうし、授業でもその推測される見解を前提に話しましたが、私見は違います)。いずれにしても、規定を細かくしたところで、事案をよく見て判断すべきことに変わりがあろうはずはありませんよ。(条文操作の手間がかかる分、鬱陶しくなりますが。11条に顕著でしょう!)

(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○柴山委員
(前略)
例えば消費貸借契約ですね、お金を貸します、借りますと。日本の法制では、お金を貸すというところは契約の内容になっていないんですね。これは要物契約として契約の成立要件にはなっていますけれども、あくまでも、債権債務の関係としては、貸した後のお金を返すというところが債務の内容となっているわけです。そうなると、日本の法律では、お金を借りた人が一方的に貸し主に対してお金を返さなければいけないということが債務の内容になっているわけですね。
 そうなると、給付というのは、お金を借りた方が貸した方に対してこれを渡さなければいけない、返さなければいけない。だから、これが特徴的な給付になるのかということですね。あるいは、準消費貸借契約という類型があります。これは、例えば売買契約によって、代金債務を貸し金債務に切りかえるというような場合ですね。こうした場合に、果たして特徴的な給付というのは一体どういう考え方をすればいいんだろうかということについて、鳥居先生、ぜひ伺いたいと思います。
○鳥居参考人 実は、この特徴的給付というのは大変難しいところがございまして、今、質問者の方が言われましたような問題点はございます。したがいまして、特徴的な給付があると言える場合についてはこの推定を行うことになるわけでございますので、それが非常に不明確であるという場合には推定は働かない。推定でございますから、反証ができるということでございます。
○柴山委員 鈴木先生から、もし今の事例について何か補足されることがあれば。
○鈴木参考人 不明確な点につきましては、判例法の集積であるとかによってこれから明らかにされていくと思いますが、今の御質問の例でいきますと、消費貸借契約自体の弁済は金銭の弁済にすぎないということで特徴性がないんじゃないかというのもありますけれども、恐らく締結された時点で、例えば債務者の資産であるとか債務者の責任財産の状態であるとか、そういったその時点における最も密接に関連する場所というのは比較的容易に見出せるのではないだろうかと思います。
 従前の場合ですと、それを行為地という概念でやっておりましたので必ずしも明確ではなかったということでありまして、今回の法律である密接関連地という概念の方がより便宜にかなっているのではないだろうかと思います。
○柴山委員 ちょっと事前にいろいろと勉強させていただいた範囲では、むしろ逆に、例えばお金を貸すという契約の場合は、貸し主、要するに債権者ですね、債権者の貸す行為自体を何か特徴的な給付と考える考え方もあるというように聞いておりますので、このあたり、本当に基本的な類型の契約なわけですから、混乱が起きないような形で今後運用がされ、また解釈が積み重ねられていくことが必要なのではないかというように感じております。(後略)
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 これも、なかなかの質問ですね。国際私法の議論において日本民法がどうなっているとかいうのは問題ではありますが、しかし金銭消費貸借契約については事実としては貸借と返済の双方において金銭が授受されるわけですから特徴的給付なしではないでしょうか? 参考人の意見が今一つスッキリしていないように思われますが、いずれにしても、当事者が準拠法を選択していない場合には、最密接関係地法を探求していくのでしょう。その場合に、現行法例では7条2項があって最終的には「行為地法」という逃げ場があったのですが、通則法8条には逃げ場がないことにも、さほど重要ではありませんけれども、一応は注意してくださいな。

(以下、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○柴山委員
(前略)
 被害者が生産物の引き渡しを受けたということの認定が、例えば、被害者の方が第三国で、全く被害者に本来縁もゆかりもないような地で引き渡しを受けて、それを自分の国に持って帰って使う。そして、自分の国で、例えばとんでもない製造物の欠陥によってけがをしたというような場合に、本当に、たまたま購入した第三国、縁もゆかりもない国の法律で、これを日本の裁判所なりが判断するということが妥当なのかどうか。具体的に予見可能性の縛りももちろんあるとは思うんですけれども、こうした原則についての妥当性について、もう少し突っ込んで御説明をいただければと思います。
○鳥居参考人 今おっしゃいましたようなことが起こるわけでございます。したがいまして、例えば、全く思いもかけない、要するに、ある国で、男性の方でしたらひげそりの機械をお買いになって、それをまた旅行によって全然別の国で使っているときに故障が起きてけがをした、そういうような場合というのは当然考えられるわけでございます。
 けれども、これはやはり想定できないということでございますので、一応は、そこにございますように、まだ法案の内容が頭の中に何条と入っておりませんのでもう一度見させていただきますが、生産物責任につきましては常にそういう問題が起きるということは考えられていることでございますので、予見できない場合には、通常予見できないものだということになりまして、生産物の引き渡しということについて法案の十八条はそのように申しておりますけれども、この場合にはやはり事業所の所在地の法になるということが出てくるのではないかと思います。
○柴山委員 そろそろ時間がなくなってくるんですけれども、ただ、今最後に鳥居先生がおっしゃったように、結局、わけがわからないようなところで引き渡しがされてしまったような場合には、その場合は生産者の主たる事業所の所在地の法律で定めることになっているわけでして、これが本当に被害者の保護という観点から妥当性を持つのかどうかということについて鈴木先生にお伺いします。(後略)
○鈴木参考人 まず、先ほどの生産物の引き渡し地の問題でございますが、例外としまして、通常予見することができない場合には、生産業者等の主たる事業所の所在地法になる。それでもだめな場合、それでも不都合のある場合というのが、恐らく、明らかにより密接な関係がある地がある場合というふうに考えるのがいいかと思います。
 例えば、今、外国の生産しましたエスカレーターが日本で生産物のゆえに事故を起こしたという場合を考えたらよろしいと思うんですが、このような場合には、事故に遭った人は決してエスカレーターの引き渡しを受けているわけではございません。そうしますと、一体どこがより密接な関係がある地かというふうに考えますと、恐らくおのずと答えが出てくると思います。(後略)
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(以上、06年6月14日衆議院法務委員会議事録から転載)

 下線を引いた柴山委員の問題意識は、私も共有するものです。
 これに対する鈴木参考人の意見は、少し舌足らずであって次の石関貴史委員(民主党)の質疑において補足されます。ここでは、鈴木参考人の設例のように実際に生じる重要な問題については18条の生産物責任の特則の対象ではなく、また(18条自体に問題があるとしても)20条の例外条項(回避条項)があるので何とかなると考えておられることのみ読み取ればよいのでしょう。いずれにしても、18条自体の妥当性については、回答を回避されました。
 結局、妙な前提から規定を新設したものの、実際に具体的妥当性を確保しようとすると、20条に負担がかかるという構造の新法ができあがったということになりますね。
 次回でも、このあたりを確認することになるでしょうが、今日はこのへんで。
 柴山委員には、お疲れさまでございました。

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2006年7月 7日 (金)

「法の適用に関する通則法」6月13日衆院法務委質疑から

 6月15日に成立し21日に公布された「法の適用に関する通則法」についての衆議院法務委員会における質疑から、同法の中身に関して参議院法務委員会の質疑よりも踏み込んだやりとりがあれば、抜粋などしておきます。まとまった時間はとりにくいので、何回かに分けてやります。

 今回は、6月13日(火)の質疑から。
 まず高山智司委員(民主党)の質疑で国籍関係が中心、次に平岡秀夫委員(民主党)の質疑で証券取引関係が中心でした。いずれも、上記法案の中身についての質問は少なく、何のための法案の審議かと思いました(重要な問題を扱っておられたとは思いますが)。
 一般論として、自民党総務会を通過して提出される法案が国会で否決などされることはまずないのでしょうが、共謀罪の例もあることを考えれば、やはり正面から審査の対象になっている法案の中身を審査すべきでしょう。重要だけれども審査対象の法案の中身と無関係な質疑が各法案でなされてしまうのでは、官僚側からすれば、常に法案とは無関係な問題が生じている方が法案を成立させやすいことにならないのでしょうか?
 国会内の勢力分布からいって、民主党は想像以上に困難な立場に置かれているのでしょうが、それでも逆に言えばどうせ法案は通ってしまうのだから突っ込むだけは突っ込んでおいていただきたかったと思います。
 この日の答弁で1か所どうも気になる点がありますので、引用しておきます。

(以下、06年6月13日衆議院法務委員会議事録から転載)
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○平岡委員 それで、そうすると気になるんですけれども、今の法案の第十二条の中で、例えば一項を見たら、「労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、」「その強行規定をも適用する。」こう書いてあるけれども、今の説明だと、そんな意思表示をするまでもなく強行規定が適用されてしまうんだというようになっていて、どうもこの法律と今の説明とは整合性がとれていないように思うんですけれども、どうですか。
○寺田政府参考人 ちょっとその関係を整理させていただきますと、もともと私人間の契約というものは、これは原則どおり私人が選択することができるということになるわけでございます。これは全く私法上の契約でございます。
 そこで、次に、その私法上の契約について、一定の強行規定というのがその法体系の中にあり得るわけであります。これは、例えば日本とどこかの外国の関係者とで労働契約がされた場合に、そのどこかの外国の法律でもってその契約が行われるということを当事者が決めたという場合に、それでも、しかしより密接な関係があるどこかの国の、別の国の法律の強行規定が適用になる場合があり得る、それを十二条が指しているわけで、例えば、そういう労働契約については書面がどうしても必要だというような規定が仮にあるとしますと、そういうことをここで特に労働者側から主張すれば、そういう法の適用関係が実現できるというのが、ここの十二条の趣旨であります。
 これに対しまして、先ほど来委員が御質問なり厚生労働省の方でお答えになっておられる問題は、ここの、その当該労働供給が行われる地の行政的な規制、これについては、当事者がどのような法律関係を自分たちの労働契約に適用するというふうに決めても、それは強行的に適用されるわけでありまして、こういういわば法廷地と申しますか、そこの強行規定の適用ということと十二条で問題にしている強行規定の適用というのは次元を別にする問題でございます。
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(以上、06年6月13日衆議院法務委員会議事録から転載)

 通則法12条1項の「特定の強行規定」の例として、寺田逸郎法務省民事局長は、「労働契約については書面がどうしても必要だというような規定」と述べておられます。これは、「方式」の問題でなく、「成立」(実質)の問題だということでしょうか? 率然とこのように言われてしまうとよく分かりませんので、解説を出される際にはこの点の説明もしておいていただきたいと思います。

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2006年6月23日 (金)

「法の適用に関する通則法」15日成立・21日公布

 ずいぶん経ってしまいましたが、「法の適用に関する通則法案」は15日(木)の衆議院本会議で可決され、「法の適用に関する通則法」が成立しました。同法は、21日(水)に公布されました。
 今日の「国際私法」の授業では、法適用通則法(どういう略称になるのでしょう?)12条を採り上げました。しかし、何故このような規定が現実問題として必要になったのか、どうもピンと来ません。「特定の強行規定」とは具体的に規定を特定する必要があるのか、「労務を提供すべき地」というのには一時的な派遣先のようなものは入らないのか等、はっきりとは分からないところがありますので、どなたか早いところ解説を出してください。
 13日(火)の衆議院法務委員会での上記法案に関する最初の質疑の議事録が公表されたのですが、来月初めまで余裕がありませんので、議事録が読めるようになっていることのみお知らせしておきます。

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2006年6月15日 (木)

「法の適用に関する通則法」衆議院法務委員会通過

 いやはや、参りました。やはり、今回も直接の働きかけをしておくべきでした(たとえ質疑に反映しなかったとしても)。当然に、少なくとも(それなりに充実した)参議院法務委員会での質疑だけでも踏まえて、そのうえでさらに突っ込んだ質疑がなされるものと思い込んでいましたが・・・ 民事局長の答弁が皆無であったことが、全てを物語っています。「共謀罪」の見送りと引き換えにされたんでしょうかねえ?
 昨日(14日)、衆議院法務委員会において、「法の適用に関する通則法案」についての参考人質疑および質疑が行われ、採決の結果、可決されました。これらについては、議事録が出てから、最低限の整理をしたうえで、いくつかの教訓を引き出せれば、と思っています(本ブログの役割は、それで終えるものと、現時点では認識しています)。

 話を換えます。先日、「平成17年度重要判例解説」が出ました。国際私法1として、駒田泰土上智大学助教授が「商標権移転契約の準拠法」に関する、東京高判平成16年8月9日判例集未登載とその原判決の解説を書かれています。私見をその趣旨まで理解したうえで正確に引用してくださって、本当にありがたく思います(私は評釈には自信があります-簡単な自己流のノウハウもあります-が、解説は全く不得手です)。駒田解説には、その書き方において教えられるところが大いにありますし、国際知的財産法に関心のある方は、ぜひお読みいただければと思います。

 ついでですが、新司法試験の第1問の設問2で、外国離婚判決と扶養義務の準拠法に関する法律4条1項との関係が問われました。これって、昨年前期の授業で、問題演習しておいたのですよね。みんな、できたかなあ?(こわくて、聞いていないのです。)
 今年度後期の「国際私法基礎」については、当初の登録者数がほぼ倍増のようです。もしこの全員がとると、現在のようなケアは難しくなってしまいますが・・・
 不出来な法案でも、教育者としては、それを前提に授業せざるを得ず、ぼちぼち「法律行為」や「不法行為」を扱わねばならなくなったところで、法案可決ということで。まあ、嫌でも何でも、これで授業やりますよー。しばらくは、私自身が重たい気分でしょうけど・・・、ご容赦ください。

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2006年6月13日 (火)

「法の適用に関する通則法」14日参考人質疑・採決へ

 本日(13日)午後1時39分頃から3時40分頃まで、衆議院法務委員会において「法の適用に関する通則法案」の質疑が行われました。ほとんどの質問が法案の中身とは無関係なもので、特に引用すべき質疑もありませんでした(官僚の思うつぼですね。この点については、後日書きます)。
 明日(14日)は、午前10時から30分、参考人の意見陳述の後、11時30分まで参考人質疑、午後1時からの本会議終了後1時間の質疑がなされた後、採決が予定されているようです。予定されているお二人の参考人は、バランスのとれた最適の人選であろうと、たいへん僣越ながら、思います。どのみち可決されるのだとしても、最後まで法案の中身をきちんと吟味していただきたいと思います。税金を納めた甲斐があったと感じられるように、ぜひよろしくお願い申し上げます。

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