特別留保条項(22条)が残った理由-国際私法(現代化関係)部会議事録から(ほぼ転載)
今回は、通則法制定後に出た教科書類の改訂版にはきちんと書かれていない、特別留保条項(22条:法例11条2・3項)が残った理由について、法制審議会国際私法(現代化関係)部会の議事録から、改めて核心部分を転載しておきます。
よくお読みください!
(以下、06年7月9日(日)「衆院法務委参考人質疑から(その2)」から一部転載)
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ところで、不法行為については、パブリックコメントの結果を受けて要綱案作成に向けた法制審議会国際私法(現代化関係)部会の第26回会議(全28回)において、法例11条(特にその2項)に関する頭にくるやりとりがありました。6月14日(水)午後からの枝野幸男委員(民主党)の質疑にも関係しますので、抜粋して転載しておきます(ちょうどこの日の1年前のことだったんですね)。
(以下、05年6月14日国際私法(現代化関係)部会第26回会議議事録から転載)
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● 事務局がA案でよろしいですかというふうにお聞きした趣旨ですが,先ほども申し上げましたように,現に11条2項を適用して妥当な結論を導いている判決がある。平成14年のカードリーダー事件がまさにそうで,この判決自体についての評価は分かれるところだと思いますけれども,この部会で知的財産権の侵害について特則を設けるかということについては時期尚早だということで今回提案できませんでしたので,知的財産権の侵害に関しては,今後もカードリーダー事件が最高裁判例として生きていくんだろうなというふうに考えております。そういった意味で,11条2項を今後使い続ける例というのは少なくはないんであろうと。また各国の不法行為法制はさまざまですから,やはりどのような行為が違法とされるかよくわからない--成立における違法性の問題もそうですけれども,例えば時効期間の問題とかもあると思います--そういったものを日本法に照らして,すべて公序によって成立,あるいは請求権の存否それ自体についてカバーし切れるかどうかというのは,今決断することは非常に危険なのではないかなというふうに思っております。
それと,累積適用になる結果,二度手間ではないかということでございますけれども,日本の不法行為法は基本的には緩やかな成立要件を認めておりますので,特殊な不法行為法制というわけではなく,この点につきましても,それほど実務的な支障というのは特に問題であるという声は聞いていないところでございます。
それから,今回のパブコメでは上がってきませんでしたけれども,マスコミの方から連絡がございました。名誉毀損,信用毀損についての特則を設けるか否かにかかわらず,11条2項の存否は不可欠であるという意見が来ておりまして,いずれ書面で提出させていただくということでございますので,そういった方面からもそういう要望があるという点でございます。
それと,こういう大きな問題ですので,いろいろな民間企業等を監督しておりますほかの省庁に聞きましても,11条2項を外すのはまかりならんという声がやはり強うございます。2項について内国法の過度の優先であるというような御指摘があるのは重々承知しておりますが,今の状況で11条2項を削るという立法提案をすることは,なかなか難しいのではないか。仮に法制審の総会を通ったとしても,その後の立法過程で,また結局A案になってしまうという可能性が非常に高いのではないかというふうに考えています。何とも歯切れが悪くて申しわけないんですが,立法を担当しております事務当局の感触としては,そういうふうに言わざるを得ないということでございます。
● そういうことであれば,11条の規定はもうそのままに置いておくという手もあるんじゃないでしょうか。内容的に変えて,それを現在の規定を裏書きするような形でということになれば,これはなかなか分かりにくいけれども,とにかく11条はそのままにしたという説明ができるんだったら,その方がよろしいんじゃないでしょうか。
もう一つ言いますと,カードリーダー事件のことを盛んにおっしゃいますけれども,あれで最高裁が日本法では不法ではないというチェックをしたのは,要するに積極的な勧誘行為という言葉ですかね,教唆に当たる行為そのものではなくて,それが域外に及ぶことは日本は射程に入れていないよと言っていることで,要するに適用範囲の問題で言っているだけの話ですよね。要するに不法性そのもの。それはいろいろな意味の不法性があると思いますが,あれに限って言えば,射程範囲が広過ぎるということを言っているだけにすぎないと思うんです。それに限定をして2項のような規定を入れるんだったらまだわかりますけれども,そうではなくて,2項の不法性というのはもっと一般的なチェックなんです。要するにクオリティーチェックをもう一回不法性全体でやろうというわけですから,これはちょっとオーバーインクルーシブだと思います。
● 今の○○委員の御発言,ちょっと確認させていただきたいんですけれども,○○委員は,11条2項を残すぐらいなら,もう11条を全然改正しないでおけと,こういうことなんでございますか。せっかく今日だけでも相当の時間をかけてここの議論をしてきていただいたわけですし,これまでかけた時間は膨大な時間で,それなりに画期的な提案がいろいろ入っていると思うんですけれども,それを11条2項のために全部パーにしてしまうというのは,何か余りにももったいないように思うんですが。
● いやいや,全部がパーじゃないんですよ。11条に関連してということです。
● 11条の関係でも,ここでも8ページ以下,ずっといろいろございますよね。それを全部やめてしまうというのは,余りにももったいないような感じがするんですけれども。
● 一度でもここで審査して,内容的にも手を加えて,しかしやはり2項,3項を維持するというデシジョンメーキングというのは,やはりこれは相当な重みを持つと思います。
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(以上、05年6月14日国際私法(現代化関係)部会第26回会議議事録から転載)
議事録だけではその場の空気を含む正確な文脈がはっきりしませんが、議論を重ねてきて「余りにももったいない」から改正するというのはどうなんでしょうか? そもそも、「改正ありき」で大まかな審議日程が決まっていて、必ずしも議論が尽くされず、という形で立法がなされてしまったようなのですが、これが他の法律でもなされているとすると大問題ではないでしょうか? まさか、他の法律では違いますよね?
さらに、この次の回の議事録からも抜粋して転載します。
(以下、05年7月5日国際私法(現代化関係)部会第27回会議議事録から転載)
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● 私,パブコメの趨勢で,もうこの件は削除しないということに前回決定したという理解でいたものですから,意見を言う必要もないと思ったんですが,実は先ほどの御議論に関して,今回大変,不法行為に関して明確化とか個別の規定化がなされたということで,その内容について非常に私も結構なことだと思っているのですが,ただ本当は,原因事実発生地という裁判官の裁量で不法行為地とも読めるような現行法の規定を結果発生地という形でどんと言い切ったということにつきこの部会では大して反発とか異論とはなかったのですが,知的財産関係者を初め,いろいろな形の方が今回の不法行為の抜本的な改正について違和感というのですかね,同意していないという層もあるということなんです。それで,それに対しては,いや,最終的には当面11条2項,3項は維持されるので,このパッケージで考えれば別に大して弊害が予想されないと。したがって,まずはこういう形で不法行為の原則的連結,それから例外の考え方をすっきりして,それから一方で,弊害については2項,3項があるからいいじゃないかという形で,恐らくいろいろな団体がそういう発想法で今は収斂しつつあるという理解であります。したがって,不法行為の規定がしっかり書かれたから2項,3項はデリートしていいというのは,この内容をよく御存じのこの部会の委員の方はそういう発想をされるのですが,そういう法案をパッケージで提案された国民はそうは受けとめていなくて,おおこんなに変わるんだと。したがって,少なくとも2項,3項は要るのでしょうねと,こういうことでいろいろな組織で恐らく議論がなされ,受けとめがなされたと,こういうふうに理解しています。
したがって,例えば部会資料37,事務局でおまとめいただいたパブコメ結果の16ページですか,特別留保条項に関しての意見についても,このA案に賛成する意見7団体というのがありまして,これも基本的には個々人ではB案でもいいのじゃないかという意見はあり,先ほどの○○幹事と同じような議論が内部でなされておるのですが,最終的に,機関としての結論がAかBかといったときには,皆さんAに収斂したと,こういう過程があります。
したがって,この11条2項,3項というのは,この政策を本当に国民に納得していただいて,これを削除とか変更するには時間がかかるのじゃないかと。今回の不法行為の抜本改正を踏まえて,その運用を見て,かつあらかじめこの問題だけに絞って本当に広く国民の理解を得るような何かがないと,いろいろな組織に意見を照会したときに,今まで何十年もあった規定であって,かつ保護されておって問題もなかったというふうに国民は思っている規定について,裁判実務上は先ほど○○幹事が言ったように個別局面でかえって使いづらいとかということがあっても,総体としては,それで大過はなかった規定について,何で抜本的な変更をするんだと。こういう意見を変えてもらうのには相当そのような時間をかけて,かつ実績に基づいて説得・説明・納得できるプロセスがないとなかなか現状の法律を変えろということにはいかないのじゃないかなというふうに受けとめています。
● 全銀協としても,私も何回も申し上げていますけれども,確かに比較法,国際的な平仄とか,学説的にはもう先生方がおっしゃるとおりで,何の反論の余地もないとは思うのですが,パブコメの結果はもちろん,実際の実務の方の意見はAだと。で,我々もアンケートをとった限りは,判例でも使われているし,特にこれ積極的に削除する実務界からの要望があるかと言ったら,それはないということになると。削除するとすれば,特に2項なんですけれども,賛成という意見はなかった。したがって,現行のA案をとらざるを得ませんねというのが,銀行界では一番多かったということでございます。
それが,国際私法の国際的な平仄から見てどうかというのは,それは大いに問題はあると思うんですけれども,意見としてはそういうことでございます。
● 前回もそうでしたけれども,代表的な御意見をいただいたわけだろうと思いますけれども,これは裁判所とか省庁の方ではどんなふうにお考えでしょうか。
● 裁判所は,特に意見を出していなかったと思いますが,特に特段の意見はないというところでありまして,特段削除という意見もありません。かと言って,絶対維持という意見でもありませんので。あえて何かいじるという強い意見はなかったというところだと思います。
実際,法を適用する立場としてどうかということに関しては,日本法ですので,日本法を適用する場面では,特に不便は感じていないというのが正直なところであります。
● 事務局として,今回11条2項だけを削除するとか,2項及び3項を削除するという提案はしていなくて,現行法の特別留保条項維持という前提で要綱案をつくらせていただいているわけでございます。これは,結論的には,もう苦渋の選択といいますか,やむを得ないのではないかというふうに考えておりまして,これは前回も私の方から発言させていただいたことの繰り返しになりますが,やはりいろいろ多様な不法行為類型,いろいろな外国法があるというという中で11条2項,3項が現実に使われているということでございまして,11条2項を適用して妥当な結論を導いた最高裁判決も現にあるということでございます。
パブコメの結果を見ても,やはり実務的には存置の意見が強うございまして,意見の分布としては割れておりますが,現行法維持ということ,2項を残すということについての団体からの意見というのはかなり多数あるということでございます。
それから,先ほど特殊ないろいろな態様の不法行為があるというふうに申し上げましたけれども,特に民放連とか,NHKからは11条2項を残してほしいという意見も来ておりますし,私のレベルで事実上ほかの官庁ですね,ほかの省庁から伝えられている意向としても11条2項,3項がないと困るというような意向が伝えられておりまして,たとえ法制審で11条2項を削るというような立法提案を通したとしても,閣議決定までの間の他省庁との調整の過程でまた修正されてしまう可能性もなきにしもあらずということでございまして,この部会でもこれだけ議論が割れていることからもわかりますように,今何の規定もなく新たな条文として特別留保条項を設けるという立法とは異なり,現在ある条文,現在機能している条文を削るかという問題ですので,やはりこれは時間をかけて十分議論した上でコンセンサスに近い形で削除するという,そういう決断をやはりすべきであって,この現状においては11条2項,3項は残さざるを得ないのではないかなというふうに考えております。
学会からの御指摘は非常にごもっともなところがありまして,その御意見は,議事録にも十分残りましたし,この方向で立法された場合には,思う存分批判論文をお書きになって,また今後の改正の時期の到来を期していただきたいというふうに事務局としては考えております。
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(以上、05年7月5日国際私法(現代化関係)部会第27回会議議事録から転載)
法例11条2・3項は、学説上は削除すべきだというのが立法論上の通説で、引用した部分の直前にはそのような意見が続いていました。それを、事務局を含む実務サイドが現実の必要性から押さえ込んだという文脈になっています(以上2つの転載部分の前後は、実際に確認してください)。
以上のやりとりは、法例改正は不要という立場に立ってきた私にとって非常に興味深い部分ですし、腹立たしさも覚える部分ですが、今日はこれまでにします。
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(以上、06年7月9日(日)「衆院法務委参考人質疑から(その2)」から一部転載)
以上、22条は、日本の法秩序を守るために、主体的な決断により維持されたものであることに、十分留意する必要があります。
もちろん、17~21条までの規定が<最密接関係原則>に照らして立派な規定であったならば、そして、実務がそれを適切に運用するならば、特別留保条項などというものは、理論的にはあってはならないものであると、私も思います。しかしながら、(運用はこれからのことなので、どうなるか分かりませんが)いずれにしても立派な規定が新設されたとはお世辞にも言えませんから、22条は十二分に活用される必要があります。そうでないと、非常に危ないですから(ところが、おかしな議論もありましてね・・・)。
今回は、このへんで。
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